第23話 僕が最初の街に着いた話

「お前ら、もうすぐでクリームの街に着くぞ」


 馬車の外からジルベルトさんが話しかけてくる。出発が朝で、今はちょうど日が隠れた頃。時間にすると10時間は経っただろうか。流石に揺られ続ける事に疲れて、みんな馬車の中でウトウトしていた。


「やっと外に出られるね」


「もうベッドに転がりたいですわ……」


 欠伸をしながらエリナが話す。ちなみにルヤタンはすやすやと眠っている。袋から出て来てしばらくは外の景色を眺めてたけど、割とすぐに飽きて眠っていた。


 そして辺りが真っ暗になった頃。


「着きましたわー!」


 僕たちは初めての街、クリームに降り立った。石造りの高い建物が並ぶ大きな街だ。メインの大通りにはずらりとお店が並び、夜でも明るく華やかで、人通りが多い。賑やかで活気に溢れた中を進むと、なんだかワクワクしてくる。


「今日はここに泊まる。荷物を下ろしておけよ」


 ジルベルトさんが宿の人と話し、部屋へ案内される。僕とジルベルトさんで一部屋、そしてエリナに一部屋とった。ルヤタンは袋に入って眠ると言う事なので、エリナの部屋に置かれている。部屋はかなり綺麗で広かった。割と良い所を選んだみたいだ。


「今日はゆっくり休め。明日は一日、魔王について聞き込みを行うからな」


 と言いながら、ジルベルトさんは部屋を出ようとしていた。


「どこか行くんですか?」


「酒場へ聞き込みと……息抜きにな」


 息抜きに剣を背負っているのはどういう事だろうね。


「もしかして、もう魔王について何か分かってるんですか?」


 ジルベルトさんは少し沈黙し、重たそうに口を開いた。


「一件はな。夜にのみ活動する個体で、それほど大きな力を持つ魔王ではないらしい」


「僕も着いて行って良いですか?」


「ダメだ」


 僕の意見は一瞬で却下された。

 反射的にムッとする。


「ルヤタンは魔王だ。戦闘力は十分な物があるだろう。そしてエリナ様もまた、規格外のスキルを有している。戦闘経験は無いが、能力は高い。だがお前は二人とは違う。ただの子供だ。着いてきたとしても、足手まといにしかならない。そもそもお前をこの旅に引き込んだのだって、魔王と戦わせるためじゃない。魔王ルヤタンを制御し、破滅の原因への対策にする為なんだ」


「それは……でも!」


 僕にも規格外のスキルがあります……なんて言いそうになって、飲み込んだ。一発逆転ボタンは確かに強力だけど、一方で結果が解らない不安定な能力だ。役に立てるかと言われると難しいだろう。


「お前はバカじゃない。分かってくれるな?」


 言い方がズルい。反論し辛いじゃないか。


「言っておくが、お前の能力が低い訳じゃない。それが普通なんだ。エリナ様の年齢で魔王に通ずる実力を持っている人間なんて、国内に数人しか居ないだろう」


 正論だけど、そんなの慰めだ。僕だって解ってるさ。でもその例外が目の前に居るんだ。どうしたって劣っていると感じてしまう。悔しいじゃないか。歯がゆいじゃないか。せめて僕にも、魔法が使えたらよかったのに……!


「……明日から忙しい。よく休んで体力を回復させておけよ」


 そしてジルベルトさんは部屋を出ていった。

 流れる沈黙が痛い。


「僕だって、やれるのに……!」


「ふふふ、悔しそうじゃなクロス」


「のぉわぁああああ!?」


 僕が俯いた瞬間、後ろからルヤタンがにゅっと出てきた。あまりにも驚きすぎて酷い声が出た。心臓がバクバク跳ねている。


「な、なんで、どうやって!? っていうか心臓に悪い!」


「ふっふっふ、儂は魔王ぞ? お主の部屋に忍び込むくらいお手の物じゃ!」


 綺麗な銀髪をふぁさっ、とかき上げ、小さな胸を誇らしく張る魔王。可愛い。


「行きたいんじゃろ、クロス。儂が連れていってやろうか?」


「……!!」


 怪しく笑うルヤタン。

 僕はその時、彼女がとても頼もしく見えた。





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