第3話 二倍の動力源
「フレア……今、何をしたんだ?」
「えっ? 何って、魔物を倒しただけだよ?」
「そうじゃなくてだな、今のはBランク魔物だっただろ?
これまで俺とフレアだけでBランク魔物を倒せたことなんてないのに、
今回は何でこんな簡単に倒せたのかなって」
俺の言葉の意図を理解したフレアは首を傾げる。
「あ、あれ? 言われてみれば確かにそうだね。
でも不思議と負ける気は全くしなかったんだよ」
フレアの答えを聞き、俺の中に一つの疑問が生じる。
この疑問の答え次第によっては非常に傷付き、彼女に対して申し訳ない気持ちを抱くことになるが、思いついてしまった以上、訊かない訳にはいかない。
「もしかしてなんだけどさ、これまでの俺が人形遣いとして未熟だったのか?」
「えっと、どういうこと?」
「フレアの意識がない時、俺は人形遣いのスキル
俺じゃフレアの潜在能力を最大限発揮できてなかったのかなって思ってさ」
「そんなことないよ!」
フレアは大声で俺の考えを否定する。
「私がアイクの指示に従って戦ってた時、ずっと思ってたもん。
アイクは凄く私のことを大切にしてくれてるなって。
私が怪我をすることを覚悟すれば相手にダメージを与えられる場面でも、アイクは絶対にその方法を選ばなかった」
「フレア……」
彼女の力強い言葉を聞き、胸にじんわりと温かい気持ちが広がっていく。
「アイクはいつだって私の無事を第一に考えて戦ってた。
だからこそ、私はどんな時でも全力で戦えたの!
ううん、あの時の私は間違いなく全力以上だった!
アイクのせいで弱かったとか、そんなことは絶対にありえないから!」
これまでずっと周りから否定され続けてきた。
人形というモノを庇うなど、本末転倒だと。
けれどフレアはその行為を心から称賛してくれている。
これ以上の救いはなかった。
「そっか……ありがとう、フレア」
「うん! ……ってあれ? これ、何の話なんだっけ?」
「ははっ、フレアがいつもより強くなったんじゃないかって話だよ」
「あっ! 笑ったな、アイク~」
何だか場が和んだところで、話はもとに戻る。
「えっとね。自分の意思で動けるようになってから、なんだかすごく体の調子がいいんだ」
「調子がいい?」
こくりとフレアは頷く。
「うん! こう、力の源が倍になったぞ~って言うか。
これまでアイクから貰ってた力が、自分の中からも漲ってるぞ~みたいな!」
「力の源が倍に……まさか!」
思いついた可能性を試すため、俺はあるスキルを発動する。
「
これは人形遣いから人形に対して活動に必要な魔力を供給するスキルだ。
特に発動を意識せずとも、常にある程度の量は供給されているのだが、今回は実験のためいつもより多くの量を注ぐことにした。
すると、
「あれ? また増えた気がする。でもこれはアイクから貰ってる分が増えてるのかな?」
フレアの反応を見て、俺は確信する。
「分かったぞ。魔力がフレアの体内でも生み出されているんだ」
「魔力……?」
「ああ、そうだ」
本来ならば、人形は人形遣いの魔力でしか動くことはない。
当然、体内で魔力が生成されることもない。
しかしフレアは事情が違う。
推測になってしまうのが非常に惜しいが、恐らくフレアは意思を得ただけではなく、体の構造に至るまで人間に近づいたのではないだろうか?
そうして魔力を生成する機能を得たのだ。
その結果フレアは俺から供給される分と、自分の体内から生成される分の二種類の魔力を動力源とすることが可能になった。
……それだけではない。
ただ保有する魔力量が増えただけで、戦闘能力が著しく上昇することはない。
あれ程の成長度合いから察するに、魔力の生成が可能になっただけではなく、それに伴って二倍の魔力出力に適した体に変わったと考えるべきだ。
それならハイオークを圧倒できたのにも納得がいく。
この予想を、俺はフレアに伝えてみた。
「えっと、つまり、私が二倍強くなったってことかな?」
「……まあ、そんな感じだ」
「なるほど! 確かにそれくらい調子がいい気がする!
こんな簡単に原因を突き止めるだなんて、さすがアイクだねっ」
奇跡にも等しい現象をとても簡単に表現されてしまった気がするが、特に間違えているわけではないのがまた厄介だった。
何はともあれ、これなら希望が出てくる。
五階層からでも、帰還することができるかもしれない。
「――よし」
覚悟を決めろ。
時間が経てば経つほど体力は削られる。
行動は早い方がいい。
「フレア」
改めて、俺は真剣な表情でフレアに向き直る。
「俺たちはこれから地上への帰還を目指す。
極力魔物との戦闘は避けるけど、それでも何度か戦う場面はあるだろう。
その時には力を貸してくれないか」
フレアは一度目をつむった後、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「もちろんだよ、アイク。
絶対に、二人で帰ろうね!」
決意を胸に、俺とフレアの手は交わされる。
セプテム大迷宮の五階層。
かつて見たことのないような強力な魔物がひしめき合うこんな場所でも、彼女と一緒なら恐怖はなかった。
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