第49話 僕が追い詰められた話
――考え抜いた末に、僕はこの結論に至った。
「もうこうなったら、奇襲しかない……!」
「あ。終わったのか?」
決意を固めて立ち上がった僕。それをベッドでゴロゴロしていたヒスイが、どうでも良さそうに声をかけてくる。僕が必死に必死に考えていたのにこれだ。
「行こうヒスイ。今すぐにだ!」
「え? 何言ってるんだお前」
「あいつ等がここを見つけた以上、一刻の猶予もない! 今すぐにアジトへ奇襲を掛けよう! さあ急いで! 全てが終わってしまう前に!」
僕はヒスイの手を引っ張って無理やり起こし、すぐさま部屋を出ていく。
「え? おい、え? 待てよ、作戦はどうなったんだよ」
「奇襲する!」
「それは作戦じゃねえぞ!? お前、私になんて言ったか覚えてるか?」
もうじっくり考えている暇なんてない。
敵は僕たちを探している上、場所に当たりを付けてきた。つまり彼らは僕たちのことを危険視していて、かつさっきの攻撃で僕たちの居場所を特定したと考えていいだろう。
こうなったらもうジリ貧だ。この街で逃げ続ける事なんて出来ない。ヒスイが持っている情報も当てにならなくなる。そうなれば僕たちが優位に立つことは無理だ。アジトに近づくことさえ難しくなるだろう。これ以上、余裕が無くなる前に手を打たないと……!
「――僕がルヤタンに殺されかねないっ……!」
「なんか言ったか?」
「何でもない! さあヒスイ、今すぐ僕をアジトまで案内してくれ!」
「……お前、なんか自棄になってないか?」
「やってやるぜチクショウメ!」
「まあ、私は姉さんが無事ならそれで良いんだけど……」
ヒスイを先頭に僕たちは寂れた町を抜けていく。途中で彼女は敵を何度も見つけたので、その度に迂回した。結果、朝から行動していた僕たちがアジトへ辿り着く頃には、太陽は天頂を越えていた。なんだか今日は酷く熱い。汗が止まらない。体力もゴリゴリ削れていく。
「おい、着いたぞ……?」
「はぁ……はぁあ……」
「何へばってるんだよ。奇襲するんだろ」
「だって、この暑さで……ヒスイが変な道ばっかり……」
「体力無ぇなあ」
僕が膝を抑えて呼吸を整えているのを見て、ヒスイが大きくため息を吐いた。僕が顔を上げると、彼女も胸を上下させている。息も荒い。なんだ、彼女も疲れているんじゃないか。
「少し、休んでから行こう。流石にこのままじゃ、僕もすぐ捕まりそうだ」
「……わかったよ」
ヒスイの指示に従って、アジトの入り口が覗ける廃屋へと移動する。中は暗いし埃っぽいし、なんだかカビ臭いしで酷いものだった。けどまあ仕方がない。出来るだけ風の通る場所へ座り込んで、僕たちはアジトを前に休息する。
「やっと……やっとだ」
彼女の声に顔を向けるけど、彼女は僕に反応しなかった。無意識に漏れたのだろう。その顔は真剣そのもので、切羽詰まった物を感じる。落ち着いていたと思っていたけど、やっぱりヒスイは早くコハクさんを救いたいのだろうな。
彼女のためにも、この件は早く片付けてしまおう。
「ヒスイ、アジトは人が出入りしてる?」
「……えっと」
ヒスイは素直に動いてくれた。
少し嬉しかったのは秘密にしておこう。
「何だ……なんか、変だな」
「? 何かいつもと違うの?」
「見張りの数が……いや、入口にいるのはいつも通り二人なんだけど、たぶん……隣家に誰も居なくなってる……」
「――分かるの?」
「建物の中は見えないけど、窓辺に鏡が置かれてない。誰かが居る間は置かれてる筈なのに」
「それは……ちょっと、マズイかなぁ」
どういう事だよ、とこちらに振り返ったヒスイに、僕は呼吸を整えて話す。
「もう、始まったかもしれないよ……暴動が」
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