第2話 僕が神様に土下座された話

「この度は誠に申し訳ありませんでした」


「謝って済むなら神様なんて要らないんですよ」


 頭に輪っか、身体はスケスケというバージョンアップを果たした僕は、目の前で土下座する渋い顔のオッサンを見下していた。

 


「いや、本当に。誤解で殺されるとか無いですよ。なんていうかもう……えっと……無いですよ」


「HAHAHA、語彙が貧相ですね!」


「アァん?」


 僕は土下座する神の頭を踏みつけた。

 神の頭は雲にめり込んだ。


「すみません。とりあえず……コチラへお掛けに」


 オッサンは指をパチン、と鳴らし、何もない所から豪華なソファーとテーブルを出した。


「……」


 僕はそちらに移動して、どかっと浅めに座ると、両腕を背もたれの上に広げて置き、右足をピーンと伸ばしてから組んで、アンニュイに空を見上げた。


「……僕はね、まだ二十代だったんです。そりゃもう人生これからって時ですよ。『あんなこと良いな、出来たらいいな』を胸に生きる世代ですよ。それが何です? いきなり変な所に呼び出されて、変なオッサンに変な言いがかりを付けられて、話を聞く間もなく一方的に殺されたんですよ。全く……すぅうううううううう(息を吸っている)……こぉおおおおんな理不尽な事があっていぃいいいいんですかねえぇえええええ神様ぁああああああああああ!?」


「ははァっ、このゼウス、深く深く反省をしております!!」


 名前は偉そうだなこのうんこ神。

 まあそれは良いんだ。


「で。どうしてくれるんです? どう責任をとってくれるんです?」


「私としても、人間を蘇らせるというのは難しくてですね……その」


「ハァアアアア?! 何の責任も取らないって事ですかぁあああ?! それでもあなた神様ですかぁああああ?!」


「あぁあぁすみません、すみません!」


 オッサンはまた雲の地面に頭をめり込ませていた。

 この絵面、ちょっと面白いな。


「同じ世界へ戻す事は叶いませんが……しかし好条件で、次の世界へ転生させることは出来ます故、何卒それでご容赦頂きたく……」


「!」


 僕はその瞬間、ゆっくりと体を起こし、テーブルに両肘を付き指を組んだ。


「……話を、聞こうか?」


 その後。


 なんやかんや説明を受けて、こちらから要望を出して、全部飲み込ませた。結果、僕はイケメンかつチィートなスキルを備えて異世界へ転生する事になったのだ。Huuu! やったぜ! チートハーレムだ!


「準備はよろしいですか?」


「うん、良いよ。さっさとどうぞ」


「は、畏まりました」


 椅子に座ったまま姿勢を正して待つ僕。オッサンはオホン、と咳ばらいをして両手をこちらに伸ばした。

 

「あ、ちなみに能力ってどんな物なの?」


「一発逆転ボタンです」


「ん?」


「一発逆転ボタンです」


「え?」


「一発逆転ボタンです。三度も言わせないで下さい」


「……」


 なんだろう。ゲームやアニメが大好きなこの僕が、一度も耳にしたことの無いスキルだ。いやそもそもスキルっていうよりも……なんていうか、装置?


「それ何かっこ悪いヤダ!」


「何をおっしゃいますか! 天界でも誰一人として持つことの無い、ウルトラスーパーユニークスキルですよ! あまりにも危険すぎて、長らく封印されていた代物です!」


「そんなもの人に与えないでよ怖いわ!」


「あ、もうすぐ転生、終わりますんで」


「ちょっとぉ?!」


「セカンドライフを楽しんでくださいね☆」


 パチン、とウインクを飛ばすオッサン。

 それを躱す僕。


「ストップ! なんか怖い! なんか怖い! 一旦止め――」


「転☆生」


 ――僕の意識はそこでぷつん、と切れた。

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