第16話 勇者の失態
アイクたちが冒険者としての経験を積み、交流を深めている一方。
勇者ノードたちは、あり得ないような失態を演じていた。
「くそっ! なぜ、三階層の攻略ごときで手こずるんだ!」
ドンッと、酒の入った瓶をテーブルに叩きつけながらノードは叫んだ。
「本当に、こんなはずじゃなかったのに!」
その横でユンもまた、苛立ちを抑えきれないとばかりに叫ぶ。
なぜ二人がこのように荒れているのか、話は昨日にさかのぼる。
アイクが脱退し、四人になったノードたち勇者パーティーは再びセプテム大迷宮に挑んだ。
今度こそしっかりと魔留石(低)を回収し、活動資金を得るためだ。
だが、理解できないことに今回もまた失敗した。
誰かがまた罠にハマったとか、そういうわけではない。
単純に三階層のボス、ゴブリンジェネラルとその配下のゴブリンを討伐できなかったのだ。
作戦は簡単。
重戦士のルイドはゴブリンジェネラルの気を引き時間を稼ぐ。
ヨルはそれぞれの援護と、怪我を負った者を治療する。
ノードとユンは、素早くゴブリンの群れを掃討。
その後、全員でゴブリンジェネラルを叩き討伐する予定だった。
しかし、その予定通りにはいかなかった。
「くそっ、ルイドの奴め!
囮に失敗しやがって!」
ルイドがゴブリンジェネラルを食い止めることが前提の作戦にもかかわらず、開始数分で簡単に突破されたのだ。
その結果陣形は崩れ、ノードたちにとって不利な状況となった。
ゴブリンジェネラルを倒すために大技を放とうにもゴブリンの群れに邪魔をされ、ゴブリンの群れを先に倒そうにもゴブリンジェネラルの存在に意識がいき集中できない。
時間が経てばまたゴブリンの増援が現れ、状況は悪化する。
結局、数十分の死闘の末ノードたちは撤退を選んだのだ。
セプテム大迷宮から脱出後、ルイドに責任を追及すると彼はこう言った。
『何言ってやがる! ゴブリンまでこっちに押し付けやがって!
あんな状況でゴブリンジェネラルを引き付けられるわけないだろ!』
ルイド曰く、ノードたちが相手をしていたゴブリンの一部がルイドに襲い掛かったらしい。
その結果、ゴブリンジェネラルに突破されたと主張していた。
結局その場では誰が悪いかの結論は出ず、フィードに帰還。
いつも以上に囮の負担が大きかったルイドと、援護などに力を注いでいたヨルはすぐに宿屋に戻り休息を取った。
翌日の今日になっても二人はまだ疲れが残っているようで、部屋から出られないとのことだった。
そのため、比較的無事だったノードとユンは二人で朝からギルドの酒場に入り浸っていた。
酒を飲みながらノードは昨日のことを思い出す。
やはりルイドの主張は受け入れられなかった。
ノードたちはいつも通りゴブリンの群れを相手にしていたはず。
これまではそれで何の問題もなかった。簡単に討伐できていた。
いつもと違う点があるとすれば、アイクの不在くらいだが――
「ねえ、アイクの奴がいればいつもみたいに簡単に倒せたかな?」
ユンも同じ考えに至ったらしい。
しかし、ノードがそれを受け入れるわけにはいかなかった。
「いや、そんなはずがない」
ぶんぶんと、ノードは首を横に振る。
確かに囮の頭数は増えるが、アイツは敵の攻撃を受けることもせず、無様に逃げまどうだけ。
あんな足手まといが一人いなくなったところで、パーティーの戦力に影響が出るはずがないのだ。
しかしどれだけ考えても、それ以外の可能性が思いつかない。
仮に、仮にだ。
アイクの不在が影響したというならば。
これまでアイクはどのようにパーティーに貢献していただろうか。
ノードはその答えを閃く。
「そうか、分かったぞ――索敵だ」
「索敵?」
突然のノードの呟きに、ユンは首を傾げる。
「ああ、そうだ。アイクは確かに足手まといだったが、道中の魔物の索敵などでは少しは役に立っていたからな。
今回はその役目の者がいなかったから、道中で多く魔物に遭遇しただろう?
そのせいでいつもより疲労した状態でボスと戦う羽目になったんだ。きっとそれが原因だろう」
一度言葉にしてしまえば、そうとしか考えられなかった。
ユンも納得したように何度も頷く。
「なるほど、それなら納得ね!
索敵を使える職業……盗賊でも仲間にすれば解決するんじゃない?」
「ああ、そうだな。けれど勇者パーティーに入れるような実力の盗賊がこの町にいるだろうか?」
「それは確かに……いや、待って。
そういえば魔法剣士と暗殺者の二人組パーティーが最近Bランクに上がったって聞いたわよ。
そいつらなら実力も十分なんじゃない?」
「魔法剣士と暗殺者か……!」
剣士と魔法使いの複合職、魔法剣士。
盗賊の上位職、暗殺者。
どちらも上級職と言われている職業だ。
暗殺者ならば索敵も使えるだろうし、確かにちょうどいいかもしれない。
「決定だな。その二人を仲間に引き込もう」
勇者パーティーからの勧誘ならば、快く受け入れてもらえるだろう。
仮に渋られたとしても、最悪な元パーティーメンバーによって苦しい状況に置かれていることを説明すれば同情を引けるはずだ。
方針が決まればさっそく行動だ。
ノードとユンはその二人組を探すべく、席を立った。
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