第二幕 百鬼。夜ヲ行ク。

恐れおののけあやかしが征く。そこ退けそこ退け化かされたくなくば。

月に騒げ大名行列。思い出せ吾らの名。新たに刻めこの夜を。

目に焼きつけよ。耳に迷え。音に迷え。その全てがまやかしだ。


「このくらいでビビってる奴は脇へ退いてろ。」


街を見下ろす大入道。カタカタ嗤うがしゃ髑髏。揺れる提灯狐の嫁入り。

下駄鳴らせ唐傘。転がれ達磨。弾けろ火の玉。化かせ化かせ。

明けぬ夜の大行列。雨が何だ風が何だ。皆皆いざいざさぁ往こう。


キン…キン…鉄の鳴る。行列束ねるは一人の男。

怖気づく人・妖魔には目もくれずに街を往く。

夜の帳の第二幕。化かすは何故。其処に討つべき敵がある故に。


魍魎行列夜を征く。これを阻むは悪鬼が《マガオニ》

腕振るい、足蹴に、咆哮。己を示す。

鬼の鉄腕、髑髏を砕き。逃げ遅れた妖魔の哀れ潰れる。

鬼の健脚、入道転ばせ。眼下の妖魔は舞い飛び消える。

鬼の咆哮、夜を揺らし。雑多、あやかしまぼろし。逃げる逃げる。


「ようやく骨のある奴のお出ましか。

でもよ?俺の前でイキってんじゃねぇぞ。不愉快だ。」


雲を割いて影伸びる。月に踊る魑魅魍魎。次なる演目は国づくりの巨人ダイダラボッチ也。

まがつ鬼が何するものか。我に平伏せ。小さき者よ。


大江の山の鬼が意地か。勇猛果敢。掴みかかる腕に飛び掛り指を折る。

振り払われればお次は棍棒を求める。閃光散らして引き抜かれるコンクリート柱。落ちる電灯が一層闇を深くし、幻は闇に姿を確かとする。

国引きの巨人が意味するは何か。生ぬるい吐息が場を支配する。

怯えたか鬼。やみくもに昆を振るう振るう。それは夢見の悪い子供のよう。


「…ッチ。」


ここまでの幻覚となると生気の消費も早い。

額に流れる汗は疲労か焦りか。


「傾注。荷が重いと見える。主よ。退くならば今。」

『否。これでは終わらず。…そうであろう?』


「あ゛?お前。冗談とか言えんだな。ちょっと見直したわ。

焚きつけのつもりか? …ノってやるよ。

神だろうが鬼だろうが知るかってんだ。


頭が高ぇんだよ。俺に平伏せ。」


悪夢とは何故恐ろしい。果てを知らぬが故。

幻覚まぼろしとは何故恐ろしい。月をも隠す悪夢を魅せるが為。


月まで掴もうか巨人の腕。握り締めたそれ振り下ろす。

怒号。轟音。街に吹く突風は夢現に惑う街が見る悪夢。


夢の終わりは月明かりと共に。明かりに溶ける百鬼夜行。

倒れる鬼を見下ろすはあやかし統べるぬらりひょん。


「よぉ、いい幻覚ユメ見れたか?」


二閃。苦痛に歪む顔が転がり果てに見るは一人と二振り。

眼鏡を掛け直し振り返る男は見下ろす。


「お代はテメェの命で取っとけ。」


霧散。静寂を破り雨が夢の跡を流していく。


吐き出しかけた息を轟く雷鳴が押し留めた。

雨に風。輝く雷の降る様は異様。

街に舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ。


「いよいよ大詰めか?」



明けぬ夜は未だ晴れず。夜の帳の第三幕はもう間近。

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