第33話 僕が彼女と再会した話

 目を覚ましベッドから起き上がる。一人になった部屋はなんだかとても広い。ジルベルトさんとエリナは、行政区へ泊まり込み警護に当たることになった。結果としてエリナの部屋が不要になったので、ルヤタンの袋はこの部屋のベッドに置いてある。


「おはよう、ルヤタン」


 声を掛けてみるけど、返事はない。あの夜以降、彼女は袋から出てこなかった。おかげさまで僕はひとりぼっちだ。寂しいものだね。


「二人に会う事も難しそうだしなぁ……」


 身支度を整えた僕は、一階の食堂でご飯を食べる。今日の食堂はやけに静かだな……と周りを見るけど、別にいつも通りの賑わいを見せていた。いつもと違い賑わっていないのは、単に僕の周りだけだった、って話だ。


「なんか面白いこと無いかなぁ」


 食事を終えた僕は、ふらりと街に出かけてみた。肩にはルヤタンの袋を担いでいる。ジルベルトさんに「ルヤタンを見ていてくれ」と言われたので……というよりは、ただ寂しかっただけかもしれないけれど。


 街の喧騒を聞いていたら、不意にルヤタンがぴょこん、と出てくるかもしれない……なんて期待している自分がいた。


「賑わってるよー。楽しそうだよー。気にならないのルヤたーん……」


 小さな声は喧騒に消えていく。街は相変わらずの賑わいだ。だけど街を行く人々の顔はいつもより濁っている。聞こえてくるのは昨日の時計塔襲撃の話。そして「暴動が始まるらしいわ」という不安な声。


「暴動か……」


 昨日の行政区でタジリスさんが話していた事、そして時計塔を破壊したあの女性を思い出す。暴動というのも、あの人が関わっているのだろうか。


「こんなに平和な街なのに……どうして暴動なんか起こるんだろ」


 ぐるりと街を見渡したその時。


「あづっ」


 突然、目の前から何かがぶつかってきた。何事だと下を向けば、ぶつかったらしい少年がすぐさま脇を駆け抜けていく。と、彼を目線で追いかけた瞬間、しゅるりと左手から袋が抜けた。


「!?」


「ウスノロ」


 背後から聞こえたのは高い声。また子供?

 っていうかルヤタン(袋)が盗まれた!


「大変……でもないけど、後で本人に怒られそうだから追いかけよう!」


 盗んだ子供が逃げていったのは街の路地。その影もすぐに角へ消えてしまった。僕も追いかけて路地へ入り角を曲がったけれど、どこにも子供は居ない。道は迷路の様に入り組んでいて、どこへ逃げたのか追うのは非常に難しそうだ。


「ふっ――だがここで諦めるクロスさんではないッ!」


 僕はすかさず全身を電光化し、上空へとジャンプした。3回ほど飛んで建物の上へ移動すると、そこから子供の姿を探す。いなければ別の建物へ、更にいなければ別の建物へ。そして5回目でようやく白い袋を担ぐ子供を見つけた。


 ぶかぶかの服と、継ぎはぎだらけの帽子を被った子供が、器用に障害物を避けて路地を走っている。小さいし、僕より一つ二つは年下かな。だけど凄いスピードだ。男の子だろうか。


「クックック……見つけたぞぉ、悪ガキめぇ……!」


 僕は獲物を追い詰めた悪党さながらにじゅるりと舌なめずりをし、電光の姿でジャンプを重ね少年へ肉薄していく。やがてバチチチ、というかなり大袈裟な破裂音と共に、彼の前に立ち膝で着地。立ち上がりながら悪い顔をして顎を上げ、横目でニチャァと笑う。


「見ィいいい、つけぇえええ、たァあああああ……!!」


「ひぎぃいいいいい!!」


 子供は化け物でも見たかのような悲鳴を上げて、近くの廃墟へと駆けこんでいった。なんて失礼な子供だろうか! 僕は再び口元を釣り上げながら電光ジャンプ、少年の前へと回り込み、今度は四つん這いの状態でぐりん、と首を上げて微笑んで見せる。


「ねェ……置いていくなんて酷いじゃないかァ……!」


「ぴぎゃぁああああああ!!」


 子供は大声で泣き叫びながら、それでも袋は離さず隣の部屋へと駆けこんでいく。だんだん楽しくなってきたのは秘密である。


 僕はもう一度ジャンプして外を迂回し、彼が駆け込むであろう部屋へと先回り、四肢の形状を楔に変化させて、扉の真上に張り付いた。僅かに遅れて、子供が後ろを振り返りながらぜぇぜぇと息を切らしやってくる。


「な……なんなんだ、あの光るバケモノ……でも、でもここまで来れば姉さんが助けて……」


 僕はそーっと彼の背後へ体を下ろし。

 ウィスパーボイスで叫んだ。


「へぇええええええ、誰がッ、助けてッ、くれるってェえええええええ!!!」


「もういやぁああああああああああああああ!!」


 ん? この声……もしや女の子?


「姉さぁあああああん助けてぇええええええ!!」


 女の子が部屋の隅へと駆けこんでいく。

 ――その瞬間。


「爆ぜろ、フレイム!!」


「え?」


 なんだか聞き覚えのある声と攻撃が飛んできた。


 

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