第14話 ゴブリンは村を蹂躙し、私は星一つに昇格する

 冒険者には等級がある。帝国では星の数で示される。


 星無:新人。街の中の依頼を中心に、素材の採取やお手伝いを主な仕事にする。資質の見極め期間であり、討伐依頼を受けることはできない。


 星一つアイン:半人前。討伐依頼を受けられるようになるが、星一つの魔物が討伐の対象となる。ゴブリン・コボルドや狼・猪等。星一つでは護衛依頼を受けることができない。登録した街以外のギルドに移動する事も出来ない。


 やっと……まあ、一般的には早いペースで昇格することができたのよ私。教会のお手伝いはともかく、兎の駆除を単独で速やかに完了したり、素材の処理も適切であったこと、ゴブリンの討伐及びギルドへの報告内容が評価されたようです。師匠の仕込みに感謝☆



 星二つツヴァイ:一人前。依頼の制限がなくなるが、指名依頼は受けられない。パーティーを組んで討伐や護衛などの依頼を引き受ける者が多い。新人の半分程度がこのレベルまで到達するが、その期間は様々。二十代前半までに上にあがらなければ引退を考える。 魔物でいえば、オークやゴブリンの上位種が討伐レベルとなる。


 星二つにならないと、他の街に移動して冒険者をすることができない。コロニアル目指している私としては、一日でも早く星二つになりたい。


 昇格のしくみを理解していないとこれは少々難しいのだが、簡単に言えば、星一つの依頼を何度かクリアすると、星二つになる。ポイント制でもなければ昇格テストがあるわけでもない。そんな面倒なことをギルドはしない。


 では、どうやるのか? 星一つで無くなる条件を説明すると早い。星一つの依頼を連続二回、合計三回失敗すると『星無』に降格になる。勿論、違約金なんかも発生するから大変だが、基本、自分の等級依頼を何度か成功すれば無条件で上がり、失敗が続く=実力がないから降格という事になる。


 この結果、星二つの等級になっても、自分の身の丈に合わない依頼を受けることは無くなる。実力を見誤れば死ぬか降格、見合わなければ星二つの依頼を受けずに永遠に昇格が見送られる。ほら、簡単じゃない査定が。


 やれ試験だ昇格する為の特別な試練だっていらないから。ギルドスタッフだって有限なんだから、余計な仕事増やすなってことだよね。


 だから、星二つの依頼を受けないでずっとそのままの人が多い半面、星二つを連続してクリアし続けるだけの実力がある冒険者はすぐに星三つに昇格する。


 星三つドライ:一流と呼ばれ、指名依頼を受ける事も出来る。ギルドでは所謂レギュラーメンバー枠であり、所属する冒険者が顔と名前を皆知っているレベル。この辺りから、魔力に秀でた後衛職のウエイトは増え、女性比率も上がる。


 男性の場合、貴族や商会の常雇いとして転職する者、魔術師・錬金術師・治療師等として街に定住する者も増える。また、希望があればギルド職員として後進の指導に当たる者もいる。


 星二つ以下のパーティーをいくつか傘下に置き、『クラン』と呼ばれるギルド内ギルドを作る者もいる。冒険者ギルドに届け出が必要だが、特に規定があるわけではなく、任意団体扱いではある。


 新しくできた冒険者ギルドには、クラン単位で移動し、ギルマスをクランのリーダーが務める事もあるという。ギルマスへの最短距離とも言われるが、その場合、星四つの者がなることが多い。


 魔物の討伐対象となるのは、オーガやトロル、ゴブリンの支配種であるゴブリンロード・キング辺りが相当する。幻獣であるグリフォン辺りも値する。


 星四つフィア:超一流。国単位で有名な存在。ギルドに一人いるかどうかというレベル。高位貴族のお抱えパーティーであることも多く、非常に強力な能力を誇ると言われる。


 魔物の討伐対象となるのは、吸血鬼種や不死系の上位の魔物。下位の竜である、ワイバーンやタラスクスのような存在。また、小国の軍ほどの規模の魔物の集団スタンピードも単独で対応できるとされる。



 星五つヘルト:英雄。時代を代表する冒険者。複数の星四つクラスの討伐依頼を達成し続けている者のみが到達できる。依頼として星五つは存在せず、星四つをクリアし続ける事によって到達する。星四つを越える案件を便宜上星五と表現することは有るが、星五つが適正なわけではなく、星四超という意味である。


 もう、星四つや五つの人は人外です。小規模な軍隊をパーティーレベルで討伐可能ってどれだけの戦力を有しているのでしょうか。無双するにもほどがあります。伝説か神話の世界の話でしょう。




∬∬∬∬∬∬∬∬




 星一つとなった私は、冒険者ギルドの依頼を受けた星三つのパーティーを案内して、ゴブリンに蹂躙されたと言われるハンスさんの村を目指しています。……馬車で。


 案内するパーティーの名前は『アルスの眞守』。戦士・斥候・回復師・戦士見習の四人で編成されている。見習が星一つである以外は、全員星三つの冒険者で、トラスルブルを拠点に長く活動しているという。


