第40話 僕がスキルに恐怖した話

 何だ今のは。

 何かに引きずり込まれた?


「ヒスイ!!」


 相手が何だとか、中の状況とか何も考えずに、僕は反射的にスキルを使い、中へと飛び込んでいく。加減も何もない全力の移動で、周囲には強烈な破裂音が響いた。


「な、なんだ!?」


 飛び込んだ先、埃だらけの建物の中に居たのは、ヒスイの口と腕を抑える男が一人と、それを見守る様に立つ男が3人。全員がみすぼらしい衣服を纏っていた。ここに居ついた貧民たち……だろうか。まあ相手が誰だろうと関係はない。彼女は僕の恩人だ。


「悪いけど、容赦はしない」


「!? コイツ、どうやって入って……」


 後ろにいた男の一人が、腰からナイフを抜いた。ヒスイはまだ拘束されている。ならこの男は手を出せない。先に倒すべきは後ろの3人だ。僕は電光ジャンプで男の後ろへと回り込み、電光体のまま彼の背中を全力で殴りつける。


「ぁがぁああああああ!?」


 バチン、と自分でも驚くような衝撃が走った。殴った男の背中には赤く爛れた肌が露出し、車に轢かれた様に吹き飛び、床を転がっていく。


「え?」


 自分の繰り出した攻撃に血の気が引いた。

 だがそんな間にも他の男が襲ってくる。僕は混乱しながらも応戦した。


「っがぁ!?」

「ぐぎぃいい!!」


 先よりもやや力を抜いて、命に支障がない箇所を狙って攻撃する。失神を狙いたかった。けれど僕の攻撃は失神をさせるには至らず、男たちを激痛でのたうち回らせるに留まった。


「な、なんなんだよコイツ……聞いてねえぞ!」


 ヒスイを拘束していた男は惨状を見て逃げ出す。

 ……逃がしてはいけない気がした。

 だけど僕は攻撃の力加減が解らなくなって、手を出すことが怖くて出来ない。

 結局、男はすばやく逃げ出しその姿を消した。


「うっ……けほ」


「ヒスイ、大丈夫?」


 電光化を解き、床へ放り出されたヒスイを抱き起す。

 彼女は何度か咽た後に、僕に向かって笑いかけた。


「あ、はは……やっぱりお前、強いんだな」


 話す彼女の体は震えている。怖かったんだ。

 どう声を掛けようかと迷っていると、ヒスイは僕の体にしがみついてきた。


「悪い、助かった。……ありがとう」


 鼻に掛った消え入りそうな声。


「……無事でよかったよ」


 安心させるように、優しく彼女を抱きしめる。

 きっと震えが止まるまでは動けないだろう。

 僕はそっと後ろを振り返る。


「……」


 倒れた男たちが小さくうめき声を上げていた。

 起き上がる様子はない。

 いや起き上がるどころか……。


「……あ、あれ?」


 ふと、自分の手が震えていた事に気付く。

 人を傷つけるってのは怖いんだな。獣相手には何も感じなかったのに。コハクさんとの戦闘をベースに考えていたから、スキルの力加減が分からなくなっていた。この能力は加減も無しに一般人へ使うのは止めた方が良さそうだ。

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