第17話 勇者の傲慢
ユンの言う魔法剣士と暗殺者の二人組はすぐに見つかった。
二人がギルドの中に入ってきたとき、周囲の冒険者が騒ぎ始めたからだ。
ユンと別れて捜索していたノードは、静かに耳を傾ける。
「おい、Bランクパーティーの【双刃】だぞ」
「ああ。あの綺麗さで実力まであるってんだから、羨ましいもんだ。あんな奴らとパーティーを組めたら最高なんだけどな」
「まあ俺らからすれば雲の上の存在だ。高望みは止そう。なんでも以前Cランク冒険者がパーティーに入れてくれないかって頼み込んだ時、銀髪の方に冷たい視線を向けられたまま徹底的に断られて、それでも粘ったら完膚なきまでに叩きのめされて追い返されたらしいぞ」
「マジかよ!? ……俺も行ってこようかな」
「え?」
「え?」
普通行くよな……?
と続ける冒険者の言葉を聞き流しながら、ノードはふむと頷く。
これまで自分のパーティー以外に興味がなかったため知らなかったが、彼女たちは有名らしい。
実力はもちろん、その美貌に至るまでノードにとっては都合がよかった。
これは何としても仲間にしなければならない。
「まだ彼らは来ていませんね」
「うん。あっちの方で座って待っていよう」
誰かを探しているのかきょろきょろと辺りを見渡した後、二人は酒場の方に歩いてくる。
今が好機だと判断したノードは、二人のもとに近付いていく。
「おい、ノードの奴が二人に向かっていってるぞ」
「まさか勧誘する気か?」
「いや、もしかしたらアイツの趣味もまた……!」
周囲の冒険者が小声で何かを言っているが、
気にせずにノードは甘い笑みを浮かべて二人に話しかけた。
「やあ君たち、少しいいかな?」
「……? はい、何でしょうか?」
「…………」
冒険者たちの言う通り、銀髪の少女は不満げな表情を浮かべて睨んでくる。
しかし金髪の少女は物腰が柔らかい。どうやら好感を持ってもらえたみたいだ。
「いや、実は君たちが優れた魔法剣士と暗殺者だという噂を聞いてね。
ぜひ、オレたちのパーティーに入らないかと思って勧誘しに来たんだ。
この町唯一の勇者パーティーと言えば伝わるかな?」
「勇者……確かノードさん、でしたか?」
「! ああ、オレがそのノードだ!
知ってもらえていたなんて光栄だよ!」
これは手っ取り早く勧誘できそうだ。
そう判断し、ノードはさらに話を進めていく。
「それで話を戻すけれどどうかな?
君たちにとっても悪い話じゃないと思うんだ。
勇者パーティーの一員になれるだなんて、普通の冒険者なら一生経験することのないような栄誉だろう?」
しかし、金髪の少女は首を横に振る。
「……申し訳ありません。
私とこの子は昔から二人で頑張っていくと決めてやってきたんです。
今後もその決意を変えるつもりはありません。
今回は断らせてください」
「なっ……!」
まさか断られるとは考えていなかったため、思わずノードは言葉につまる。
これで話は終わったと思ったのか、少女たちは会釈してその場を去ろうとする。
「それでは、失礼いたしますね」
「ま、待ってくれ!
そうだ! ならまずはパーティーに入らず合同で依頼を受けるだけでもいい!
オレたちを助けると思って力を貸してくれないか!?」
「貴方たちを助ける、ですか?」
「ああ、その通りだ!」
何とか呼び止めることに成功した。
ここで逃すわけにはいかないと、ノードは自分たちの境遇を伝える。
「パーティーの元メンバーが酷い奴だったんだ。
裏切りや強奪など、例を挙げるとキリがない。
ソイツのせいで未だにパーティーの士気が低いままでね。
本当に、どうしようもない不遇職だったよ。
せっかく仲間にしてやったパーティーに対してそんな非道な行いをするなんて」
「不遇職……?」
ここまで一言も発してこなかった銀髪の少女が、不遇職という言葉に反応する。
もしかして彼女もまた、不遇職に対して思うところがあるのかもしれない。
そう判断したノードは気分を良くして言葉を紡ぐ。
――それが彼女の逆鱗に触れるとも知らずに。
「ああ。不遇職の中でもとびっきり無力な役立たず、人形遣いがいてね。
名前をアイクって言うんだけど、ソイツのせいでうちは――」
「――――ふざけないで」
「――なッ!?」
突如、ノードの足元の床が抜ける。
いや、正確には足元の影の中にノードの片足が膝まで沈んでいるのだ。
「アイクさんはそんな人じゃない。
あの人を馬鹿にする奴を、私は許さない」
「っ!」
あろうことか銀髪の少女は短刀を取り出すと、身動きの取れないノードの首元に向けてくる。
「なんだ? Bランク同士の喧嘩か?」
「止めるべきか? まあ止められる奴がいればの話だけど」
「いや……その必要はないかもしれない。あの姿こそが、きっと彼の望み……!」
途端に騒ぎ始める周囲の冒険者たち。
そんな中、声を失うノードの前に金髪の少女が立ちはだかった。
「待ちなさい、シーナ。さすがにやりすぎです。
それにギルド内で戦闘すればペナルティが――」
「それでも、今の言葉は許せない」
「気持ちは分かります。
けれどこれ以上の騒ぎになれば、原因の一端となったアイクさんにも迷惑がかかってしまうかもしれませんよ?」
「……分かった」
アイクの名前が出た瞬間、シーナは短刀を引っ込める。
同時にノードの足場も元通りになる。
バランスを崩したノードはそのまま地べたに座る格好になった。
「なんだ、もう終わりか」
「大したことは起きなかったな」
「……羨ましい!」
「お前はもう黙ってろ」
周囲の冒険者たちの賑わいを掻き消すように、カランカランと、ギルドの扉が開く音が響く。
そこにはノードにとって忌々しい存在がいた。
アイクと、彼が使役する二体の人形だ。
アイクは誰かを探しているようでギルド内を見渡していた。
「――っ! アイクさん!」
銀髪の少女はアイクの姿を見つけた途端、ぱあっと顔を輝かせて駆け寄っていく。
その姿を見た時、ノードの中にどす黒い感情が沸き上がる。
……なぜオレではなく、アイツが選ばれるのかと。
アイツよりオレの方が優れているなど自明の理だ。
このまま二人ともに拒絶されるなど、オレのプライドが許さない。
最初から好感的だった金髪の少女だけでも、こちらに引き込まなければ気が済まない。
「おい、お前は――」
「触れないでください」
伸ばした手は、少女の鞘に入った剣によって弾かれた。
真っ白になったノードの頭に、少女はさらなる絶望を畳みかけるように告げる。
「シーナの手前、私は控えていましたが……
アイクさんは私にとっても凄く大切な、尊敬する人です。
そんな彼を侮辱したこと、絶対に許しません。
……それでは失礼いたします」
言い残し、金髪の少女もまたアイクのもとに駆け寄っていく。
「ふざけるな……」
その姿を眺めながら、無意識のうちに言葉を漏らす。
「ふざけるな……!」
こんなことがあってたまるものか。
こんな屈辱を受け、耐えられるはずがない。
「――――絶対に、許さないぞ、アイクゥ!」
最早怒りを抑えることはできなかった。
少女たちを引き連れてギルドを出たアイクを追い、ノードは駆け出した。
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