第13話 ゴブリンは潰走し、私は村人に危険を知らせる
ゴブリンは、ノームやドワーフといった精霊に『悪霊』が憑りついたものではないかと言われている。大きさは人間の子供のようで、醜い顔をした小鬼と言われる存在だ。どこの山や森にも潜んでいて、自分より弱い動物を捉え、甚振り、食べるのが大好きだ。
その行動パターンは猪にも似ているが、猪ほど力も嗅覚も丈夫な骨と筋肉もないが、悪知恵と人間に対する害意は大きく上回る。猪は人間と争わないという選択肢があるが、ゴブリンにはそれがない。
因みに、人間に『悪霊』が憑りついた場合「オーガ」に、その中でごく一部が「ヴァンパイア」となることがある。人間に動物の『悪霊』……猪の場合は「オーク」と呼ばれる存在に変化し、ゴブリンに狼の『悪霊』がさらに憑りつくと「コボルド」になるとも言われる。
憑りつかれるのは、その存在が弱体化した場合であり、人間の場合多くは、遭難したり戦場などで大怪我をし放置された際に『悪霊』に憑りつかれやすい。
人間が森を無暗に伐採したり、毒になるようなものを森に捨てたりすると、土の精霊であるノームが衰弱し、『悪霊』に憑かれやすくなる。結果、その森を傷つけた人間にゴブリンになって復讐に来る……といった流れで語られる事が多い。
森を切り開き、荒れ果てさせ、狼も沢山狩り殺した帝国にはゴブリンもコボルドも多いという。理由は分かる気がする。
∬∬∬∬∬∬∬∬
さて、現れたゴブリンの数は三匹のグループが二組……意外と多い。落し穴に落とすと、面倒なことが起こりそうなので、私は蓋の部分の土を硬化させゴブリンが踏み抜かないように魔術を飛ばす。見えている範囲なら問題なく発動する。元々、自分の魔力で作った落し穴だからできる技。
兎が地面に縫い付けられている事に気が付いたゴブリン大興奮……だが、しかし、それは私の獲物だ。
ここで、こんな事もあろうかと、鏃が外れ体の中に残る仕様の対人用の鏃を用いることに変更。人肉は食べないから、鏃が奇麗に抜けなくても問題ありません。むしろ追加ダメージが欲しい。
『GyaGya!!!』
『Gyeeeeee!!』
兎を目の前に大興奮のゴブリンが、兎を巡って争い始める。踊れ踊れ!!と思いつつ、私は掴み合っているゴブリンに、緩い矢の狙いをつける。昼間程はっきりと細かい様子は見えないが、矢を当てるには十分な視界だ。
「はっ……ほっ……とりゃ……」
上にのしかかったり、掴みかかったりしている側に矢が貫いていく。正確には貫くが鏃は体内に残る……感じです。
『Gweeeee……』
『Gya? Gyaaaa!!』
見えない場所から一方的に攻撃するのは意外と楽しいです! 打ち下ろしになるので威力も増すし、何よりこちらに気が付いても反撃できないのがくやしい。圧倒的ではないか! と心の中で叫ぶ。
畑に現れたうち、一匹を除いてゴブリンは死んだ。多分。一匹は矢を受けながら畑を逃げ出し、森の中へと逃げて行った。
ゴブリンが消えた後、気配を窺いながら、新たに顔を出す兎を射止めつつ、死にかかっているゴブリンたちを観察する。『はぐれ』であれば、もう少し弱って見た目も傷ついているはずだが体格も体調も悪くなさそうだ。つまり、きちんと食事ができる規模の群れとして活動しているうちの一部なのだろう。
「もしかして……村を襲うつもりなのかな」
ゴブリンの群れが村を襲い、村が滅ぼされる事件は頻繁ではなくそれなりに発生しているけれど、それは野盗化した傭兵団が行う方が遥かに多い。魔物の数より傭兵の数の方が多いからね。それに、準備しておけばゴブリンは何とかなることも多い。事前に知らせておけば、対応は出来るだろう。
私は砦から飛び降りると、一通り倒れたゴブリンに止めの一撃を首筋に加えていく。6mくらいなら問題ない。狩人なら出来て当然と師匠も言ってたし。
「やっぱり、野良のゴブリンじゃないかも」
血色も緑色ながら悪くなく、ゴブリンとしては十分な粗末な武器も携行している。石槍とか、石斧とか、ぼろいナイフとか……ね。普通は素手か、動物の大腿骨とか木の棒だから。ヒノキじゃないけど。ヒノキって丈夫な木じゃないと思うけど、何で売ってるんだろうね。トネリコとかイチイの木の方が丈夫だと思う。
因みに、新しい片手剣を購入したんだけど、紹介しておこうかな。ハンガーっていう、民生品も出ている万能剣という名の器用貧乏さんです。民生品は護拳も一文字だし、剣も普通の片刃だけど、これは違うんだ。
『ハンガー』はショートソードの一種で、民生品用の片手剣もあるがこれは軍用。特徴は、護拳を有し剣の鍔の手前の三分の一程に刃が付いておらず、握り込むことができる。また、身幅はレイピアとショートソードの中間ほどの厚みで、剣先から三分の一が両刃、中間部分は片刃となる。
