第32話 僕がエリナと離れる事になった話
その後、僕は二人が向かっているであろう塔へと歩いて戻り、ジルベルトさんに女性の事を説明した。彼女と出会った経緯については、僕が塔から逃げていると偶然、街角で出会ったと言う事にしておく。
「……なるほどな」
「何か思い当たることがあるんですか?」
「いや、まだわからん。ただ……」
「ただ?」
「面倒な事にはなりそうだ」
ジルベルトさんは顎に指を当て、物凄く渋い顔をしている。
と思ったら、突然こちらを見た。
「そういえば。そんな相手と対峙してよく無事だったな」
「え? ……ああ。僕が子供だから、見逃してくれたんじゃないですかね?」
なんとなくスキルの事は隠しておいた。なんか色々と突っ込まれそうだし、説明すると更に面倒な事になりそうだし。
「……運のいい事だ。だがあまり危険な事に首は突っ込むな。俺がお前を守るにしても、目の届く場所に居なければどうしようもない」
「すみません」
その後。
エリナの魔法により、なんと塔は『完全に』再生された。
「見て下さいましクロス! 完璧ですわ!」
「相変わらずとんでもない」
はしゃぐエリナを横目に、僕はびっくりするくらい綺麗な時計塔に唖然とする。でもなんかもう……慣れてきたかもしれない。前より驚いてないわ。
「なんという……! こんな奇跡が!」
変わりに、様子を見ていた偉そうな大人たちが物凄く感動していた。そうだよね。まあそれが普通の反応なんだよね。僕にはもう出来ないけど。
「失礼……英雄、ジルベルト・オーガー様とお見受けいたしますが」
「ああ、そうだが」
様子を見ていた中でも一際、偉そうな人がジルベルトさんに話しかけてきた。彼らの話に聞き耳を立ててみると、どうやら彼……タジリスはこの街を治めている人間らしい。
「実は……このクリームの行政区に対して、近日、暴動が起きるという噂がありまして」
「……それは、物騒な話ですね」
彼によると、どうやらこの時計塔周辺は街の行政を支える機関が密集しているそうだ。今回塔が狙われたのは、街の行政に不満を抱えた誰かの仕業であり、暴動の首謀者ではないか、と考えているらしい。
となると、あの女性がそうなのだろうか。
「どうか我々に、力を貸していただけないでしょうか。もちろん報酬は十分な物をご用意いたしますので。どうか」
タジリスさんの提案に、ジルベルトさんは考え込んでいた。まあそうだろう。ジルベルトさんの目的は『例の予言』の調査なのだし、あまり他に関わる時間もないだろうし。
「良いでしょう。長くは引き受けられませんが、3日ほどは協力します」
「え」
引き受けるの?
「おお! これはありがたい! これで街の皆も安心いたします!」
大喜びした男性は、後日ここを訪ねてほしい、と何かを紙に書き留めてジルベルトさんに渡し、去っていった。僕はすかさず駆け寄った。
「受けるんですか?」
「ああ。旅の路銀にもなるし、俺の調べたい事にも関わっていそうだからな」
街のごたごたが調べたいこと? じゃあ僕がスキルを奪った魔王は、ジルベルトさんの目的ではなかったのだろうか。……もしかして僕、余計なことをしたのでわ?
よし……スキルの事は当分、黙っておこう。
「それと、この件はエリナ様にも協力して貰う」
「私もですの?」
「エリナ様の魔法は強力です。改めて目の当たりにしても、信じられないほどに。貴方の助力があれば、暴動が起きた際、犠牲者を減らすことが出来るでしょう」
それは……まあ、その通りだろう。不安そうにこちらを見たエリナに、僕はためらいながらも頷いて見せる。
「数日はエリナ様の力を借りる事になる。その間、クロスはあの魔王……ルヤタンを見ていてくれ。別に渡した金はいくら使っても構わないからな」
「まあ……それは……嬉しいですけど」
でもなんだろう。
エリナと離れるのは、なんだか不安だな。
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