「星一つになりたてって大丈夫かよ?」

「副ギルマスのアンヌさんが勧めるくらいだし大丈夫だろ。それに、この依頼の村に最近、兎駆除の依頼を受けてゴブリンも五匹ばかり単独で仕留めてるからな」

「あら、ゲルドより腕が確かなのではない?」

「こんな白くって細っこい女みたいな奴に負けるわけないっしょ俺が!!」


 いやいや、女の子だから私。みたいじゃないから。男の娘じゃないからね。とは言え、ゲルドって見習槍使いは最初からライバル意識むき出しでちょっとウザ絡みされるのがメンドくさい。


「だがな、ゲルド。ヴィは単独でゴブリンを討伐して、無傷だ。お前に無傷でゴブリンを五匹討伐できるほどの腕があれば、星二つ以上のランクになっているだろうな」

「私は弓で討伐してますから。落し穴とか、色々準備していましたし」

「それそれ、ヴィーちゃんは土魔術が得意なのよね」

「火と水は相性が悪かったみたいで初歩の初歩くらいしか使えませんけれど、土と風は自信があります」


 お姉さん枠の回復師ユリアさんは水の精霊の加護持ちで、魔術師としての修行をしたわけではないが、回復の魔術が精霊の加護で発動するいわゆる「野良」の魔術師なのだ。攻撃は『水球』くらいしか使えないが、回復と防御はかなりの能力がある。


 精霊の加護持ちで冒険者をしている同世代はあまりいないようで、私の事を近しく感じているようなのだが、私は水の精霊と相性が悪いので、発動時は距離を置きたい。


「馬車で半日くらいかかるからな。まあ、ゆっくりしていこうか。二三日は村の周りの調査で泊まり込みだから、いまから力んでいると持たないからな」


 リーダーのブルーノさんは、冒険者になる前に兵士の経験もあるのだが、人を護る自由が兵士にはないので、自分で判断できる冒険者へと転職した優しい笑顔のマッチョなお兄さんだ。ゲルド君は同郷なのだが、歳は一回りは違うので幼馴染というわけではない。


「ヴィーの狩人の腕に期待だ。俺は、山野はあんまり得意じゃない」

「何言ってるの、あんたはベテランの星三つ、ヴィーちゃんは新人の星一つ。しっかりやる気見せなさいよね」

「いやいや、俺は狩りとかできないから。街中や罠解除専門だから」


 馬車を操るのは斥候職のアドルさん。リーダーと同世代だが、経験は一番長い。故に、交渉事や雑事はお任せの副リーダーを務めている、影の参謀的存在。実際、影っぽいし……いや、印象がね。





 馬車の中で、改めてハンスさんの村の状況と、ゴブリンの群れの動向を教えてもらう事になる。


 村人の被害はゼロではないが、女性や子供に関しては予め避難をしていたので死傷者は出ていない。守るために残った男性の半数が死傷しており、ハンスさんは怪我を負ったが死んではいないそうだ。


 私の報告を受けて村では早急に対策を打ったそうなのだが、領主様の兵士たちの調査開始前に群れに襲われているので、実際、村に兵士の先遣隊が訪れた時には、既に森の中にゴブリンが消え去った後であった。


 畑は荒らされたがそれほど滅茶滅茶というわけではないものの、保管していた食料の一部と、家畜の大部分は殺されるか持ち去られているという。兵士では森の奥深くまで追跡することができない為、改めて領主様から追跡のできる冒険者の派遣を依頼され、『アルスの眞守』がそれを受けることになったのだ。


 私? 勿論、アンヌさんからの勝手指名です。受けなくても問題ないのだが、本来三ツ星の依頼を受けられない私が報告した当事者ということで、道案内代わりに同行することができるので、ランクを上げやすいのだという。そういう意味では、ゲルドっちのランクアップと、ゴブリンのように村を襲う魔物の討伐を積極的に受けるというパーティーの趣旨が合致して受注・同行というはこびにいたる。


「弓ってどんな感じの弓を使うんだ?」


 ブルーノさんに聞かれ、私は弓を取り出し弦を付けて渡す。


「ん……何だこりゃ。小さい弓なのに酷く強いな。こんなの引けるのか?」

「勿論ですよ。ちょっと貸してください」


 私んだけどね。この弓は、実際ロングボウ程の引き強度が必要なのだ。グン、と弦を引くと、くの字どころか逆つの字のように曲がり、ビュンと弓が跳ね戻る。バシッと弦が篭手を打つ。


「はぁ、大したもんだな。そんなに細い腕で良く引ききれるな。何かコツでもあるのか?」

「単純に力が強いだけです私。昔から、見た目に反して力持ちなんですよ。体質でしょうね」


 ゲルド君が「俺にもひかせろ」というので渡すが……ちっとも引けない。まあ、力任せじゃ難しいって言うのもあるけれど、単純に筋力不足だと思うよ私。


「ゲルドは筋力も増やさないとだし、冒険できる体を作るのが先決だ。護衛と違って討伐依頼は山野に分け入るし、終わるまで里に戻れないから、体力だって減り方が全然違うぞ。それを今回で経験しろ」


 歳は少し上だが、私は師匠について山野を駆け巡り山の中の野営も割と得意だ。むしろ得意。


 ゴブリンの追跡をどうするかについて、私たちは馬車の中で話し合うのであった。


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