第18話 決闘の申し出

「待て! アイク!」

「――――お前」


 エル、シーナと合流し一緒に依頼を受けようとしていた矢先、聞きなれた声に呼び止められた。


 振り向くと、そこにはかつてのパーティーメンバー、ノードの姿があった。

 なぜか髪は荒れ、息は絶え絶えになっている。


 あまり話したい相手ではないけど、無視するのもなんだしな……


「何か用か?」

「オレと決闘しろ!」

「はあ?」


 いきなり現れたと思ったら、さらに何を言い出すんだろうか。

 意図が読めずに困っていると、エルがとんとんと俺の肩を叩く。



「エル?」

「申し訳ありません、アイクさん。

 実は先ほどあちらの方と、アイクさんに関する話題で揉めてしまって。

 彼があまりにもアイクさんのことを悪し様に仰るので、私とシーナが怒ってしまったんです。

 それに気を悪くしたのかもしれません」

「なるほど」



 どのような流れでそんな事態になったかは分からないが、情景はありありと思い浮かぶ。

 むしろこちらこそ、エルたちを面倒ごとに巻き込んでしまって申し訳ない気分になった。


 俺はゆっくりと息を吐くと、改めてノードに向き直る。


「悪いが、決闘に応じる意思はない」

「逃げるのか? この臆病者が!」

「別にそういうわけじゃない。ただこっちに戦う理由がないってだけだ」


 まあ、そう言う俺の横でシーナが短刀を構えてるんだけど。

 これは無視してもいいよね? ね?


「……これ以上アイクさんに迷惑をかけるなら、消す」


 何を消すんだろう?

 世界から憎しみを、とかかな?

 うん、俺にはよく分からない!

 ホントホント、オレ、ウソツカナイ。


 しかしながら、怒っているのはシーナだけではないみたいだった。

 後ろに控えていたフレアとテトラが、俺とノードの間に立ちはだかる。


「ねえ、さっきから聞いてたらひどい言葉ばかり聞こえたんだけど。

 アイクに謝ってくれないかな?」

「さもなくば、腕を引き抜く」

「腕を……!? いや待て、なぜ貴様ら人形風情がしゃべっている!?」


 ノードは二人が話せることに驚いていた。

 そういえば、こいつにはまだ伝えていなかったな。


「見たまんまだろ。フレアとテトラは話せるようになったんだ」

「話せるように……はは、ははははは!」


 何が面白かったのか、ノードは高笑いする。

 怒ったり笑ったり、血圧の上下運動が激しい奴だな。


「オレたちのパーティーから抜けて一人で何をしているのかと思えば、人形に芸を仕込んで物寂しさから逃れようとしていたわけか!

 滑稽にも程がある。ああ、いいぞアイク、こんなに笑ったのは久々だ!」

「……ノード」


 気を付けろよ、お前。

 笑っている間にシーナが背後に回り込んでるぞ。

 そして俺に対して攻撃してもいいか無言で聞いてくる。

 待てシーナ、さすがに往来で殺人はまずい!



「……はあ、仕方ないか」



 俺一人ならともかく、このままやり過ごしても他の皆に不満が溜まったままになる。

 それならばいっそのこと、ここで叩きのめしておく方がいい気がする。

 以前までならばともかく、意思を得たフレアたちがいる今ならノードとも渡り合えるだろう。


「分かった、決闘を受けてやる。

 けど俺は人形遣いだ、フレアたちも一緒でいいよな?」

「ああ、もちろん! ただし、オレに壊されても文句は言わないことだ!」


 よし、言質は取ったな。


「だったら場所を代えるぞ。さすがにここは狭すぎる」

「いいだろう、大広場にいくぞ」


 この町の大広場は非常に広く、冒険者同士の決闘が良く行われることでも有名だ。

 ギャラリーが発生してしまうのが個人的には不満だが、まあ仕方ない。

 ノードしては観衆の前で俺たちをコテンパンにしたいんだろうし。



 俺は大広場に移動する途中で、エルたちに頭を下げた。


「悪いな、一緒に依頼を受ける予定がこんなことになってしまって」

「そんな! もともと無理言ってお誘いしたのはこちらなんですし、アイクさんが謝る必要ありませんよ!」

「うん、エルの言う通り。それに私としてはあの愚かな人間を処罰する方が優先度が高い。私が戦えないのが唯一の不満だよ」

「エル、シーナ……ありがとう」


 何だか引っかかる言葉はあったが、素直に感謝を伝えておく。

 虎の尾を踏むことになりかねないしな。


 そして実際に戦いに巻き込んでしまったフレアたちと言えば……


「斬るべし! 斬るべし!」

「打つべし、打つべし」


 歩きながらそれぞれ素振りをしていた。

 やる気は十分みたいだ。

 だけど周囲の視線が気になるから止めよう?



 そんなこんなで、俺たちは大広場に辿り着いた。

 決闘まであと一分。

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