第一章 デルタの街

第4話 僕が魔法学校に入学した時の話

 ということで遂に僕も15才になり、魔法を習得する学校へ進学する事になった。


 いよいよ魔法を学び、使う事が出来る!

 ふふふ、今日までに予習はばっちりやった。父さんに頼んで、国の封印書庫に侵入して、禁書を読み漁りもした! 後は実践して大魔法使いになるだけだ! そして溜め込んだ知識で俺TUEEEして、学園一の人気者に僕はなる!


 そんな妄想に胸を弾ませて、家の門をくぐる。

 すると横で元同級生が待っていた。


「クロス、一緒に行きますわよ!」


「あ、エリナ! 今日からまたよろしくね!」


 迎えに来ていたらしいエリナに笑顔を向ける。

 彼女は金髪碧眼の美少女だ。髪は首元で切り揃えていて、背は145cmくらいで、僕より少し小さい。あと胸がとても大きいので、会う度に意識して目を剥がさなければならない。


 加えて、エリナは有名な才女でもある。特に魔法の才能が凄まじく、自主的な訓練? だけで学校教育の範囲を超えたという噂だ。こと魔法面に関して言えば完全無欠で、学校に行く必要はきっと無い。だが彼女には決定的に足りない物があった。


「さあさあ! 早く行くのですわ!」


「あ、待ってよエリナ。学校には20分もあれば着くよ。今はまだ8時だ、普通に歩いても10分くらい余裕がある。ゆっくり行こうよ」


「……? よくわかりませんわ! 行きますわよ!」


「うぇええええちょっと!?」


 彼女はとにかく数字に弱い。


「なんで杖を出したの? ねえ、普通に歩いていかないの?」


「学校までは真っすぐ一本道ですわ! なら魔法を使えば一瞬で着きましてよ!」


 そして、魔法に関してとびぬけた才能を持っている彼女だけど、どういう訳か使う魔法は大雑把な物が多い。


「エクスプロージョン!!」


「え? そこはアクセルとかじゃぐぁあああああああ!?」


 白く世界が瞬いた。


 そして次の瞬間、僕は空を飛んでいた。


「あははは! ほうら、もうすぐ着きますわよー!」


「制服焦がした上に落下しながら何を言ってるんだよエリナ! これ降りる時どうするの!?」


「……あー。考えてませんでしたわ」


 更に追記しよう。

 彼女は後先を考えない。


「うぇえええええええ下まで5mはあるんだけど下手したら死ぬよ!?」


「そこはクロスに任せますわ!」


「そんな大暴投されたらキャッチ出来ないよ!!」


「大丈夫ですわ。クロスなら何とかしてくれますもの」


「もちろん信頼されるのは嬉しいんだけど今じゃないんだよなぁ!!」


 そもそも僕はこれから魔法を習う身なんだ!

 君みたいにコレをどうにかする魔法なんて使えないんだけど!


「っく……し、仕方ない……ッ!」


 こうなったらアレを使うしかないだろう。


 徐々に迫る地面を見つめ、僕は覚悟を決める。

 意を決して、僕は【一発逆転ボタン】を具現化した。


「吉と出るか凶と出るか……」


 生まれてから何度か使ってみたこのボタン。確かに、逆境は全て逆転する事が出来た。出来たけど、逆転する方法を僕が選ぶことは出来ないのだ。つまり何が起こるのか全く予想できない。


 直近で押したのは1年前「川で溺れた」時だった。このままでは死んでしまう、という焦りの中、僕は無意識のうちにボタンを押し――次の瞬間、川が爆発した。


 川の水が吹き飛び、僕も吹き飛んだ。


 落ちた先は幸い茂みの上だったので、結果としてかすり傷一つなく助かったのだけど、僕が溺れたその川は現在、形と流れを大きく変えている。


 その後、爆発の原因を調べた大人の話によると、地下で溜まり込んだ魔力が何かのきっかけによって暴走し、大爆発を起こしたとの事だった。


 以来。このボタンのイメージは【自爆スイッチ】である。


 そして今。僕の目の前には、今日から通う学校が存在する。万が一にでも大爆発したら、僕が通う学校は消えてなくなる訳だ。あっはっは! 笑えない!


「……えええい迷ってたら死ぬ!」


 爆発だけはヤメテ爆発だけはヤメテ爆発だけはヤメテ!!


 ――ぽち。

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