第18話 僕がジルベルトさんに救われた話
その後。
「離して下さいまし! 離して下さいまし! 私はヤらねばなりませんの!」
「その物騒な口は塞いでおきましょうか」
「ふむぅんんんんんんん!!」
僕とルヤタンを消滅させんとするエリナは、後ろから追いかけてきたジルベルトさんによって取り押さえられ、ついでに猿ぐつわされ、最後には魔法で拘束された。
――やはり、僕は何よりエリナの魔法が恐ろしい。
ふと足元が明るくなっていた事に気付いて、空を見上げた。ヨルムンガンドが消えている。だからジルベルトさんとエリナが来たのか。
「……」
消えたのはゼウスが去った辺りだろうか。ならヨルムンガンドはゼウスの為に出ていたのだろうか? まるで彼を隠すように。
「……まあ、いいか」
深く考えても答えは解らない。いずれまたうんこたれにも会えそうな気がするし、その時にでも縛り上げて殴り倒して毒をチラつかせて吐かせる事にしよう。
それから僕とエリナとルヤタンは、ジルベルトさんに改めて旅についての説明を受けた。内容は大体こんな感じ。
・彼は予言を阻止するため旅をしている
・僕たちは彼と共に旅をする事になった
・出発は三日後(←!?)
「以上だ。君たちの家族には明日、私が直接出向いて説明をし承諾してもらう。君たちは旅の準備をして、三日後の朝9時に中央広場へ集合してくれ。フルビス王国の紋章が入った馬車が目印だ。それに私は乗っている」
「はい! 質問ですわ!」
「エリナ様、どうぞ」
「旅というのは、どれくらいの長さですの?」
「未定です」
「未定……?」
「国を脅かす『予言の原因』を断つのが私の使命ですが……未だ手掛かりすら得られていない、というのが実情です。つまりどれだけ時間がかかるかも解りません。故に未定です」
つまり長い間、家族と離れる事になる訳か。僕はまだ耐えられると思うけど、エリナには辛いかもしれないな。そう思い彼女をふっと見ると。
「私はクロスとずーっと一緒なら、なんの不満もありませんわ」
「あるぇ?」
彼女は嬉しそうに笑っていた。
「ふむ。そうか。クロスと四六時中を共にする訳か! それは色々と楽しみじゃのう、楽しみじゃのう!」
ルヤタンも嬉しそうに笑っていた。
でもなんだろうな。ちょっと身の危険を感じる。
「こんな美少女二人に慕われるとは、羨ましい限りだな全く」
「美少女なのは間違いないですけどね、でも『魔王』と『極・魔法使い』ですよ。本当にそう思ってます? ねえ、思ってます?」
「アア、モチロン」
「嘘だッ!!!!」
ジルベルトさんは表情を変えずに目を逸らした。
「ああ、楽しみですわねクロス。これからは一日中、一緒ですのね」
僕の右腕がエリナの胸に収まる。柔らかい。
大きいんだ本当に。いや何がとは言わないけど。
「いつでも良いのじゃぞ。儂は待っておるからな……?」
僕の左腕がルヤタンの胸に収まる。
控えめで柔らかい。いや何がとは言わないけど。
「ではまた三日後に会おう」
ジルベルトさんは終始、表情を微塵も崩さずに去っていった。
あの鉄面皮は尊敬に値する。
……で。取り残された僕はというと。
「そろそろ離れても良いんですのよ?」
「お前が先に離れたら良いじゃろう」
「……」
冷戦をどう処理すべきかに頭を悩ませるのだった。
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