第11話せこいな
「ふぅん、君が」
私は穴が開くほど美少年を見入った。
重要な話をこんな子供が?他にも神官はいたのに?
あの場に何十人もいた兵士や神官ではなく、部屋の隅っこにいた子供に代理をまかせるの?
それほどまでに準備や王座の間の片づけに手間取ってるの?
「………………もしかしてさ、大人たちに押し付けられた?」
「え?」
リオンくんの両肩がビクッと動く。ああ、こりゃ図星だな。
「皆、私ら双子が怖いからできるだけ相手にしたくないって言ってるんでしょ?」
「いえ、そんな………」
「気を遣わなくていいって。こういうのは慣れてる慣れてる」
無理もないよね。大司教をぶん殴り、王子の股間を蹴り上げ、王を脅し、モンスターを素手で殴る聖女なんて聞いたことがないだろうし。
しっかし、そんなに私らが怖いのかねぇ。
まぁ、さっきの謝罪だって申し訳なくて頭を下げてるって言うよりも私らが怖いから頭下げてるって感じが見え見えだったからなぁ。
はっ、あからさますぎて、笑えてくるわ。
別にいいけどさ。ちゃんと私らを還してくれるんなら。準備中だって言うんなら素直に待ってたほうがいいかもね。私らが王座の間に言っても邪魔でしかないだろうし。
私ら、掃除とかマジでできないからね。いっつも、掃除はハウスキーパーがやってくれるから。
「君も大変だね。嫌だったでしょ」
「そ、そんなことないです」
「いいよ、別に。恐いから近づきたくないっていうのは人間の当然の心理だし」
「そんなことないです!」
「………………」
ずっとおどおどしたリオン君が私を一瞬ぽかんとさせるほど、妙にきっぱりと言い放った。
優しいのか、子供ながらの意地なのか。
まぁ、どっちでもいいけど。
「ま、いいや。とりあえず、話して。帰還についての話を」
私はベッドに腰掛けた。
「はい、まず帰還には召喚した時と同じ場所、同じ時間そして、多くの魔力を持っている筆頭召喚者が必要なんです」
「筆頭召喚者?」
「つまり、核となる魔力を持っている人のことです。召喚は核となる人間が詠唱呪文を数時間も唱えるんです。その間、一定以上の魔力を持ち得ている神官や魔術師は土台の陣に途切れることのないよう、魔力を注入し続けるんです」
「陣?ああ、あったね。私らが召喚された足元にそんなものが」
「帰還にもその核になり得る魔力が必要なんです」
「そうなんだ」
「副神官長さまからの伝言です“帰還は今日中には望めません。自室で待機をお願いします”とのことです」
「副神官長?ああ、あの化粧おば………あの女神官のことだね。でもさ、それって今日中には絶対できないことなの?あの王座の間だけをちょこっと掃除すれば、できなくはないと思うけど」
ていうか、見習いに帰還の説明を押し付けるほど私らを怖がってるんだったら、無理をしてでも一刻も早く帰還させたいって考えるんじゃないの?
あの人たちだって早く還ってほしいって思ってるでしょ、絶対。
「この国で聖女様召喚の核になりえる魔力を持った人間は大司教さまだけなんです」
「大司教って夏芽が殴っちゃった男の人だよね。すっかり忘れてたけど、その人どうなっちゃった?」
「その………えっと」
そう聞くと、リオン君は急に言い淀んでしまった。
そりゃ、言いにくいよね。こっちはその大司教を殴った加害者側なんだから。
殴ったのは夏芽だけなんだけどさ。
「いいから、はっきり言って」
「はい、実はまだ、目が覚めないらしくて」
「ありゃりゃ」
そりゃ、大変だ。
あの人が帰還のための条件の一つだって知っていたなら私だって必死で夏芽を止めたんだけどね。
「あの人しかいないの?その、核になるような魔力を持った人間は。副神官長にはできないの?」
「副神官様も高い魔力の持ち主ですが、大司教様の魔力には一歩及ばないんです」
「ふぅん。じゃあ、しょうがないね。一日くらい我慢するよ。夏芽には私から言っとくよ」
「あ、はい」
リオン君の返事はいまだに、ぎこちない。
この国にとって聖女というものは神聖視する特別なものらしいから、気はなかなか抜けないみたい。例え、言動がどんなに破天荒な聖女でも。
「………………あのさ、ずっと気になってたことがあるんだけど」
「は、はい。なんでしょうか、僕で答えられることなら、答えます」
すっごい上擦った声。緊張しているのが見え見え。
大丈夫か、この子。
固唾を飲みながら、私の言葉を待つリオンくんの様子が可愛く思えて、思わず顔がにやける。
「………………やっぱり、いいや」
「え?」
「なんでもないから。ていうか、君に聞いてもしかたないしね」
質問というのは、本来の聖女の処遇についてだった。
私たちは王や神官たちを脅しつけたから、還してもらえるような形になっている。
でももし、私たち双子が神官たちが望んでいたような、清純で慈悲深い性格の持ち主だったら、今頃どうなっていたのだろうか。
私たち双子と真逆の性格の双子聖女だったら、にこにことした胡散臭い神官たちの言動に押し切られたんじゃないのか。
大人数の貴族たちや神官たちに懇願されたら、瘴気の浄化を快諾してしまったんじゃないの?
ありえるな。申し訳なくて私らを帰還されるんじゃなくて、私たちが怖いから一刻も早く帰還されようとするあいつらだったら、そんな思惑があってもおかしくない。
せこいな。同情を誘って、帰還についてはうやむやにさせようなんて。
もし、私らが還りたいってはっきりと行動に移さなかったら一体どうなっていたんだろうか。
女神官から話を聞いた限り、瘴気は年単位で発生し、具現化する。国中の瘴気をすべて浄化するとなると、一体どれくらいの期間この国に留まらせられたんだろう。
半年?一年?もっと?
神官達の手違いで召喚されたとはいえ、私たちも瘴気の浄化ができる。聖女の選定ミスはあっても、召喚自体は失敗していない。ある意味、聖女召喚に成功したとも言えるだろう。
だからこそ、聖女は私らでもいい、という考え方をされたかもしれない。
うっわ、怖いな。冗談じゃないな、それ。
スマホが使えない世界にしばらく縛り付けられるなんて、ストレスではげそう。
“本来だったら私らをいつ、還すつもりだったの?”
そうリオン君に聞こうと思ったけど、やめた。
この子が言葉を詰まらせる姿が目に浮かぶ。
せっかく、面白くてかわいい暇つぶしを見つけたんだ。
変に意地悪な質問で暇つぶしを台無しにするなんて、ちょっともったいない。
今後私の鬱憤は、口より先に拳が出る夏芽に全部任せることにしよう。基本、私は夏芽の前には出ないようにしているんだから。
私たちは還れる。そこだけははっきりしている。
そしてあいつらは私らが還った後、もう一度聖女を召喚するだろうな。むしろ、私たちを還さないと、新しい聖女を召喚できないとみた。新しい聖女を召喚できていたなら、とっくに性悪と呼ばれる私たちなんて国から追放されていただろうし。
大変だろうな、次に召喚される双子。
まぁ、いいや。還った後のことなんだから私たちには関係ないし。
「だから、今のは忘れて……………ん?どうしたの?」
リオン君は私から視線を外し、私の隣りのほうに視線をやっている。
私もその視線を追う。
「何を見て………って、うおっ、夏芽、いつのまに起きてたの?」
びっくりした。音もなく、夏芽がむくっと起きてたんだから。
しかも、白いシーツを被ったまま。
おばけかと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます