第14話 二人目の目覚め
テトラは両手をVの形にして無表情で頷く。
不思議なことに、無表情にもかかわらず楽しんでいるように見えた。
「疑っていたわけじゃないですけど、本当に自分で動くようになるんですね」
「すごく驚いた。一目では、人間か人形か分からないよ」
エルとシーナの二人は、意思を得たテトラの周りを取り囲みながら驚いている様子だった。
もちろん俺も驚いてはいる。
けれどいつかこんな日が来るんじゃないかとは予想していた。
そのため、今は驚愕以上の喜びがこの胸を満たしていた。
フレアに引き続き、大切な存在と話せるようになったんだ。
これ以上の喜びはない。
「改めて。よろしくな、テトラ」
「うん、アイク」
ぐっと、彼女の華奢な手を握る。
この小さな体にこれまで自分が守られていたのだという事実を、改めて再確認する。
「私も忘れないでね、テトラ~」
「……フレア」
続けて、フレアはテトラの体をぎゅ~と抱きしめる。
テトラは一瞬だけ驚いたものの、すぐに優しい笑みを浮かべる。
二人の楽しそうな姿を見て、俺まで幸せな気分になった。
改めて五人でフィードに向け歩き始めたところで、俺はふと疑問を抱いた。
「そういえば、テトラもフレアみたいに身体能力が向上していたりするのか?」
フレアは意思を得たことをきっかけに能力が上がった。
同じことがテトラにも起きているんじゃないかと思い尋ねると、彼女はこくりと頷く。
「うん、さっきから力が漲っている気がする。
いま、試してみる」
「試すって、いったい何を……」
テトラは立ち止まると、近くにあった木に手を当てる。
それをどうするんだろうか?
そう疑問に思った直後、驚くべき出来事が起きる。
「ふんっ」
「なっ!」
テトラが手に力を入れた瞬間、木の幹がミシッっと音を立てる。
そしてテトラはもう一息。
「せいっ」
気の抜けた掛け声とともに、力ずく木を引っ張り上げる。
土に埋まっているはずの根はブチブチと音を鳴らしながら千切れていく。
そしてとうとう、テトラは片手で木を抜くことに成功した。
「……マジか」
もともとテトラの持ち味は華奢な体からは想像できない程の怪力だった。
しかし今の彼女はそのさらに上の力を手に入れているようだ。
衝撃のあまりどんな感想を言えばいいか分からなくなってしまった。
うん、とりあえずこれでいいか。
「こら、テトラ。無意味な自然破壊はだめだぞ」
「うんうん! ちゃんと木材として活用しなくちゃね!」
「! そんなところまで意識しているだなんて、さすがアイクさん。偉いね」
「えっ? 今の光景を見て出てくる感想がそれですか? シーナまで?
尋常じゃない力に驚く場面じゃ……
……あれ? もしかして私がおかしいんですか?」
どうやらここにいるメンバーは、柔軟な考え方の者が多いみたいだ。
根から真面目っぽいエルは混乱している様子だった。
うん、まあ、そっちの反応の方が正しいとは思う。
俺は咄嗟に出た感想が今のだってだけで、ちゃんと力に驚いてはいたし。
しかし、テトラはゆっくりと木を戻した後(無理やり埋め込んだだけともいう)、小さな頬を大きく膨らませた。
「むぅ、納得いかない。もっと褒めてほしかった」
確かに、今の感想だけでは不満になるか。
「テトラ(ひょいひょい)」
手招きすると、テトラはぴょこぴょこと近付いてくる。
俺はテトラの頭を優しく撫でた。
「凄い力だったな。テトラが仲間で凄く心強いよ」
「ん~」
テトラは目を閉じながら、幸せそうに身を俺にすり寄せてくる。
際限なく庇護欲をかきたてられる姿だ。
まあ、守られるのは俺になるんだろうけど。
「私も~!」
「っと」
テトラとは反対側の腕に、フレアが勢いよく抱きついてくる。
ふむ、まさにこれが両手に花というやつだろうか。
「っ、わ、私も!」
「――三輪目、だと?」
なぜかシーナまで、俺の背中にその体を預けていた。
フレアやテトラに比べれば控えめなスキンシップといったところだ。
……仲間外れになるのがいやだったのかな?
うん、そうとしか考えられない。きっとそうだ。
しかしこうなると、残されてしまうのは一人で――
「…………」
「…………」
――目が合った。エルと。
すすぅ~と、私は何も見ていませんよアピールをするように、エルは視線をずらしていく。
よし、巻き込もう。
俺は両手を広げてエルに告げる。
「エルも混ざるか?」
「ま、混ざりません! せっかく見ていないふりをしていたんですから、スルーしてください!」
予想通りというかなんというか、盛大に断られてしまう。
少しショックだ。いや違う、こういう反応が普通なんだ。
俺たち四人の状況の方が明らかにおかしい。
「じゃあ、このまま帰ろう!」
「そうすべき」
「あ、アイクさん! どこまでもついていくね!」
「……なぜだ」
おかしいというのに、なぜかそのまましばらく歩くことになった。
たびたびエルが興味深そうにこちらを見ていたのは、きっと気のせいだったのだろう。
……気のせい、だよね?
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