第7話 僕が魔王を助けようとした話
ボタンを押した瞬間、落ちる赤き魔王の下に赤い霧が立ち込めた。それはどんどんと範囲を拡大し、辺りの風景を赤く染めていく。僕が驚きに声を上げる前に、誰かが叫んだ。
「みんな逃げろ!
声に促され、周りにいた人たちが一斉に逃げ始める。
何ならさっきよりパニックだった。
「ぐ、よりにもよってコレか。逃げるよエリナ!」
「あっ、クロスそんなっ強引ですわっ///」
僕はエリナの手を取り、赤い霧から逃げた。
エリナはなぜか喜んでいるがそれどころじゃない。
『赤霧』は大気の魔力が濃密になった結果、赤く発色した状態であり、小さなきっかけで暴走を始めて大爆発(熱と衝撃を撒き散らかす)を引き起こす。
この世界の自然現象の中でもかなり危険な物で、特に魔力が多い地帯になると赤霧が一面に立ち込め、至る所で爆発を繰り返している。結果として魔力の濃い地域は幾度も大地が削られるので荒野になり、正に魔界という様相らしい。
……と、禁書庫の本で読んだ。
今現れたアレは結構大きい。全てが爆発するとは限らないけれど、爆発が起きれば大地に大きなクレーターが出来てもおかしくはないのだ。
うん、やっぱり自爆ボタンだねコレ!
「これじゃあ、魔王様を助ける事なんて出来ないんじゃ……?」
方法と結果はどうあれ、成果は残してきたこのボタンだ。きっと何かしらの方法で彼女は助かる……筈、なのだけど。流石に表れたのが赤霧では不安にもなる。
「ここまで来れば安心ですわね」
校舎内へと逃げ込んだ僕は、振り返り霧と彼女を確認した。落下していた彼女の姿は見えない。霧に入ってしまったようだ。大地に激突はしていない……と思いたいけど。思い返してみると、なんやかんやで原因は僕なんだよなぁ。流石にこれは責任を感じてしまう。
「……ごめんエリナ、僕ちょっと見てくるよ!」
「っえ? あ、ダメですわクロス!」
彼女の静止を振り切り、僕は霧へと進む。危険な行為ではあるけど、このボタンが赤き魔王を助けているか不安だ。一応、僕自身が死んでしまわない様に、一度ボタンを押しておこう。
「……」
何も起きない。脅威はない……ってことかな。たぶん。
「これできっと大丈夫……だよね?」
手の上のボタンに聞いても返事はない。当たり前だけど。
うええ、不安になってきた。
「ま、まあ大丈夫! 行こう!」
僕は考えるのをやめて霧へと突っ込んだ。周囲の視界が薄く真っ赤に染まる。いつ爆発するとも知れない火薬の中だ。生きた心地がしないなぁ。
「お、おーいサンタクロスさーん。生きてますかー?」
数メートル先の視界もぼやける霧の中。僕は彼女が生きているものと信じて何度も声を掛けてみた。でも返事がない。……だ、大丈夫かなぁ。
「ん? あれは……」
数分ほど霧の中をさ迷った頃、僕は真っ白な布の袋を見つけた。あれはサンタが持っていた袋だ。間違いない。袋は饅頭みたいに膨らんでおり、地面にどーんと鎮座している。空で見た時はもっと大きかったけど、今は担げる程度の大きさになっていた。
「……なんだ、風が吹いてる?」
袋に近づいていくと、霧が静かに流れているのに気づく。風は袋に向かって吹いていた。辿って見ればその先には、だらしなく開いた袋の口。
「魔力を吸い込んでる、のかな?」
僕はおそるおそる近づいていき、覗き込んでみた。
中は真っ暗で何も見えない。どういう仕組みなのだろうか。
「……? 袋の中から何か聞こえる」
袋の中に耳を澄ませてみると、女の子の声が微かに聞こえた。彼女はこの中に逃げ込んだのだろう。良かった。生きてる。流石は赤き魔王サマだ!
「よし」
人(魔王)が入れるのならたぶん安全だろう。
僕はそーっと手を突っ込んでいく。
「お? おぉおおおお?!」
え、何この吸引力?!ちょ、待って、ナニコレ。
踏ん張ってる足が浮いてるんですけど!?
「うわぁあああああああ」
足が地面に別れを告げた瞬間。
僕はあっという間に袋の中へ吸い込まれてしまった。
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