第9話 僕が魔王にデレられた話

「あの霧が無ければ儂は今頃、地面に叩きつけられてぐちゃぐちゃになっておった! 感謝してもしきれぬのじゃ!」


「ちょ、ちょっと!?」


「んゆぅ~~~~」


 お、おう……そんなに胸にぐりぐり頭を押し付けられるとなんというか……あ、なんか髪からいい匂いもしてくる……あああダメだ何かが抑えられなくなりそう!


「は、離れて離れて」


「嫌じゃ! 儂はお前から離れたくないのじゃ! 感謝を伝えたいのじゃ! 後くっついていると何か幸せなのじゃ!」


「ねえ、今しれっと告白しなかった?」


「んゆぅ~~~~」


 僕の話は聞いていない様だ。

 夢中になって頭をぐりぐりと押し付けてくる。


 こうしてみると、ルヤタンはなんだか幼いな。空で見た大人の姿は、きっと魔力が満ちている状態なのだろう。実際にはこの子供の姿がデフォだったと。でも口調的に年齢は……いやそこは気にしないでおこう。女性の年齢を気にするのは野暮だ。大切なのはステータスじゃない。人格なのです。


「んゆぅ~~~~」


「……」


 しかし可愛いなぁ。見てると頭を撫でたくなってきた。ちょっとなら良いよね?


「よしよし」


 頭を撫でるコツは、てっぺんではなく後頭部を上から下に下ろす事、指の腹で頭を押してやる事、そして相手の反応を見て力加減を調整する事だ! ……と、僕の前世の親友が言っていた。実践するのはコレが初めて。アドバイスを思い浮かべながら、相手の反応を見て探り探りやってみる。


「! んゆ、んゆぅうぅ~」


「おお……っ!」


 喜んでくれている様だ。頭を押し付けるのをやめて、僕の手を味わっている。ルヤタンの髪の手触りも良いし、これは……良い!!


「あぅ~、気持ち良いのじゃぁ~///」


 撫でている僕も幸せになる。ずっとこれをやっていたい。けどな……そろそろ外に出ないとエリナが何を始めるか解らない。なんなら手遅れかもしれない。戻るの止めようかな。いやでもエリナならココまで追ってきそうだ。うん、それが一番怖いぞ。もうやめとこう。


「っく……静まれ、僕の右手よ……ッ!!」


 僕の意思に従わない右手をなんとか引きはがす。


「……もう、終わりなのじゃ?」


 やめてっ! そのキラキラした上目遣いは破壊力が凄い! 僕の右手がまた疼きだしちゃう!


「(終わらせたくないしもっと続けたいしなんならそれ以上もしたいけど)そろそろ戻らないと、僕の友達が心配してると思うんだ」


「そうか……」


 しょんぼりと顔を下げるルヤタン。

 ああ、胸が痛む! でも可愛い! すこ!!


「仕方ないのじゃ。出口に案内しよう」


 うぐぐぐ、と唸りながら僕から離れるルヤタン。

 何故かな、この絵に既視感と共感を覚えるのは。


「ここじゃ」


 なんとか離れたルヤタンに続いて廊下を歩くと、とある扉の前で止まった。僕の頭の中に、窓の外の宇宙が思い浮かぶ。生身で宇宙になんて飛び出したら、死んじゃうだろう。いや宇宙に建っている家って時点で普通じゃないからな。実は外に出ても何とかなるのかも?


「この扉だけは袋の外に通じておる。安心せい」


 あ、そうなんだ。

 先導するように、ルヤタンは扉を開いた。扉の先は光に溢れており、真っ白で何も見えない。僕は先に姿を消したルヤタンに続き、扉を潜った。

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