第4話 逆転の魔石
俺とフレアはセプテム大迷宮から脱出するべく、まずは辺りの探索から始めた。
今いる場所が五階層のどの地点かを確かめなくてはならない。
石造りの通路を、足音を立てないように注意しながら歩いていく。
十字路に差し掛かった時、俺は咄嗟に手のひらで後ろにいたフレアを止めた。
「アイク?」
「曲がり角の先に魔物がいる。こっちだ」
俺は小声でフレアに指示を出す。
近くにあった岩陰に二人の体を潜ませる。
数秒後。
10メートルにも満たない距離を、
複数のオークロードが通っていった。
十分に離れていったのを確認し、
俺は安堵して息を吐いた。
「よし、何とかやり過ごせたな」
「そうだね、さすがに複数体を同時に相手したら疲れちゃうから。
でも、よく魔物がいるって分かったね?」
目視するより早く、俺が魔物に気付いたことにフレアは驚いているみたいだ。
「ああ、
「
ふむ。
とはいえ人形遣い由来のスキルではなく後天的に獲得し、自分の魔力で発動するもの。
フレアが認識していなくとも不思議ではない。
「
今すぐにでも説明しときたいところだけど、今はあまり余裕がないからな。
時間を見つけて伝えていきたいんだが、それで大丈夫か?」
フレアはこくりと頷く。
「うん、もちろん。
楽しみに待ってるねっ」
さて。
フレアには後でと言った。
けれど自分の中ではしっかりと整理しておかなければならない。
俺が人形遣いになった際に得たスキルは幾つもあった。
しかし、それだけでは冒険者として活動するには不十分だった。
ただでさえ不遇職として煙たがられる人形遣いだ。
他にできることを増やさなければ、パーティーに入れてもらえない。
だから俺は他の職業の人たちを師事し、様々なスキルの習得に励んだ。
例え職業が異なったとしても、努力に努力を重ねればスキルを得ることは可能なのだ。
だが残念なことに、それでも俺には才能がなかった。
戦士系の職業からは
などなどのスキルを習得するも、そのどれもが各職業の者なら必ず持っている低級スキルだった。
こんなスキルを保有していたところで利点にはならない。
かろうじて自分の身体能力を高める
需要に対し使い手の少ない
俺がそれらの低級スキルを手に入れるまでに、
周りの者達は上級スキルを覚え冒険者として名を上げていった。
――それでも。
あの頃の努力が、今こうして俺を助けてくれている。
それに、今は隣にフレアがいる。
劣等感などあるはずがない。
そんな風に考えを纏めながら歩いていると、通路の先に大きな空間が待ち受けていた。
休憩できるのではないかと期待したが、どうやら先客がいるようだ。
「……
茶色の体に、先が鋭く尖った二本の尻尾を持つ狼型の獣。
Bランク魔物、双尾獣が三体いた。
遭遇するのは初めてだが、聞いた話によると双尾獣は二本の尻尾を鞭のように振るい、刃のように尖った先で切り裂いてくるらしい。
慣れるまでは相手にするのが厄介な魔物だという。
ここは引き返すのが正解だろう。
しかし、そこで俺はふと気づいた。
双尾獣のいる空間の壁が、虹色に輝いているのを。
……あの輝きは、もしかしたら。
現状を覆す、挽回の一手になるかもしれない!
「フレア、いけるか?」
「もちろん、いつでも大丈夫だよ」
「そうか、なら――」
フレアに作戦を伝える。
一言二言の指示だが、それでも十分に伝わったらしい。
「了解。なら、行くよ!」
ギュンッと。
恐ろしい加速と共に双尾獣に向かっていくフレア。
三体の双尾獣は突然の来襲に反応し身構えるも、既に手遅れ。
「まずは一体!」
反撃が来るよりも早く、一体目の首を落とす。
不意打ちは成功。これで残るは二体。
後が随分と楽になる。
しかし、双尾獣はBランク魔物なだけあって、そこからが厄介だった。
「くっ、手数が多い! これじゃ攻め込めないよ!」
四本の尻尾が、縦横無尽に空を駆けフレアに襲い掛かる。
フレアは手に持つ剣で全ての攻撃を弾いているが、防戦一方という様子だった。
フレアの最も強力な武器は、その速さだ。
オークロードや双尾獣を一撃で倒せたのも、その武器に頼った結果。
一度動きを止められたら苦戦するのは分かり切っていることだ。
だから――
「
二体の双尾獣がフレアに注目している隙を狙い、俺は
小さな炎の塊が二つ、双尾獣に向かい進んでいく。
「ギャウッ」
「キャンッ!」
見事、二体ともに命中。
ただし威力が足りなかったのか、体毛をチリッと燃やしただけだ。
……これもまた、俺に才能がない故だろう。
それでも、双尾獣の気を引くことはできたらしい。
一体の双尾獣が、狙いをフレアから俺に代え、尻尾を放ってくる。
が――
「
その攻撃を、俺は連続で回避していく。
フレアと戦っている姿を見て、どのように襲い掛かってくるのかの分析は済んでいる。
この程度ならば躱すのも難しくない。
そして、数秒でも時間を稼ぐことができたなら――
「はあっ!」
フレアの剣が、二体目と三体目の双尾獣を斬る。
同時に双尾獣は魔力の霧となり、魔石だけがその場に残るのだった。
「やった! 勝ったね、アイク!」
「ああ!」
パンッとハイタッチ。
勝利の喜びを分かち合ったところで、俺は虹色に輝く壁に足を進めていく。
俺は懐から小さいツルハシを取り出す。
そして虹色の壁から、その魔石を採掘した。
触り心地、重み、輝き、まず間違いない。
これは魔留石(高)だ。
「アイク、それ何?」
「魔留石だ。魔力を保管しておくことのできる魔石でな。
低、中、高、極のランクがあるんだけど、これはその中でも上から二番の高ランクの物だ。
しかも天然物なだけあって、既に魔力が限界まで溜まっている。
効果は期待できるぞ」
「へー、なんだかよく分からないんだけど、とにかく凄いんだね!」
説明しながら、俺は次々と魔留石(高)を採掘していく。
腰に下げる素材袋の中がいっぱいになるまでに十三個とることができた。
冒険者にとって命綱となる魔力を確保しておくことのできる魔留石は、低ランクでも売ればかなりの金額になる。
高ランクともなれば、それこそ一つで上等な武器と等しい価値があるはずだ。
けれど今の俺たちにとっては金銭以上の価値がある。
これで魔力が尽きる心配をする必要がなくなる。
もちろん、体力はまた別の話だが。
「後は、どうやって四階層に繋がる道を探すかだが――」
改めて今後の方針を確かめようとした、その時だった。
ドゴォオン! という轟音と共に、大地が激しく振動する。
「なんだ!?」
「何!?」
音がしたのは、俺たちが入ってきたのとは逆側の通路からだった。
ゴンッ、ゴンッと鈍い音が続けて聞こえてくる。
その音は徐々に大きくなっていく。
まるで巨大な何かが近付いてきているみたいに。
「……まさか」
最悪の予想が頭の中に浮かび上がる。
五階層、巨大な生物。
それらの条件から導き出される存在を俺たちは知っている。
「ねえ、アイク、あれ……」
「ああ、間違いない。随分と早い再会だな……!」
もう
通路からその魔物はとうとう姿を現す。
人の数倍にも及ぶ巨躯の上には、怪物と称するに相応しい憤怒に満ちた牛の頭が備わっている。
筋肉が膨れ上がったかのような肉体に、巨大な金属斧を悠々と片手で持ち上げる化物。
――Aランク魔物、ミノタウロスがそこにいた。
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