第23話 祝勝会

「ところでギルドに向かうのはいいんだけど、ここに転がってる奴は放っておいてもいいのか?」

「……あ」


 冒険者の方の指摘で、俺は気絶しているノードの存在を思い出した。

 放置もあれだったので回収した後、俺たちは改めてギルドに向かい歩き始めた。



 ――――



「っ、アイクさん! 来てくれたんですね!」

「エイラ?」


 ギルドに到着するや否や、受付嬢のエイラが血相を変えて駆け寄ってくる。


「実は、先ほど街中に悪魔が出現したとの知らせがあったんです。

 緊急で冒険者の方々を招集していたんですが、なかなか誰も来なくて。

 アイクさんが来てくれて嬉しいです!

 ……あれ? なんだかすごく大勢ですね」


 俺の後ろからぞろぞろと入ってくる冒険者を見て、エイラは瞳を輝かせる。


「これだけ冒険者の方がいれば、何とかなるかもしれません。

 時間はありませんが、すぐに作戦会議をして悪魔から町を守りましょう!」


 ふんすとやる気を漲らせているエイラには悪いが……いや、実際は良いことなんだけど。

 俺は恐る恐る様子を窺うように告げた。



「なんだ、その……悪魔なんだけどな、もう倒したんだ」

「……え? 倒した? 何を? 誰がですか?」

「悪魔をだ。倒したのは俺と、後は――」

「わたしだよっ!」

「ぶいぶい」

「ご主人様の正妻たるわたくしもですっ」

「…………」



 前に出てきたフレアたちを見て、エイラはぱくぱくと口を動かす。

 そういえばエイラは俺の人形がどんな姿なのか知っていたな。

 そのため、話していることに驚いているのだろう。


「す、すみません。

 私には情報量が、多すぎて……」

「エイラ!?」


 ぷしゅ~と。

 頭から蒸気を発しながら崩れ落ちそうになるエイラを咄嗟に支えた。


 うん、事情の説明はもう少し時間をおいてからの方がいいみたいだ。




 それから数十分後。

 ギルドに今回のあらましを伝えた後、祝勝会が執り行われた。


 皆が酒を飲みながら、主に俺たちの話題で盛り上がっている。



「にしても、まだ信じらんねぇんだが、なんで人形が話してるんだ?」

「うーんとね、アイクの愛情を感じ続けてたら心が生まれたんだよ!」

「なるほど! 意味わからん!」



 フレアによる解説は、どうやら理解してもらえなかったようだ。

 まあ、正直なところ俺でも原因が全て分かっているわけではない。

 そういうものだと受け入れてもらうしかないだろう。


「にしても、さすがにまだ疑っちゃうよ。

 人形が意思を持ったってのもそうだけど、それ以上に悪魔を倒しちゃったって言うのがね」

「確かアンタが空にいる悪魔に攻撃してたんだよな?

 本当にそんな力があるだなんて信じられないな」


 冒険者の意識がテトラに向けられる。

 確かにあの華奢な体で悪魔を圧倒していたなど信じ難いことのはずだ。


 テトラは持っていたカップをテーブルに置くと、右ひじをテーブルにつけた。

 腕相撲の構えだ。


「試してみる?」


 その言葉に応えたのは、この場でもっとも巨漢な男性だった。


「ははっ、嬢ちゃん、舐めてもらっちゃ困るぜ。

 俺はCランクだが、力だけならBランクにも負けない重戦士だ!

 そんなか弱い手、折っちまわないか心配になるぐふっ!?」


 瞬殺だった。

 男性は腕だけではなく体ごと宙を一回転するような勢いで投げ飛ばされる。

 おかしい。腕相撲って人が飛ぶ競技だったっけ?



「マジか!? あのマッスラーが負けた?」

「次は俺だ! 絶対に負けねぇぞごべんなざいっ!」



 次々と力自慢の冒険者がテトラに挑んでいくが、皆一瞬で吹き飛んでいく。

 そういうアトラクションなのかな?



「ふふふ、皆さんの意識がフレアたちに向けられている今のうちにっと……」

「リーシア、突然俺の横に来てどうしたんだ。

 何で腕に抱きついてくるんだ。

 どさくさに俺の飲み物に何を入れたんだ」



 気になったこと全てにツッコミを入れてみるが、リーシアは気にしない。


「もう、そんな些細なことは気にしなくても大丈夫ですわ?

 それよりもわたくしとご主人様の愛を育むためにも、お話をいたしましょう?」

「つ、強い……!」


 なんだろうか。

 どうあがいても俺ではリーシアに勝てないような気がする。


 しかし、改めて考えてみれば俺もリーシアと話したいことがあった。

 意思を持った彼女との対面が戦闘時だったため後回しになっていたが、交流を深めることは大切だ。


「リーシア、少しいいか?」

「少しと言わず、いつまでもわたくしの身はご主人様のものですっ」

「……少し気になっていたことがあってな。

 これまでフレアやテトラに比べてリーシアを使役する機会は少なかっただろ?

 なのにどうしてこんなに早く意思を得ることができたのかなって思ってさ」


 リーシアは僧侶型人形(僧侶とは?)である。

 僧侶一番の得意分野といえば治癒魔法だ。

 しかし俺が回避を徹底する戦い方をしているためか、その活躍機会は極めて少なかった。


 だからこそ抱いた疑問だったのだが。

 俺はその質問をしたことを、すぐに後悔することになる。



「……ええ! ええ!

 そこまでご主人様が望むのであれば、事細やかにお話いたしましょう!」

「……ん?」



 流れが変わった。

 リーシアはその場で立ち上がると、周りの目を気にすることもなく自身の思いを語り始めた。



「そう、あれはわたくしとご主人様が初めて出会った日のことです。通常は道具のようにしか扱われないわたくしたち人形に対し、ご主人様は優しく頭を撫でながら、優しくこれから頼むと言ってくださったのです! 好き! そして魔物と戦う際にも自らが先頭に立ち囮になる度胸と男気! 時には心配でわたくしの胸が張り裂けそうになる程でしたわ! 好き!! フレアとテトラばかりを使う日々に切なさを感じた夜も確かにありました! しかしそれは、ご主人様がわたくしを危険から遠ざけるための選択だと知った時にはもうこの想いを留めることはできず……好き!!! これだけではありません、まだまだわたくしとご主人様の思いではございます、それこそ星の数ほど! ええ、ええ、ええ! 夜が明けるまで今ここで全てをお話いたしましょう! わたくしとご主人様の愛の物語を! 愛の物語を!!!」



 リーシアの語る愛の物語とやらは、ギルドから追い出されるその瞬間まで続くのであった。

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