第13話 気恥ずかしい称賛
討伐したサイクロプスの魔石を回収した後、俺は二人の少女のもとに歩いていく。
「大丈夫だったか?」
彼女たちに戦闘の影響はなかったはずだが、確認のため尋ねておく。
すると二人は目を輝かせて口を開く。
「あ、あの、助けてくださって、本当にありがとうございました!」
「その、すごかった。なんというかその……す、すごかった!」
金髪の少女は両手を胸の前に組んで感謝を告げ、
銀髪の少女は落ち着きなく両手をあたふたとしながら称賛をくれた。
ここまで真正面から温かい気持ちを向けられるのは久しぶりな気がした。
嬉しい反面、少々気恥ずかしさも覚えてしまうのだった。
その後、二人から簡単に事情を聞いた。
金髪の少女はエル、銀髪の少女はシーナと言うらしい。
いつも通り依頼を受けていたはずが、サイクロプスの出現により事態は急変。
危機に陥っていたところに俺たちがやってきたらしい。
「間に合って良かったよ。
エルの傷は治ったみたいだけど、シーナはまだ傷が残ってるな。
さすがに回復薬だけでは治らなかったか……」
「だ、大丈夫。今から治すから」
「今から?」
俺が人形就寝具に手をかけたのと同じタイミングで、シーナは呪文を唱えだす。
二十秒以上にも渡る呪文の後、彼女は告げた。
「
「……すごいな」
傷跡が残ることもなく、シーナの怪我が完全に治る。
驚くと同時に疑問に思う。
確か彼女は先ほど、自分の職業を暗殺者だと言っていたはずだ。
暗殺者に治癒魔法が使えたという記憶はないが。
「シーナは暗殺者じゃなかったのか」
「そ、そうだけど。僧侶に頼んで教えてもらったの。
私たちはもともと職業的に治癒魔法は覚えていない。
さすがに回復薬だけではやっていけないから、二人で頑張って覚えたの。
呪文を唱えないと使えなくて、さっきは間に合わなかったけど」
「そうなのか」
曰く、エルは中級スキルの治癒まで。
シーナは上級スキルの超治癒まで覚えたらしい。
長い年月をかけて微治癒しか覚えられなかった俺には考えられないことだ。
素直に尊敬の念を抱く。
俺は微笑みながら、抱いた気持ちをそのまま口にする。
「そんなに努力できるなんて偉いな。
凄く頑張ったんだな、シーナたちは」
「~~~っ!」
……ん? どうしたんだ?
なぜか突然、シーナの顔が赤く染まった。
まさか傷口から菌が入って、熱が出たりでもしたんだろうか?
「悪い、シーナ」
「えっ? ……っっっ!!!」
熱を確かめるため、自分とシーナの額に手を当てる。
うん、そこまでの熱はな……いや、なんだ、急激に上がってきた。
何が起きている!?
「ご、ごめんなさい!」
「えっ?」
なぜか大声で謝罪した後、シーナは高速バックステップで後方に去っていく。
近くにある木の後ろに隠れたかと思えば、顔だけをちょこんと覗かせてこちらを見ていた。
やっぱり顔はまだ赤い。
俺は自分の軽率な行動を反省した。
当たり前のことだ。
突然、会ったばかりの男性に体を触れられるなど、嫌に決まっている。
ここ数日、フレアのスキンシップが多かったためそんな当然のことを忘れてしまっていた。
「まずったな。勝手に触ったこと、謝らなければ」
「あ、あはは……アイクさん、多分そうする必要はないと思いますよ」
「エル? どういう意味だ?」
「……あっちだけじゃなく、こっちも鈍感ですか」
「?」
エルの言葉の意味は分からなかったが、戻ってきたシーナを見るに、本当に怒っている訳ではなさそうだった。
安堵すると共に、俺たちは帰還するべく歩き始めた。
「えっ!? フレアさんも人形だったんですか!?」
「……びっくりだ」
「えへへ、そうだよ~。テトラとおんなじ!」
帰還中、俺たちについての話題になった。
何でも人形遣いがサイクロプスを倒す様を見て相当な衝撃を受けたらしい。
続けて剣士のフレアさんならまだ分かるんですけど、と言われたため彼女も人形であることを伝えると、二人は目を大きく見開いていた。
「人形が話すなんて、聞いたこともないです」
「だろうな。俺自身かなり驚いたし」
「すごい。一体どうやったの?」
「詳細は不明なんだが、なんでも心を込めて接し続けた結果らしい」
次々と質問が飛んでくるが、どうやら肯定的に受け入れてもらえたようでよかった。
フレアが心を得たことを他人に話すかどうかはまだ決めかねていた。
この様子なら、大っぴらにしても問題ないかもしれない。
「えへへ~、そうでしょそうでしょ~!
もっと褒めてもいいんだからね!」
エルとシーナの誉め言葉が嬉しかったらしく、フレアは嬉しそうに笑っていた。
……そうだな、確かにフレアにはいつも凄く助けられている。
俺からも、もっと褒めた方がいいかもしれない。
「フレア、いつもありがとな」
「え? あ、アイク?」
フレアの頭に右手を置き、優しく撫でる。
フレアは一瞬だけ驚いた後、幸せそうに笑ってくれた。
「な、なるほど。これは心を得ちゃうのも理解できます」
「……むぅ」
「フレアばかりずるい。わたしも褒めてほしい」
……うん?
今、三人分の声がしなかったか?
俺とフレアはここにいるから、残っているのはエルとシーナだけ――!?
違った。
今この場にはもう一人いる。
その可能性に気付いた瞬間、俺は素早く顔をそちらに向ける。
予想は的中していた。
操作していないにも関わらず、俺のすぐ横には彼女がいたからだ。
水色のセミロングに、華奢な体つきの少女。
俺は彼女の名前を呼ぶ。
「……テトラ。もしかして、お前にも心が宿ったのか」
「うん、その通り。ぶいぶい」
両手をVの形にして、テトラは無表情のままそう言った。
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