Epilogue.(_Adapted route.)
メル・ストーリア公国首都にて。
爆竜襲撃による避難命令が解けたのは、冒険者レクス・ロー・コスモグラフらによる討伐の報告より、三時間後のことであった。
……つまりは、彼らの王への謁見が済んでからほんの少しの後のこと。
街は人気もなく、ただひとりでに朝から昼へと変遷していく。
そんな街の「再開」は、とある馬車の乗合所から静かに拡散していった。
たった一日の午前中を休むことにさえ忌避感を覚えるような真面目な手合いを皮切りに、少しずつ、街はまた流動を始める。
一つのコミュニティが活動を止めるとき、
……その再運転までには、しばらくの「助走」が必要であった。
雨が明けたように、或いは冬が明けたように、
ゆっくりと人は、昇った日差しに目を覚ましていく。
ゆえに、
……街はまだ
「僕」は、そんな街の雰囲気を感じて、
――49個目のあくびを、噛み殺した。
「……、……」
/break..
――とある馬車。
停車し、馬の席を空けたその内部には、僕ことバン・ブルンフェルシアと、それから呼び出しに応じて来てくれた人物がいた。
「……全く貴様、余にデリバリーの真似事とはどういう了見だ。いつの間にそんなに偉くなったのだ?」
「言わないでよ。僕は君らほど器が広いわけじゃない」
――ちゃんと、器に見合った身内の数に抑えてるんだよ。と僕は軽口を言う。
すると彼は、返事代わりに鼻を鳴らして答えた。
「用意しておいたのは、『爆発殺しの小手』と『心象再現魔法のスクロール』を幾つか、あとスクロールは、『認識阻害』と、……それと、なんだったかの」
「あー。いいんだ、それはもう。……流石公国の秘宝だね、どれも破格の効果だったよ」
「ふむ? では、もう用事は済んだとみても?」
「ああ、ソッチとは今朝だけで49回会ってるけどね、ようやく直接会うことにしたのが報われる」
「なるほど、やっと報告にまとめられるだけの情報を持ち帰ったか。試行回数48回とは、待たされたものだな?」
「よく言うね、こっちの苦労も知らないで。そっちが朝飯食べてる間に、僕はそれだけの死線を潜ったんだ。もっと労ってほしいもんだよ」
「死線? ……ふうん? 試行回数48回というのも貴様にしては結構な回数だが、しかし今回の相手は、そんなに手ごわかったのかね?」
「ああ、48回試したけど、一度だって同じ展開がなかった。だから正直、二つの目的の内の『彼の戦術的アイディア力の練度を探る』の方は、もう諦めたよ」
「なんだ不甲斐ない。いいじゃないか、減るもんじゃなし。もう一回やり直してこい」
「……アンタ自分が偉いからって横暴にしていいってわけじゃないぞ? まあいいけどさ。マジで、ホントにお手上げなんだよ。少なくとも彼は、戦術の取り回しについては僕よりも上だ。底を探ろうにも、こっちが一手動いたら、向こうはそれで十手先まで読むような手合いだよ」
「ふうん?」
「結局僕がどうやってアイツを人目のない場所に連れ込んだか教えてやろうか。どうやっても有利な地形への誘導はうまくいかないし、毎度毎度いつの間にやらこっちの敵対がバレるもんだからね、諦めて一回ゆっくりアイツと話でもしてみようと思ったんだ。そしたらアイツ、僕がどれだけ苦労しても入ってくれなかった裏路地に自分から飲み屋を探しに這入りこみやがった。アイツあれだね、たぶん一度気を許した身内にはトコトンだらしないな」
「……なんだね。聞くに名高い『最適回答』の称号持ちがそこまで皮肉を言うとは、これは称号も返上の時期か?」
「茶化すなっての。マジでありそうだよソレ」
「……マジか」
「マジだよ。さてね、それじゃあ『本命』の方だけど、そっちは探ってきたよ」
「ふむ、どうだった?」
「マジで無敵だな。そこのスクロールで多重性コープスを作ってみたけどダメだ。『
「……ここでまた、アイツが邪魔をしてくるのか。楠木の奴め、本当に忌々しい」
「故人にそこまで言うことないよ。君それ、悪役のセリフだぞ。僕たちはあくまで、楽園の守護者だろ?」
「…………あいつは好かん。お盆の暮にも帰ってこなきゃいいのだ」
「さすが手ずからに何度も痛い目見せられた奴は言うことが違うね。……うん? こっちの世界にお盆ってあんの?」
「さあ?」
「なんだそりゃ、君が知らなくて誰が知ってるんだよ」
「うるさい奴だ。今日は
「あー、それで『その姿』なわけだ。顔を隠すにもそれじゃ、逆に目立ってしょうがないだろうとか思ってたけど」
「とにかくだ、余は忙しいんだよ。……というかこの時間を取るためだけに『爆竜討伐の表彰』だって滅茶苦茶に簡略化して、おかげでそのしわ寄せに首も回らん。ゆえにだね、貴様、報告は以上で良いな?」
「うん? ああ、じゃああと二つだけ。さっき言った通り魔力属性に耐性の穴はなかったんだけど、たぶんあれは威力の方の無効化にも天井がないね」
「ふむ。では、あと一つは?」
「……あいつに物理的拘束での封印をするのは最悪手だ。とんでもない目にあったよ僕は」
その言葉に彼は片眉を上げる。しかし、
――この辺はまた今度、と僕は言って。
「とにかく、出来たら君の方で、爆竜討伐の褒章ってんでその辺の加護がある聖遺物でも送っておくといい。そういう外套がなんか余ってたろ? ぼか寝る」
「待て貴様、そんな抽象的な話で公国の秘宝をやってたまるか。詳しく話していけ」
「じゃ、――そっちも王様頑張ってね。アダム・メル・ストーリア陛下?」
食いつく
なにせあんな手合いの相手を僕一人に押し付けた相手である。如何な旧知の仲であっても、ある程度の理不尽な仕返しくらいは許されるべきだろう。
……とかくアダムなら、僕があれだけ言っておけば「理由や根拠は置いておいて最大限の対処」を打つ。鹿住ハルにはぜひとも感謝をしてもらいたいところだ。第三スキル解放の阻止のためとはいえ、送ることになるであろう聖遺物の価値は金銭に変えられる瀬戸際レベルで莫大なものになるはずであるからして。
「(……いや、売ったりしないよなアイツ、王族からの贈答品。うぅん、アイツならやりかねないのか?)」
/break..
「よう」
と、俺が言うと、
「なんだ、君か」
と、
リベットが言った。
「……、……」
「……、……」
――そこは、王サマとの謁見の直後に俺たちがあてがわれた宿舎から、少しだけ離れた場所だ。
乗合所、という感じの施設だろうか。空っぽのロータリーが、公国首都の避難命令解除を聞いた手合いで少しずつ喧噪を得ていく。
そんな場所で、
俺たちは今、野ざらしの、
――人気のない待合の一か所で、日陰を享受していた。
(……第二部へ続く)
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