第22話 盛大な称賛

 下級悪魔を討伐し、俺たち四人が十分に喜びを分かち合った頃。

 ダダダダダと、複数人が駆け寄ってくる足音が聞こえた。


 振り向くと、そこにはエルとシーナを中心に十数人の冒険者が立っていた。


「アイクさん! 一般人が避難を終えた後、後方支援を得意とするCランク以上の魔法使いと僧侶の方を中心に連れてきたんですが、これはもしかして……」

「悪魔はいない。既に倒し終えたみたいだね」


 どうやら二人は俺たちの救援に来てくれたようだった。

 シーナの言う通り既に討伐は終えているが、その気持ちが何よりも嬉しかった。


「ありがとう、二人とも。

 今回は俺たちで倒せたけど、もっと苦戦する可能性はあった。

 だから改めて、来てくれて本当にありがとう。エル、シーナ。

 それから……他の冒険者の方々も」


 悪魔を相手にするなど、Cランク冒険者からすれば荷が重すぎるといってもいいだろう。

 にもかかわらず勇気を出して救援に来てくれたことに感謝を伝えたかった。


 悪魔が既に討伐済みだと知った冒険者の方々は、緊張が解けたようで次々と言葉を零していく。



「ははーん、もう倒し終わった後か。俺の活躍を見せられなくて残念だったぜ!」

「とか言いながら、実は安心してるんでしょ」

「べべ、別にそんなことねぇし!?」

「ははっ、まあよかったじゃねえか。何も起きずに済んで。しかし遠目からは空に浮かぶ悪魔が次々と攻撃を受けてやられていくように見えたんだが、それを本当にアンタらがやったんだよな?」



 冒険者のうちの一人がそう問うてくる。

 リーシアの漆黒の炎や、テトラの羽引っこ抜きは離れた場所からでも見えていたらしい。


 ふむ、せっかくだ。

 これは盛大に自慢してしまってもいいだろうか。

 俺の自慢の仲間たちを。



「ああ、俺の大切な仲間が頑張ってくれたんだ。

 フレア、テトラ、リーシア」

「うん、がんばったよ!」

「次はもっとコテンパンにする」

「わたくしはご主人様の願いに応えただけですので」



 各々の反応を見せるフレアたちを見て、冒険者は「ほ~」と感嘆を漏らす。


「こいつは驚いた。こんな年端もいかない嬢ちゃんたちが倒したのか。

 俺が知らないだけで、もしかして有名なパーティーだったりするのか?」

「いや、期待に応えられず申し訳ないが、パーティーは組んでないんだ」

「てことは今会ったばかりってことか? それでいきなり連携して悪魔を倒したってんなら、とんでもねえな!」

「いや、そうじゃなくてだな……」


 何と説明するのが一番いいだろうか。

 そう悩んでいると、リーシアとシーナの二人が皆の中心に歩いていく。

 なぜか二人とも誇らしげな表情を浮かべていた。


 何をするつもりなんだろう。

 俺や冒険者の皆が同じ疑問を抱いたタイミングで、二人は口を開く。



「至極当然の話です。

 わたくしのご主人様は、世界で最も偉大なお方なのです!」

「ふふん、教えてあげる。

 実はアイクさんは最強の人形遣いなんだよ!」



 俺が気恥ずかしくなるようなセリフを大声で叫んだ二人は顔を見合わせたあと、なぜか満足気に微笑み合い握手を交わす。

 待って。肝心の俺を置き去りにして盛り上がらないで。


 真っ先にそんなツッコミが思い浮かんだ俺とは違い、二人の言葉は冒険者たちにとっては衝撃的だったらしい。



「ど、人形遣いって言ったのか今!?」

「どういうことだ!? 人形遣いが魔物を倒す……? いや、そもそも肝心の人形はどこにいるんだ!?」

「はーい、ここだよ~」

「見逃すことなかれ」

「っ、アンタたちが人形だって言うのか!?」



 アピールするフレアとテトラに注目が集まる。

 もはや悪魔を倒したことは気にもしてないかのように、場の話題は人形一色に染まる。



「嘘だろ、人形遣いなんてネタ職じゃなかったのか!?」

「むぅ、ネタじゃないよ、アイクは最強なんだから!」

「アイクってのはあの男だよな。そんなに凄い奴なのか?」

「すごい。アイクのおかげで、わたしたちはここにいる」

「そもそも何で二人は話せるんだ?」

「ご主人様からの愛によるものです(はーと)」

「うおっ、驚いた! えっ、アンタも人形なのか?」

「その通りです。それと同時にご主人様の正妻です」

「わ、わけがわかんねぇ……」



 随分と皆楽しそうだった。

 しかしいつまでもここで話をしているわけにもいかない。

 悪魔の出現と討伐した経緯についてギルドに伝えなければいけないからだ。


 それを皆に言ってみたところで、賑わいが収まるはずもなく。


「よし、なら今から全員でギルドに行って祝勝会だ!

 戦いに参加できなかった分、酒は奢ってやる!

 その代わり色々と面白い話を聞かせてくれよ、アイク!」


 どうやらこの人たちから逃れることはできないようだ。


 それでも不思議と気分は悪くなかった。

 これまで人形遣いと名乗れば馬鹿にされ続けてきた。

 だけど少なくとも今この場では、皆が好意的に受け入れてくれている。


 きっとこの人たちとの繋がりが、俺たちがこの町で活動していく上での大きな助けになる。

 そんな確信を抱きながら、俺たちはギルドに向けて歩き始めた。 




「ところでリーシアさん、だっけ? 今、アイクさんの正妻って言った?」

「言いましたが、何か?」

「……へぇ」

「……ほう」


 その裏で発生していた女同士の戦いなど、知る由もないまま。

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