第15話 僕が懐かしい人?と出会った話

 吹っ飛ばされた僕はきりもみしながらも何とか体制を整え、着地の体制に入った。


「っっふ!」


 徐々に迫る地面へ足を下ろし、衝撃で転ばない様に踏ん張る。草の上を足が滑っていき、やがて着地から1m程で体は止まった。


「……我ながら順応性が高いなぁ」


 荒事に耐性なんて要らないんだけど、と呟き、僕はルヤタンを探す。吹っ飛ばされている間は着地に精一杯で、彼女を探す余裕はなかった。


「あ、いたいた」


 ルヤタンは森の奥に向かっている。まだ蝶々を追いかけているのだろうか? っていうかどうしてヨルムンガンドを出したのか。


「まあとにかく、追いかけてみるか」


 彼女の後を追っていく。藪をかき分け、枝を潜っていくと、突然パッと視界が開けた。そこは周囲に木々がない円形の空間で、森の中にしては不自然な場所だった。


「おーいルヤタン、ダメだよいきなりヨルムンガンドを出し……ちゃ……」


 駆け寄り、声を掛けた僕。そこでようやく気付いた。

 ルヤタンの前に、誰かが居る。


「クロス? どうしたのじゃ。顔色が悪いぞ?」


「……なんで、ここに」


 ルヤタンの向こうに立っていたのは。


「あ。どうもどうも、お久しぶりですね。貴方のゼウスです!」


 なんか真っ白なスーツだし、髭は無くなっているし、ワカメみたいな長い白髪もまとめているけど間違い無い。久方ぶりに見た顔だけど忘れるものか。居たのは、僕を殺してくれたあのうんこたれ神だった。


「どうです? 髭は反ったし、髪もまとめてみたんですよ。いやぁサッパリしましたよー。ほらほら、格好いいでしょう?」


 彼奴はそんな感じでどうでも良い事をペラペラ話した。

 イライラしてきたぞ。とりあえず一発殴っておこう。


「へぶぅ!」


 うんこたれ神は吹っ飛び、女の子みたいな倒れ方をした。


「……え? なんで殴られたんですか私」


 殴られた頬に手を当て、とぼけた顔をしている。

 僕はぐっと拳を握った。


「胸に刃を当てて良く考えてみろ。分からなければ僕が押してやる」


「それは『教えてやる』の間違いですよね? っていうか殺気が漏れてますよ?」


「解らないのか? 漏らしてるんだよ……!」


「ヒェッ」


 縮こまるうんこたれ神。

 それが嘘くさくて更にイライラする。


「なんじゃ、お前クロスと知り合いだったのか」


 静観していたルヤタンがそんな事を言った。

 ルヤタンも知り合い……? って、そうか。そもそもコイツはルヤタンを追っていたんだっけ。敵同士だもんな。だからヨルムンガンドを出して……でもなんだろう。敵同士にしてはあまりいがみ合っていない様な。


「……なんか、コイツと仲良さそうだねルヤタン」


「そうじゃの。こやつとはフレンドじゃ」


「は い ?」


 え? ちょっと待ってよ。だって僕はだって……え?

 どういうこと?


「…………」


 ぐりんっ、とうんこたれ神に顔を向ける。

 奴は素早く目を逸らした。


「ねーねー、話が違うんじゃないかなぁ、神様ぁ?」


「ヒェッ」


「お主はクロスに何をしたんじゃ」


「色々あったんですよ」


「色々ってなんじゃ?」


「色々です☆」


「……」


 右手の疼きを抑えるのも、もう限界かもしれない。

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