第24話 僕が野生の魔王と出会った話
「ちゃんと着いて来るのじゃぞ。あと足元にも気を付けるのじゃ」
「解ってる」
街を抜けて深夜の草原を駆ける。今夜は月が出ていて助かった。前を行くルヤタンをしっかりと視認できる。きっと彼女はもっと早く走れるのだろうけど、僕に合わせて速度を抑えてくれていた。これは素直にありがたい。
「それで、さっきの話についてなんだけどさ」
「む? なんじゃ、疑っておるのか?」
「そりゃね。僕が実感の持てないことを他人から教えられても、なかなか納得は出来ないよ」
ルヤタンと宿を抜け出す際、僕はやっぱり戦闘面での不安があったので二の足を踏んだ。そんな僕を見たルヤタンは「安心せい!」と背中を叩いてこう言ったのだ。
『実はお主には、敵のスキルを奪い取ることが出来る』――と。
聞いた僕は、開いた口が塞がらなかった。
そんなの『一発逆転ボタン』どころじゃない。それこそチートだ!
「まあ儂もゼウスからそう聞いただけじゃしな。真相は分からんが」
「確かにね、僕に与えられたのが『そんなスキル』だったなら『一発逆転』って言葉もよく分かるけどさ……どうして最初から教えてくれないかな」
「ああ、確か『自爆スイッチみたいな感じにしておけば、無闇に使わないし、無茶もしなさそうじゃない?』とか笑いながら言っておったの、アイツ」
「いいねッ、ルヤたん! 僕のヤる気がぐーんとあがった!」
「なんかイントネーションが変じゃったぞ?」
このスキルを上手く使える様になったら、あのうんこからスキルを根こそぎ奪い取ってやろう。そうしよう。そして〇す。絶対にだ!
そうして走る事、約10分。流石に僕がぜぇはぁぜぇはぁし始めた頃、ようやく前を行くルヤタンの足が止まった。彼女は周囲をキョロキョロと見回している。僕を心配して足を止めた、って訳じゃなさそうだ。という事は……。
「近いぞクロス。気を引き締めるのじゃ」
「ぜぇえええええ、わかっげぇえほ! っぜぇええ! ったぇほっ! ごほっ! ぜぇええええ!! ぜぇええええ!!」
「とりあえず休め」
ルヤタンの冷めた目が辛い。だがどうしようもなく辛いので、僕は膝に手を付くことすらせず、そのまま草原へと大の字に倒れ込んだ。心臓が鼓膜を大音量で叩き、自分の意志とは関係なく呼吸が荒ぶる。今の僕には情熱も思想も理念も気品も優雅さも勤勉さも足りないけど、とにかく何より酸素が足りない!!
「ぜぇええええ……ぜぇえええええ!」
あ。陸の上で窒息しそう。
「クロスは体力も付けなければならんのぅ……その辺も、奪ったスキルでカバーできると良いのじゃが」
呆れた様なルヤタンの声もなんだか遠く感じる。ああ、戦闘をこなすなら魔法うんぬんじゃないな。とにかく体力がなきゃどうしようもないや。
「――と、間が悪いの。敵に見つかった様じゃ」
「ぜぇ……よし」
息もようやく落ち着いてきた。僕は彼女の言葉で体を起こす。そのままルヤタンの視線を追うと――その先には月光を浴びて佇む、一匹の白い狼の姿があった。
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