作戦

「1つ目の問題は――数だ」

「数?」

「アコ、あの時の《索敵》で察知したモンスターの数は?」

「えっと……あのときはちょっとテンパってたから……正確な数は覚えてないけど……10以上の反応はあったよ」

「キラービーが1匹だけなら余裕だ。ランク的にも格下だからな。実際に俺たちはノーダメージで倒せた。但し、それはミユのバフを受けた俺とアコとアキが3人がかりで攻撃した結果だ」

「んー、あの蜂が10匹もいたら危険だったかも」


 先程あっさりと討伐できたのは、キラービー単体を偶然誘い出せたからだ。10匹のキラービーと対峙していたら、無事だったとは思えない。


「つまり、なんだ? 俺たちが挑むのはまだ早いと?」

「端的に言えばそうなるが……ワタルは挑みたいのか?」

「んー、そうだな……正直言えば挑んではみてーが……そこまでの価値があるのかと言われると……うーん……ねーんだよな……」


 ワタルの表情から察するに、口では挑む価値はないと言ってはいるものの、不満を抱いているようだ。


 他の仲間たちの様子を見ても、どこか落ち込んでいるようにみえる。


 まぁ……無理もないか。


 俺も本音を言えば――新たに発見した小川の向こう側を探索したい。


 理由は単純に好奇心だ。


 この世界に飛ばされてから、数ヶ月。元の生活……には遠く及ばないが、生活は安定してきた。


 生活が安定してくると、心にゆとりが生まれた。


 この世界には、ゲームも漫画もない。小説は山田の聖典バイブルが数冊あるが、すでに全員が何回も読み終えた。スマホはあるけどインターネットには接続されていない。


 最初は極限状態だったから、そんな余裕はなかった。しかし、生活が安定した今、俺たちは――楽しみを求め始めていた。


 そんな俺たちの一番の楽しみが――成長だった。


 努力が報われ、目に見えて体感できるこの世界の成長は俺たちの中で最高の娯楽となっていた。


 剣を振れば振るほど剣の扱いが上手くなり、魔法を使い続けたら新たな魔法を習得し、モノを作り続けたら新たなレシピが思い浮かぶ。


 そして、一定のモンスターを倒したらレベルアップするこの世界の不可思議な仕様はゲームのような楽しさがあった。


 だから、戦闘に特化した【特性】を有したワタルたちは新たなモンスターとの戦いを望み、生産に特化した【特性】を有した馬渕たちが新たな素材を求める気持ちは十分に理解できた。


 何より、先程俺たちが新たなモンスターにあっさりと勝てた事実も挑みたくなる要因となっているだろう。


 さて、どうするべきか?


 小川の向こう側を探索したからといって、元の世界――家に帰れるヒントが落ちている可能性はほぼないだろう。


 今の生活スタイルを続けたら、平穏に生き続けることはできるだろう。


 リターンがあるとすれば、己の欲求を満たすだけだ。


「俺とワタルの先程の話は置いといて、みんなの意見を率直に聞きたい。一度、目を瞑ってくれないか」


 俺が呼びかけると全員が目を瞑る。


「よし、それじゃ質問だ。小川の向こう側を探索したい者は手を挙げてくれ」


 質問を投げかけると、ワタルとメイがすぐに手を挙げ、アキ、ミユ、アコ、山田も遅れて手を挙げ、馬渕と沼田は手を挙げずにソワソワとし始める。


 探索に反対なのはナツとユコだけか?


「よし、手を降ろしてくれ。目を開けていいぞ」


 全員が手を降ろし、目を開けたのを確認。


「今後の方針……というか、俺からの提案だが、小川の向こう側を探索しようか」

「お! いいのか!」

「ん。さすがはマハル」


 俺の言葉にワタルとメイが嬉しそうに声をあげ、


「ハル、いいのか?」


 対照的に、ナツが真剣な表情で問いかけてくる。


「多数決の結果……と言うと、言い訳っぽいな。正直、俺も探索したかった……ってのが本音だな」

「――!? そうなのか! なら、俺も賛成だ」


 ナツは手をピーンと挙げる。


「とは言え、今のままだと危険だ」

「ん? レベル上げをしてから……ってことか?」

「いや、レベル上げっていうより編成の見直しだな」

「編成の見直し?」

「小川の向こう側を探索するなら、欠かせないメンバーが4人いる」

「誰だ?」

「まずは《索敵》を使えるアコは必須だ」

「わぁ! 頑張るね!」

「次に回復魔法を使えるアキ」

「ほほーい! 頑張るよー!」

「仮に複数のキラービーに襲われたときに後方のアコとアキを守る盾となるナツ」

「おうよ! 任せとけ!」

「最後に、小川の向こう側にいるモンスターがキラービーだけとは限らない。と、なると……敵の強さを測れる俺も必要になる」


 俺は小川の向こう側を探索するにあたり不可欠な俺を含めた4人の名前を挙げる。


「――!? な、結局、俺はお預けかよ」

「ん。マハル。数が多いなら双剣使いが適任」

「補助魔法は? 補助魔法ないと不安じゃない?」

「むむ? 某の忍術は不要でござるか……」


 俺の言葉を受けて、名前を呼ばれなかったワタルたちが落胆、或いは抗議してくる。


「落ち着けって。今は4人1組の編成で行動しているが……必ずしも4人でパーティーを組む必要はないだろ?」


 ゲームであるなら、パーティー人数は決められているが、ここはゲームの世界じゃない。パーティー人数は自由に決めれる。


「全員で向かうってことか?」


 ワタルの質問に俺は首を横に振る。


「いや、馬渕たちがあのエリアに行くのは危険過ぎる。また、馬渕たちを守るメンバーもやはり必要だ」

「――? なら、今まで通り4、4になるんじゃねーのか?」

「いや、ここら辺のモンスターであれば2人もいれば余裕で対処できるだろう」

「だな! 何なら俺一人でも余裕だぜ?」

「なら、ワタルが一人で留守番してくれるのか?」

「ちょ……ちょ……待て! それは、別の話だろ!」


 俺が冗談を言うと、ワタルは狼狽する。


「小川の向こう側での戦いが安定するまで、さっき言った4人は必須だが……それ以外にも2人加えて6人パーティーで行動するのがベストだと思うけど、どうかな?」


 俺は小川の向こう側を探索するための作戦を仲間たちに告げるのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。


近況ノートにも書きましたが、当面本作は毎週水曜日の週1更新となります。


ご了承下さいませm(_ _)m

 

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