刺突も断ち切りも可能な直剣で、握り込んで狩猟での解体などでも使えるように工夫されている剣。レイピアの小型版であるスモールソードに似た立ち位置だが、より汎用性の高い実用的な剣だと言える。
これなら、冒険者としても狩人としても申し分ない。護拳で殴れるのもとても好ましい。え、だって、素手で殴るのは流石に
明るくなってきたので、ゴブリンの討伐証明部位である左耳をちょん切って確保する。死んでいるかの確認もついでに。その後、穴に落ちている兎の数を数え、数が村に渡す分は確保できたのでそれは放置。
残りの矢の刺さった兎と穴に落ちているノルマ以上の兎を引き上げ、借りた小屋に移動する。勿論、使った急造砦は土に返し無かったことにする。これで、問題ない。
小屋で血抜きをし、脚に縄を付けて小川にドボンをしていると、依頼人のハンスさんが現れた。
「おはようさん」
「おはようございますハンスさん。兎、村の分はまだ畑の罠にかかったままにしてあります。一緒に確認していただけますか?」
「そうかい。じゃあ、作業がキリのいいところで向かおうか」
兎の無傷の物は麻の袋に入れて口をひもで縛って傍の木の枝にサンドバッグのように吊るす。そして、簡単に片づけると、畑へと向かう。
途中歩きながら、昨日の出来事を簡単に説明したところ、ハンスさんは「まさか」とか「そんな」というようなことを呟き始める。いえいえ、よくある事ですよね。ド=レミ村でも何年かに一度はゴブリンの群れが現れて、総出で討伐してましたよ。
最も、最近のゴブリンの群れ討伐は、私と師匠、先生で軽く捌いたので、村の人達はほとんど関わっていませんけどね。大丈夫☆ 奇襲を受けなければどうということはない!
畑の周りには、無数のゴブリンの足跡……そのうち五匹は死んでるけどね。なので、こちらに向かってくる足跡ばかりが目立つわけです。
「そ、それで、ゴブリンは」
「あー こちらです」
畑のそこかしこにゴブリンの死体。勿論止めを刺しているので問題ない。
「村の皆さんに見ていただいて、恐らく数十匹くらいの大き目の群れが近くにいると思います。その位だと、上位種もいるかと思うので、領主様に相談して、兵士か騎士を派遣してもらった方がいいでしょうね」
ド=レミ村の三人は、騎士数人分の実力がある……と自称していたので、呼んだことは有りません。勿論、普通の村人もかなり武闘派。大きな戦争には必ず参加するし、何より「勇者」が出ちゃうような村だから。
でも、普通の村の場合、魔物や敵の軍隊やら山賊から守ってもらうために年貢を納めているのであって、派遣できない領主は領主失格な訳だから、依頼はするべきだろう。
「ぼ、冒険者ギルドは……」
「私は一応報告はしますけれど、ゴブリンの群れの調査依頼か、討伐依頼を別にしないとですね」
「あ、あんたは……どうにかして……」
「無理です。討伐するレベルに達してませんから。勝手に依頼を受けることも認められていませんからね。皆さんで話し合って、依頼をするか、領主様にお知らせして調べていただくか判断していただくしかないですね」
「む、群れの調査は……」
「勝手に依頼を受けることはしません。わ・た・し 見習の星無だからこの奉仕依頼受けてるんですよ? そんなことできません」
嘘嘘、やれば群れの調査位できるけど、ギルドが間に入っていなければ、お互い信用できないからね。調べたけど、その結果報酬を出し渋られて、尚且つギルドを通さずに見習が勝手に依頼を受けたりしたら罰則喰らうことになるから。やんわりはっきりお断りします。
麻袋に数匹の兎、そして、魔法の袋には生きてるものは入らないので、兎の毛皮や肉はいれることができるが、生きている兎は入らないので肩に担いでいる。これは、このままギルドに売るか、肉屋に売るかで考える所だろう。
冒険者ギルドに到着、依頼達成のコインを渡し、面倒なので兎関係は全てギルドの買取にしてもらうことにする。ゴブリンが現れたので討伐したこと、数が多く、恐らく大きな群れが近くにいるだろうこと。その事を依頼主に説明し、冒険者ギルドか領主様に調査・討伐依頼を行うこと、村でもできる準備を行う事を勧めたと説明したところ……ギルマスに呼ばれました。
奉仕依頼を達成し、その場で星一つの冒険者となった私。その日はそのまま家に帰り、翌朝、冒険者ギルドに顔を出すと……昨日の村がゴブリンによって壊滅したことを知るのだった。
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