破片

 小川の向こう側の探索を始めてから3時間。


 慎重に探索を進めた結果、遭遇したモンスターはキラーアントとキラービーのみであった。アコの《索敵》によれば、他にも数種類のモンスターが生息しているとのことだが、大事を取って避けていた。


 そして、何度目かとなるキラーアントを討伐したとき、とある素材が目に入った。


 ん? なんだこれ?


 それは、キラーアントの足に付着していた数粒の砂だった。


瑪瑙めのう破片はへん

 ランク H  

 効果  風化した瑪瑙の破片』


「ん? ハルどうしたのー?」


 指に付いた砂粒を眺めていると、アキが声を掛けてきた。


「これも素材のようだ」

「その砂?」

「『瑪瑙の破片』らしい」

「すごい素材なの?」

「《鑑定》によるとランクはHだな」

「え? ダメじゃん?」


 ランクを聞いたアキが落胆する。


「いや、でもこの素材ってキラーアントが持っていたというより付着した感じだろ?」

「んー、そうだね。どこかの砂地を歩いて付いたのかな?」

「『瑪瑙の破片』って名前だから、集めたら『瑪瑙』って素材にならないか?」

「おー! 待望の馬渕くんへのお土産だね」

「だな」


 砂は岩石が自然の力で風化、粉砕されたモノだ。ならば、上手くいけば大元の鉱物を発見することができるかも知れない。


「ハル、どうした?」


 声をかけてきたナツに先程と同じ説明をすると、


「ん? それなら、この砂もそうなのか?」


 ナツはそう言うと、俺の手にある砂よりも少し黒ずんだ砂を差し出してきた。


黒曜石こくようせきの破片

 ランク H  

 効果  風化した黒曜石の破片』


「お! また、別の破片だ」

「ん? そうなのか?」


 俺が笑みを浮かべると、ナツも嬉しそうに笑った。


「次にキラーアントを見つけたら、倒さないで尾行しようか」

「了解」

「はーい」

「アキ、キラーアントの反応って近くにある?」

「んー、ちょっと待って! 700メートルくらい先に4匹いるかな」

「よし、そこを目指そう!」


 俺たちは新たな鉱石を求めて進むのであった。


 結果的に、先程見つけたキラーアントはハズレ。足に破片は付着していなかった。


 その後、何匹ものキラーアントを発見しては足を観察。ついに、砂――破片が付着しているキラーアントを発見できた。



  ◆



 キラーアントを尾行すること3時間。


 視認されたら襲われるので、尾行はアコの《索敵》頼りだ。


「アリさん、早くお家に帰らないかなー」

「忍者に相応しき任務……と言えど、退屈でござるな」

「ん。レア素材が待っている」

「そうだな。全員がパワーアップできるなら、やる価値はある」


 少しだれてきたアキと山田に対し、メイとナツは高いモチベーションを保っている。


「とは言え、遅くなりすぎるとワタルたちが心配するな」


 そして、俺は時間の心配をしていた。


「どうする? いつまで尾行を続けるの?」


 アコに質問され、俺はスマホで時刻を確認する。


「あと、2時間したら戻ろう」


 帰りの時間も考慮したら、タイムリミットは2時間だろう。


 その後も辛抱強く尾行を続けること1時間。ぽっかりと穴の空いた洞穴に辿り着いた。


「あれが、蟻の巣?」

「と言うか、ダンジョンでござるか?」

「ハル、どうする?」

「あ、ハルくん……ちょっとマズイかも」

「アコ、どうした?」

「なんだろ? 岩の中だからかな? 《索敵》が上手く作動しないけど……思いっきり集中したら、あの穴の中にキラーアントの反応が100以上あるよ」


 どうやら目の前の洞穴はキラーアントの巣のようだ。


「草を集めて、ここに並べよう」

「なにするの?」

「逃げるときに火を放つ」

「わぉ! 過激だね!」


 森に燃え広がらないように、配置に注意し草や木の枝を並べる。


「この中で素早いのは……山田とメイか」

「ふふふ。影と呼ばれし某の出番でござるな」

「ん。AGIこそが最強」

「洞穴付近で拾えるだけ拾って、キラーアントが出てきたら全力で逃げようか」

「大丈夫?」

「キラーアント相手なら俺たちのほうが速い。メイ、山田、リュックの中身を空にして。モンスターの素材はナツたちが手分けして、持てるだけ持ってくれ」


 俺は今まで採取した草花をその場に捨てて、リュックの中身を空にする。


 準備は整った。


「メイ、山田」

「ん」

「承知」


 名前を呼んだ2人が頷くのを確認し、俺は洞穴へと向かうのであった。


「崩したら気付かれる落ちてる石だけ拾っていこう」


 俺たちは必死に落ちてる石や岩を拾い集める。


「ハルくん! ヤバい! 逃げて!!」


 ――!


 アコの声に反応し、即座に撤退。


「山田!」


 3人が集めた草と木の枝を超えたあたりで山田に合図を送る。


「承知! ――《火遁の術》!」


 さすがにアホな詠唱は省いて放たれた火柱が集めた草と木の枝を盛大に燃やした。


「走れ! 走れ! 走れ!」

「私の後に付いてきて!」


 先頭をきって走るアコに誘導されながら、俺たちは逃走するのであった。

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