【創作企画】刀神・参加作品 異聞集

@GAU_8

第一幕 現は夢。幻は夜に影を落とす。

時は令和。師走迫りし霜月の末。突如として街は夜に包まれ月、是を嘲る。

宙に怪し浮かぶ”緑の月” 蔓延り我が物顔で堂々闊歩する魑魅魍魎。

敵を討てと号が飛ぶ。つわもの共が見るは夢か現か。


静か灯りの消えた無人のビルを背にこの男。道善義巳もまた天照に所属する刀遣いとして動き出していた。手にする刀は脇差二振り。百花繚乱と名乗る兄妹刀。


「来たり。心せよ。」


「予測通り。時間もポイントもドンピシャとか、ちょっと気持ち悪ぃな。」


鳥居が宵霧の中から現れる。世に疎まれた悪鬼の類ぞろり。

容姿散々。砕けた甲冑に破れた布切れ。されど、刃は鋭し。

眼。血に飢えた獣のよう。生を阻む嫉みの視線。


「またぞろぞろと出て来やがって。凄い不愉快。」


『感情は時に知恵を鈍らせる。折ってくれるな。吾らは脆い。』


「…あ゛?誰に言ってんの?それ。………で、何が出来んの。」


「如何様にも。主の望み描いたもの全て現そう。」

『しかし、対価は重く。此度のみは吾らが導こう。』

「故に。吾らを抜くが良い。」


鞘の擦れるざらついた音。月明かりに照らされ、刀がここではない景色を映し出す。

くんっ。と体が一段重くなった気分。コイツ等同意も無しに持っていきやがった!


妖魔達がそれを見逃さず駆け出す。…けれど違和感。


「……何やってんだ?あいつ等。」


『否。構えている。吾らの幻は見せるだけに非ず。』

「然り。手に取り、眺め、口に含むも全て。吾らが手中。」


ぼんやりと視界に映りこんでくる『お任せコースのメニュー』

確かに霞んだ刀を思い思いに構えている。

コイツ等の補助がなければ俺にも確かな武器に見えていたんだろう。


「煮るも焼くも主の思うがまま。」

『防ぐ必要はない。あれなるは幻。吾らが不都合なく惑わせよう。』


言われるまでもないと斬りかかって来た。…いや、殴りかかってきた一体を刎ねる。

パキンと幻の刀が折れて宙を舞う。まるで俺が刀ごと斬ったかのように。


「成程な。」


次々切り倒される妖魔だったものが背後で霧散していく。振るわれる刀を庇う必要も、防ごうと構えた刀を気にする必要も無い。

逃げようとした奴は幻影の俺に逃げ道を塞がれ、戸惑う内に霧散させた。

そうこうしている内に既に残すは一体。…このまま斬る。


「オイ!何しやがる。何のつもりだテメェら?あ゛!?」


『制。先には行かせぬ。状況が変わった。』

「吾らの幻破れたり。只者ではないようだ。」


腕を広げ立ち塞がった二人の先。の刀を抜き放つ着流しの剣客の姿。

幻が殺到し、流れるように次々斬られていく。


「それを斬るってことはまだ完全に抜け出せてはいねぇみたいだな。

なぁ、何でも見せられるんだろ。次は何だ。デカイ鬼でも見せるのか?」


『不足。虚仮おどしでは足らず。われの名と。』

の名。知らしめよう。吾らを知るにも都合が良い。」

『吾らが惑わすは目だけに非ず。』「その身を以て知るが良い。」


斬られて倒れた幻が一斉に花開く。彼岸に咲く赤の花。揺らめく姿は炎にも似てちり…と焦げる。

突如燃え上がった身体に為す術も無く崩れ落ちる哀れ人斬り。


…熱ぃ。こっちにまで熱が伝わってくる。だが、コイツ等の異能は花を咲かせることでも、炎を操ることでもない。ならこれは…


「然り。吾らの異能は五感を蝕む。力あれば厄災さえも。」

『故に。吾らに惑う無かれ。現と幻。狭間に落ちる。』


ぱっと感じていた熱が消える。燃える妖魔はただ蹲り悶えているだけ。

悪夢の主人にでもなった気分だった。これでおかしくなるのも納得出来る。

だがそれはそれ。こんなにも簡単に斬れると張り合いがなくって、それはそれでムシャクシャする。


「今回はチュートリアルってところか。相手が低位の奴等で助かった、な。

…。


…なぁ。………いや、いい。」


「失せ物を現すなど容易。満足な身体が望みか。地を踏む感覚すら思うまま。」


「やめろ、それは否定だ。俺の後悔も今頑張ってるアイツも。誰かが勝手に触れていいもんじゃねぇんだよ。」


キッと睨みつけられた刀神が僅かに頭を下げる。


「御意。」


「…次。まだやる事ばかりだから休んでられねぇの。お前らの使い方は何となく分かったから、次行くぞ。」



時は令和。師走迫りし霜月の末。夜に影下す幻覚ゆめの始まり。

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