第34話 僕が再び死を覚悟した話
「っとぉおお!?」
僕は迫ってきた火球から反射的にジャンプして逃げる。火球はそのまま石の壁へ衝突、這うように四散して消えていったのだけど……当たった箇所がぐにゃりと変形していた。あんなん生身に当たったら即死じゃないですかやだー。
「……私の家族に手を出そうなんて、とんだ命知らずじゃない」
おかしいなぁ。以前聞いた時はもっと涼やかな高音だったのに、今聞こえてくる声はすんごい低いしドスが効いているや。って暗闇からゆらぁりと現れないでよ怖いから。
「ちょちょちょちょちょっと待って! 誤解! 誤解してる! 被害者は僕だから!」
前と同じ灰色のローブを羽織った彼女は、顔を隠すように深く被ったフードの向こうで、その口を開いた。
「――平等なる灰の母よ、穢れを祓う赤き絹よ。我が求めに応え、淵より昇りて彼を射貫け――エクスヘルファイア!!」
うえええ!? いつかエリナが僕を〇そうとしたアレじゃないか! 冗談じゃない! いくらこの体でもあんなん当たったら死ぬわ!!
僕が本気で死を感じたその瞬間。
「フィクス・リローデッド! セブンゲート!!」
「はぁああああああああああああああああ!?」
続く彼女の声に思わず声が出た。
いやそりゃあ出るよ! だってあれ、発動させた魔法を固定して、更に増加させるヤツだもん! セブンゲートって事は7倍!? ってかさりげなく詠唱破棄までしてるし!!
「やばいやばいやばいそれはヤバいって! 家の中! ここ家の中ですよ!?」
「やったれ姉さん!!」
「ハイそこ煽らないで!!」
まさかこんな屋内じゃね! 流石にね! 流石にこれはただの脅しでしょう! 正気の人間が自分の家の中でこんな凶悪な魔法をぶっぱなす訳ないじゃんね! ね!?
「フルファイア!!」
「嘘でしょ!?」
本当に発射した! ランダムに屈折しこちらへ迫る必殺の炎線。どれもが別方向へと向かい、僕に対して面で襲い掛かってくる。本来のエクスヘルファイアはこんな軌道を取らない。何か別の魔法と組み合わせているのだろうか。この人、予想以上にとんでもない魔法使いだ。
こ、こうなったら全部避けるしかない!
研ぎ澄ませクロス。意識を加速させろ。時を止めろ。迫る必殺の火炎、全ての軌道を捉えて、正確に電光ジャンプを繰り返して射程から外れるんだ!
さもなきゃ死ぬ!!
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
叫びながら最大細密に集中し、体を滑らせながら死の網をかいくぐっていく。電光化の影響だろうか、意識を強く保つことで、電光移動中もしっかりと距離の把握が出来た。どうやら僕の思考も加速したらしい。矢の様な速度で迫るソレが酷くゆっくりと見える。恐らく死を目前にした事でスキルの真価を引き出せた……という事なんだろう。
いや……うん……新たなレベルに達したことは嬉しいんだけどさ……まさか悪戯心のしっぺ返しなんて状況だと……なんだか複雑な心境だ。
「……避けた……ですって?」
驚愕の声を発する女性。そして電光のまま、生きてることを驚いている僕。こんな状況じゃなきゃ「やってやったわぁああああああああ!」と叫んでいたことだろう。
「見たかぁああああああああああ!!」
いやごめん、やっぱり我慢できなかったわ。
「?……この声」
僕が叫ぶと、彼女は動きを止めフードを上げ、長い黒髪をかき上げた。現れたのはとんでもない美女だ。小さな顔、美しい鼻筋、大きな瞳、厚みのある唇。僕が今まで出会った人間が西洋風だったのに対して、彼女は東洋風の顔立ちだった。
そういえば、後ろの盗人も顔立ちが似ている。クリームの街の人々は西洋風の顔立ちだったし、彼女たちはこの地域の生まれではないのかもしれない。
まあなんにせよ、目を見張る美貌の持ち主で。
僕は不覚にも一瞬、見惚れてしまった。
「……って、貴方、あの時の坊やじゃない」
「もっと早く気づいて」
僕の後ろには、熱線で紙のように引きちぎられた石の壁×3軒分が重なっている。あんまりにも綺麗に切り取られているので、ちょっとしたアートになっていた。
「ば、化け物だ……! 姉さんの魔法が効かないなんて……!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます