探索②

「慎重に進むぞ」


 盾を身構えたナツを先頭に森の奥へと進み始めた。


「ちょっと待って」


 俺は足を止め、道中に生息している目新しい草花を採取する。


「ハル、その花で何か作れそうなの?」

「《鑑定》によると麻痺効果があるから、粉末にしてペットボトルに詰めれば使えるんじゃないか?」

「麻痺させる花って前もなかった?」

「前のよりランクが高いから、効果は高いはず」


 所謂、錬金術師とかであれば別の用途もあったかも知れないが、俺にできるのは粉末状にして撒く程度だった。


「馬渕くんが喜びそうな石とか落ちてればいいのにねー」

「ユコが喜びそうな麻とかもあるといいよね」

「某も何か忍っぽい秘密道具を作りたいでござる」


 アキたちが草花を採取しながら、雑談に花を咲かせていると……、


「――! モンスターの気配! 距離は300メートル!

こっちに向かってるよ!」


 アコが本気で《索敵》をすれば、先の調査のとおり1km先まで把握することはできるが、常時発動は疲労が激しいらしい。


 今は、アコ曰く疲労の少ない――300メートル圏内を常に《索敵》してもらっていた。


「数は?」

「3匹」

「キラービーか?」

「ううん。キラービーと同じくらいの強さだけど、違う個体だと思う」


 キラービーと同じくらい――つまり、Eランクのモンスターか。


「ハル、どうする?」

「アコ、周囲1km圏内に敵の反応は?」

「えっと……わわっ! 1km圏内だと結構いるよ!」

「こちらに向かってる反応は?」

「んー、それならさっき言った3匹だけかな?」

「背後――来た道には?」

「いない!」

「よし、迎え撃とう!」


 俺たちは武器を構えて、アコの指し示した方角を警戒。


「来るよ……もうすぐ見えるはず!」


 アコの言葉に反応し、目の前に広がる森の景色に集中すると、


 ――!


 エイリアン……?


 全長120cmほどの黒い生物を視界に捉えた。


『種族  キラーアント

 ランク E 

 耐性  土属性

 弱点  水属性 火属性

 肉体  E+

 魔力  Z

 スキル アシッドリキッド  』


 キラーアント……?


 アント……ありか。


 所有スキルは《アシッドリキッド》。


 リキッドって液体だよな? アシッドってなんだ?


「敵はキラーアント! 巨大な蟻だ! ランクはE+! 弱点は水属性と火属性!」


 俺は《鑑定》で得られた情報を仲間たちへと叫ぶ。


「うわ……アレ、蟻なんだ……。弱点了解だよ!」


 アキは一瞬顔をしかめるが、すぐに笑顔でサムズアップする。


「つまり、某の《火遁の術》の出番でござるな!」


 アキと山田が攻撃の準備へと移る。


「ナツ、アシッドってなにか分かるか?」

「アシッド? すまん、わからない!」


 この中では一番頭の良いナツに尋ねたが、ナツでも分からないようだ。


 英語じゃないのか?


「ん。アシッドは酸」


 と、思ったらメイがアッシドの正体を教えてくれた。


「お! よく知ってたな!」

「ん。ゲーマーの常識」


 言われてみればアシッドと名のつく魔法や攻撃スキルは何かのゲームで目にしたことがあった。


「敵は酸液を放つ! 注意してくれ!」


 俺は《鑑定》で得られた最後の情報を告げた。


「んじゃ、いっくよー! ――《ファイヤーボール》!」

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前! 我が呼び声に応えし紅蓮の炎よ、悪しき魂を浄化せよ! ――《火遁の術》!」


 アキの放った火球が先頭にいたキラーアントに命中すると、巻き上がった火柱が2匹のキラーアントを包み込む。


「来い! ――《タウント》!」


 ナツが盾を打ち鳴らすと、唯一無傷だったキラーアントが凶悪な顎を鳴らしながらナツに襲いかかり、火柱の中から這い出たキラーアントたちもナツへと迫った。


「アキ! 攻撃よりもナツの回復を優先!」

「はーい!」

「大丈夫! 辻野さんは引き続き攻撃を! ――《聖騎士の鼓動》!」


 ナツはそう言うと全身に淡いみどりの光を纏う。


 あ、そうか……。ナツとはあまり冒険に出かけないのでど忘れしていたが、自己回復スキルがあるのか。


 メイも2本の剣を巧みに操り、キラーアントへと攻撃を仕掛け、アコは周囲を警戒しながら時折矢を放っている。


 戦局は安定しているのか?


 よし、俺も攻撃に参加するか!


 ――《エンチャントファイヤ》!


 炎を纏った剣を手にして、俺も攻撃に参加するのであった。



  ◆



 5分後。


 すべてのキラーアントが息絶えた。


「たしかに今までのモンスターより強いな」


 ところどころを酸で火傷したナツが額の汗を拭う。


「しかし、アレだな。ナツがいると戦闘が安定するな」

「ん。タンクはパーティー戦闘の基本」


 ナツのお陰でこちらの被害は皆無だった。ナツは傷付いたが、少し休めば《聖騎士の鼓動》の効果で回復する。


「ハハッ。ハルに褒められると嬉しいな」

「なるほど……これは……悪くない。ご馳走さまです。むぅ……ここにミユがいたら盛り上がれるのにぃ!」


 ハルが照れ笑いを浮かべると、アコが意味不明なことを言って地団駄を踏む。


「ハッハッハ! 『軍神ハル』殿がいれば怖いものなどござらぬ! さぁ、次なる敵を求めていざゆかん!」

「今回に限っては、俺は何もしてねーだろ……。まぁ、油断は禁物。引き続き、慎重に探索を進めよう」


 俺たちは探索を続けるのであった。 


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