第3話 僕が異世界で生まれた話
次に僕が意識を取り戻した時、目の前には綺麗な女の人が居た。お母さん、だろうか。黒い髪を後ろに縛っている人だ。とても若い。僕に優しい笑顔を向けている。
僕はソレに手を伸ばして、自分が赤子だって事に気付く。
おお、生まれ変わったんだな。
次に見えたのが、髭面の男だ。こちらはお父さんだろうか。彼もまた優しい笑顔で僕を見て――。
「それで、今月の家賃は払えるんですかねぇ?」
なかった。
「すみませんすみません、明後日には必ず!」
お母さんと思しき彼女は、男に何度も頭を下げていた。あんまり視界を確保できないけど、見える範囲だけでも分かる程この家は貧しい様だ。内装はボロボロで、見ていると身震いしそうなほどだった。ナンテコッタイ。僕の生まれは貧しい様だ。
やがてばたん、と乱暴に扉が閉まると、お母さんは。
「っけ、おととい来やがれ!」
と、お兄さん指をスタンダップさせて態度を変えた。
「……」
綺麗な見た目をしているけど、肝っ玉の大きなお母さんらしい。
彼女はふぅと息を吐くと、こちらにやって来た。
「ごめんね、うるさかったね。もう大丈夫だからね」
そんな風に優しく僕に声を掛けて、頭を撫でてくれる。
悪い人では無さそうだ。安心した。
あ、そう言えば僕のスキルは「一発逆転ボタン」だったな。どんな物かはわからないけど、もう使えるのだろうか。ある意味、生まれた瞬間に逆境だった訳だし、発動するなら彼女に良い事が起きるのでは?
使い方は……と考えていると、なんとなくスキルのイメージが浮かんできた。なるほど、意識する事でボタンが何もない所から出せるらしい。逆境と呼べる状況を僕が意識しなければ、ボタンを押しても効果は無くて、使用に制限はないらしい。
まあ物は試しだ。早速使ってみよう。
「ふぁぶー」
あ、まだ喋れないや。
でもボタンは出せた様だ。
「? 何これ」
右手の横にころん、と何かが現れる。10センチ四方の四角い土台に、丸いボタンが付いた物だ。なんかマンガやアニメの自爆スイッチみたいに見えるけど、大丈夫かなコレ。
「何かしら。丸いのが気になるわね」
この世界にはスイッチという物がないらしいけど、彼女はそれを手に取り、さして悩むことなく丸い部分を押した。
さて、どうなる?
と僕が身構えてから、かれこれ三時間後。
「……」
なんだ、何も起きないぞ。
どうなってるんだ欠陥スキルか! と疑い始めた瞬間、バターン! と扉の開く音が聞こえた。
な、なんだろう。さっきの男の人かな。
「エレノア! 大変だ!」
「あ、貴方? どうしたの、今は仕事の筈じゃ……」
「それが聞いてくれ! 実は……」
帰ってきたのは今度こそお父さんの様だ。彼はお母さんの元へやって来ると、でっかい何かを両手で差し出した。凄い重そうな岩……に見える。
「遂に鉱床が……見つかったんだ……!」
「貴方……っ!!」
口元を両手で塞ぐお母さん。
やがて感極まったのか涙を流し、土まみれのお父さんに抱き着いた。なお大事そうだった岩はごとん! と床に投げ捨てられた。床にめり込んでるけど良いのかな。
「やったよエレノア。これで僕たちは大富豪だ! 遂に報われたんだ!」
「良かった……これでもう、貴方が命を賭ける必要は無いのね……!」
涙をボロボロ流して喜ぶ二人を眺める僕。
え。なんか凄い事になってる。
顔の横に転がっているボタンを見て、僕は確信した。
これ本物ですわ。
「良かったわねクロス、これで貴方も、安心して過ごせるわよ」
お母さんが僕を優しくなでる。
なるほど、僕の名前はクロスらしい。
前世と同じなのは気になるが、でもサンタが消えたのは良い事だ。繰り返すようだが、僕は名前に輝きを求めてはいない。
「我がサンタ家はこれで、3代は安泰だ!」
おい。
「愛しているわ、貴方!」
「僕もだエレノア!」
なんの呪いだこれは。
……
それから十二年後。
僕の家は大豪邸になり。
「気を付けて行って来るのよ!」
「分かってるよ母さん。行ってきます」
僕が魔法学校に入学する日となった。
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