第27話 僕が新たなスキルを使った話
もちろん、読み漁った文献とか禁書で知っていたし、目の当たりにもしてきた訳だけど。
「いざ自分で使ってみると、やっぱり魔王の種って凄まじいな……」
両手をぐっぱーしながら、手に残った触感を確かめる。意識する事で幾度か電光がパチンと弾けた。ふむ、と鼻を鳴らして右手を上げ、そのままやや高い位置に電光を走らせる。
くぐもった破裂音が轟き、電光が夜の闇を僅かの間だけ吹き飛ばした。明るくなったその一瞬と余韻の時間で、周囲をぐるりと見回す。
「……流石にもう居ないかな」
照らされた草原の上には、瀕死の狼がいっぱい横たわっている。全部で十数体ほど。僕の電光によって体を痙攣させ、口から泡を吐いていた。殺してはいない……筈だ。たぶん。
しかしまあ、こんな惨劇じみた光景を『僕が生み出した』って事が、目の当たりにしている今ですら少し信じがたい。
狼との戦闘には攻防も何もなかった。蹂躙と言っていい。僕が手にしたこのスキルは、望む箇所に強力な電撃を発生させられる様で、恐らくは視界全てが射程範囲。使ってみて『これが弱点かな?』と思えるものは、発動に若干のラグ(1秒にも満たない)があったことくらいだろうか。軽く使った程度では疲労や倦怠感もないし、スキルの使用に大きな負担がかかる、という事もなさそうだった。
それと、自身の体から電光を放った際に感じた感触からして……たぶん、僕の体そのものを電光に変えることも出来そうだ。という事はつまり、頑張れば電光化して高速移動とかも出来るってことで……いや、そもそも任意の箇所に電光を集約できるんだから、これって傍目にはワープみたいな事が出来る、ってことでは?
けれど……きっとスキルにも何らかの対価がある筈だ。
僕は未だそれを記述した文献に出会っていないし、むしろ書物では『無制限の奇跡を生み出す物がスキル』といった記述が多いけれど、鵜呑みにするには怖い情報だ。
何があるかわからない。
自分の体と相談しながら使っていく事にしよう。
「でも……これを持っていた相手を捕獲したのが、ルヤタンなんだよな」
すやすやと寝息をたてる彼女を見下ろす。割とうるさかったと思うんだけど、何にも気にしてないみたいだ。日中もかなり寝ていたとは思うんだけど。
「ルヤタン、ルヤタン、終わったよ。帰るよ」
ほっぺたをつつきながら話しかける。彼女はくすぐったそうに笑った。可愛い。このまま見ていたいけど、流石にちゃんと起こさないと。
「るーやたん、るーやーたーん、起きてー」
「むぅぅぅぅ。儂は眠いのじゃ……起こしてくれるな……zzZ」
「全っ然っ起きないな」
袋も見当たらないし、おぶっていくしかない……かな?
まあ勝手にやるのもアレだ。一応、本人には断っておこうか。
「ルヤタン、起きないなら僕がおぶって運んじゃうよ。いいの?」
「宜しく頼むのじゃぁ……」
「即答じゃん」
それから僕は何とかかんとかルヤタンをおぶり、街へと戻っていった。見た目通り、ルヤタンは物凄く軽い。あと柔らかかった。そんな訳だから、おぶっている最中は色々と考えてしまったのだけど。
「……げ、アレってジルベルトさんじゃないか?」
不意に郊外へ向かって走るジルベルトさんを見つけた瞬間、ヨコシマな考えは全部吹き飛んでしまった。見つかったら間違いなく怒られる!
「……はぁああああ、すんごい疲れた」
宿に戻ったのは、それから30分くらい後だった。普通に直帰していれば10分は短縮できたんだろうけど、メインストリートだと見つかるかもしれないと思い、散々遠回りをしたのだ。そうなるといくらルヤタンが軽いとはいえ、体が悲鳴を上げる。もう全身が石の様だった。
「おーい、エリナー。起きてるー?」
エリナの部屋の前で、ルヤタンを背負いながらノックをする。
でも返事がない。もう寝てしまったのだろうか?
「こ、困ったなぁ……」
これじゃルヤタンを渡せない。流石にこんなことでスキルは使いたくないし、そもそも勝手に部屋に押し入るのは倫理的にかなり最悪だ。かといって放ってはおけないし。
「僕がソファで寝るしかないか……」
ため息を一つ、僕は自分の部屋に戻り、ルヤタンを自分のベッドへ寝かせる。ジルベルトさんはまだ戻っていない。流石にまだ外だろう。良かった。
「僕にもお金があれば、もう一つ部屋をとれたのかもしれないけど……」
手持ちの資金は少ない。こんなことで使っていたら、この先で本当に必要な時に困る。やれやれなんて言いながら、思いのほか柔らかいソファーに転がる。
「この地域が温暖で、本当に良かった」
眼を閉じる。
疲労が凄まじいこともあって、僕はすぐ眠りについた。
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