第10話 成長と新たなる敵

「いたな」


 ヴィレの森に入ること数分、

 さっそく目標の魔物は現れた。


 緑色の小鬼と表現するのが適しているだろうか。

 Dランク魔物、ゴブリンが六体。

 五体以上の群れだとCランク指定なため、決して油断はできない。


「いくぞ、フレア」

「うんっ」


 目標を捉えたら、後の流れは簡単だ。

 身を隠している木から飛び出したフレアは、颯爽とゴブリンの群れ目掛けて駆けていく。


「はあっ!」

「ギャンッ!」

「グエッ」

「ガッ!」


 さすがにDランク魔物ではフレアの動きについていけなかったようだ。

 瞬く間に三体が魔石に変わる。


「ギャア!」

「来たか」


 初撃から逃れることのできた一体がこちらに駆けてくる。

 フレアに比べ、俺なら倒しやすいと思ったのだろう。

 その考えは間違えていないが、さすがに俺もそこまで甘くはない。


 短剣を取り出した俺は、真正面からゴブリンを待ち構える。


「グアァ!」

「――遅いぞ」

「ギャン!?」


 こちらに飛びかかってきたゴブリンを軽くかわすと、横腹に短剣を突き刺す。

 緑色の血が噴き出すが致命傷までには至っていない。

 バックステップで一旦距離を置く。



「グググゥ……」

「もう突撃はしてこないか」



 ゴブリンはカウンターを喰らったことで警戒心を抱いたらしく、一定距離のまま様子を窺う。

 その直後、地面に落ちていた石を拾うと俺に投げつけてきた。


「その程度の攻撃、喰らわないぞ」


 投石の進路を見切った俺は、地を強く蹴りゴブリンに迫った。

 スッと、俺の顔の数センチ横を石が通り過ぎていく。

 腕を振り切ったばかりのゴブリンは隙だらけだった。


「はあっ!」


 一閃。

 ゴブリンの首を斬る。

 それが致命傷になったようで、ゴブリンは断末魔と共に魔石に変わっていった。


「こっちも終わったんだね、アイク!」

「フレア」


 どうやらフレアは残りを倒し終わった後、こちらの様子を見ていたらしい。

 これで無事に傷を負うこともなく六体倒すことができた。


 俺は成長を実感していた。

 さすがに以前の俺でもゴブリン相手に苦戦することはなかったが、もう少しまともな戦いにはなっていた。

 フレアに意思が生まれたことで、自分のことに集中することができるようになったからだろうか。

 何はともあれ、フレアだけでなく俺も強くなっているのは間違いない。


「目標討伐数は十体だ。引き続き気を引き締めよう」

「りょうかい!」


 その後、俺たちはさらに奥にいた八体のゴブリンを討伐した。

 今度は俺の出る幕はなく、フレアが一人で倒し切るのだった。




「随分と早く終わったな」


 十四体分の魔石を素材袋に入れた後、ヴィレの森を歩きながら俺はおもむろにそう呟いた。


「いつもはもっと時間がかかるものなの?」


 フレアの問いに、俺はこくりと頷く。


「ゴブリンは本来もっと森の奥にいる魔物だからな。

 散策するだけでも三十分はかかると思ってたんだが、実際は数分だったな」

「ふーん、そうなんだ。なんにせよ、早く終わってよかったねっ」

「そうだな……っと」


 不意に、足を踏み外したような感覚に襲われ立ち止まる。

 下を向くと、そこにあった光景に俺は首を傾げた。


「なんだ、これ……」


 そこは不自然に凹んでいた。

 一メートルほどの凹みは左右にどこまでも続いている。

 それは見方を変えれば、巨大な生物の足跡のようにも見えた。


 しかしその推測がさらなる疑問を生み出す。

 森の入り口付近であるこの辺りは、Dランク~Cランクの魔物しか出てこないエリアのはず。

 その辺りのランクでこんな巨大な魔物には心当たりがない。


 考えても仕方ないことだと頭から疑問を放り出そうとした、次の瞬間だった。



「きゃぁあああ!」



 甲高い女性の叫び声が、辺り一帯に広がる。


「アイク!」

「ああ、あっちだ!」


 フレアの呼び掛けに力強く頷く。

 声は凹みが続く奥から聞こえてきた。

 何かがあったのかもしれない。


 俺とフレアは全速力で、声のした方に向け駆けだした。




「これは……」


 そこに広がる光景に、俺は目を疑った。


 木々が減り拓けたその場所には二人の少女がいた。

 金色の長髪の少女は剣を、銀色のセミロングの少女は短刀を手にしている。

 二人とも怪我をしているようで、その場にうずくまっている。


 そしてそんな二人の目の前には、魔物がいた。

 大きな一つ目に、巨大な棍棒を手にする五メートル級の魔物。


 本来ならば森の奥深くに生息しているはず怪物。

 Aランクに近い実力だと言われているBランク魔物――サイクロプスがそこにいた。

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