第22話 僕がエリナに事情を聞いてみた話
「エリナ」
「あ、戻りましたのね。外は楽しかったですか?」
僕が扉を開けて戻ると、窓の外を見て黄昏ていたエリナがこちらを見て微笑んだ。あんな話を聞いたせいで、彼女が先までと別人に見える。
『エリナは他の誰かと結婚する』
不意にそんな事を思うと、酷く胸が痛んだ。エリナがこんな淑やかに、そして物憂げな顔を見せるのは縁談の話を受けようとしているから……なのだろうか。旅が終わったら、彼女は知らない誰かと結婚して、その人と家族を作るんだろうか。
いや、まだそうと決まった訳じゃない。
沸き上がる不安を押し殺して、僕は覚悟を決めて口を開く。
「エリナ、聞きたいことがあるんだ」
僕は彼女の前に腰を下ろし、じっと目を見つめて話す。
彼女を見ていたら物凄く緊張してきた。
えっと……何を聞くんだっけ。聞こうとしたんだっけ。
確か……えっと。
「エリナには……その、結婚相手が、いるの?」
「え?」
あ。違う。僕はまずいつもと様子が違うってことを聞きたかったのに! どうしていきなり確信から話してしまったんだ! ばか!
「あー、えっとその、エリナの様子がなんだかいつもと違うからさ、ジルベルトさんに相談してみたんだけど、そしたらエリナには縁談の話があるとか言ってさ! 僕はうっそだーと思ったんだけど、やっぱり気になってさ、だからその……確認をしておこうと、思って……」
うわぁあぁあぁあ口が勝手に回る。何言ってるんだ僕は!
取り乱したのがバレバレな僕を見て、エリナはきょとんとした後に、ふふふっと上品に笑って見せた。ああああもう恥ずかしい。どうしたってんだ僕は。
「クロスは、やきもちを焼いてくれたんですの?」
「や、やきもちなんて! 別に! 僕はただその……気になっただけ、というか……」
エリナの余裕ぶりが何だかとても悔しい。いつもは逆なのに!
「ふふふ、お母さまの言った通りでしたわ!」
「……はい?」
なんだか急にいつものエリナっぽくなった。
っていうか、ん? お母さまの言った通りって? え?
「あ、縁談は確かにありますわよ。受ける気はありませんけど」
「……」
つまりえっと……エリナの態度と縁談を結び付けて考えてたのは、僕の勘違いってことで……良いのかな? ああもううまく頭が働かない!
「私はむしろ、クロスが心配ですわ。ルヤタンもそうですけど、昔からクロスは他の女の子にも人気がありますし、誰にでも優しいですし、もっと……もっと私を見てくれても、良いんですのよ?」
にじり寄ってくるエリナに、いつもほどの抵抗も出来ていない。たぶん僕は喜んでいるんだろう。エリナが離れてしまうかもと不安になっていた所に、いきなり好意を伝えられてしまったから。
「あ、いや……ちょ……!?」
迫るエリナの顔。色眼鏡を外せば彼女はかなり可愛いんだ。この年齢で目を引くスタイルの良さも、普段は意識しないのに今はこんなにも気になってしまう。今の僕はどうしようもなく頭がゆだっていた。魅力的な異性と二人きりで、素直に好意を伝えられ、身体を寄せられるというこの状況が、理性をことごとく吹き飛ばしているのを感じる。
「私の一番は、この先ずっと……」
エリナの瞳が閉じていく。吐息が近い。
唇に感触を錯覚したその瞬間。
「んあー! よく寝たのじゃー!!」
「「ひゃぁあぁあぁぁあぁあぁああ!?」」
目を覚ましたルヤタンが袋から飛び出した。
勢いよく離れる僕とエリナ。それを訝し気に見るルヤタン。
「なんじゃ、その反応」
「あ、あはは。おはようルヤタン」
「う~……(タイミングが最悪ですわ)」
「なんか怪しいのう……」
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