新たなモンスター

「こいつの弱点は水属性だ!」


 キラービーと対峙した俺は大声で叫び、


 ――《エンチャントアイス》!


 手にした剣に水属性を付与する。


 キラービーはEランク。


 こちらは、俺を含め全員がDランク。ステータスのみで判断すれば、キラービーは格下だ。


 ……勝てるはず!


 俺は氷を帯びた剣を構え、キラービーとの戦闘を覚悟する。


「いっくよー! ――《ウォーターショット》!」


 アキの杖から放たれた水の弾丸が、激しく動くキラービーの羽に命中、


「――《ダブルショット》!」


 続けざまにアコが放った2本の矢がキラービーに突き刺さる。


「ハルっち! ――《フィジカルブースト》!」


 ミユからの付与魔法を受けた俺は後方の3人を守るべく、キラービーと3人の間に立ち塞がる。


 ブゥゥゥン! と、不快な羽音を立てながらキラービーがこちらへと接近。


「いかせるかよ! ――《スラッシュ》!」


 俺を通り過ぎ後ろの3人を襲おうとしたキラービーに、渾身の力を込めて剣を振り下ろすと、


 ――!?


 黒と黄色のボーダーラインの下腹部が両断され、キラービーは地に倒れた。


「おろ?」

「あれ?」

「……倒しちゃった?」


 アキたちは意外にあっさりと倒せたキラービーに拍子抜けしている。


「倒せはしたが、油断は禁物だな。《解体》したら、拠点に戻って報告しようか」


 俺たちは《解体》し、素材と化したキラービーを持って、拠点へと帰還するのであった。



  ◆



 拠点へと帰還した俺たちは仲間たちを集めて、先程の狩りで起きた出来事を報告した。


「――という訳で、コレが新たな素材だ」


 説明を終えた俺は新たに採取したブルーローズと、キラービーを《解体》して得た素材を取り出した。


「この花がDランクねぇ……。こんな花が俺の斧よりもランクが高いのかよ」


 ワタルがブルーローズを手に取りまじまじと見つめる。


「そもそも、ランクってのがよくわからない要素だからな」

「うちらにもランクがあるらしいから、人や武器だと強さを示して、素材だと希少価値とか効果を示しているのかな?」


 実はゲーマーだったミユが、ランクについて推測する。


「そんな感じだとは思うが、この世界はすべてが説明不足だからな」

「攻略サイトとかあればいいのにねー」

「ん。せめてFAQは備えるべき」

「然り。小川――つまりは、境界線を超えると敵の強さが変わる。これはまさしくゲームの仕様でござる」

「ぼ、僕たちは異世界じゃなくて、ゲームの世界に閉じ込められたとか?」


 ゲームとラノベに精通している山田と馬渕が会話に加わる。


「ゲームの世界に閉じ込められたと言えば、某の聖書バイブル――『トプセカ』も同じでござる! 主人公は不遇と言われた風属性を選択して冒険を始めるのでござるが、な、な、なんと! その主人公の正体は伝説の旅団と謳われた【天下布武】の団長なのでござる! 最初はありがちのラノベ展開と思っておりましたが、読み進めるうちに――」

「よし、山田、黙ろうか」


 オタク特有の早口で自分の好きなラノベを語り出す山田を制止する。


「仮に、馬渕の推測が合っていたとしても、こんな世界観のゲームあったか?」

「ぼ、僕の知っているゲームには……な、ないかな」

「うちも知らないなぁ……未発表のゲームのβテストとか?」

「βテストの誘いから始まる物語と言えば、『ジェネシスオンライン』でござる。こちらの作品は――」

「オッケー! 山田、黙ろうか」


 俺は再び興奮状態に陥った山田を制止する。


「ハル、一ついいか?」

「ん? どうした?」


 ナツが声を掛けてきた。


「俺はゲームとか小説とかあんまり詳しくないからわからないけど……近くに生えてた草とかのランクも高かったんだよな?」

「《鑑定》した限りは、E〜Dランクだったな」

「それなら、境界線どうのこうのじゃなくて……その高ランクの素材を餌をにしている高ランクのモンスターが生息しているとかじゃないのか?」


 ――!


「なるほど……話の筋としてはナツの説のほうがしっくりくるな」


 なんでもゲームやラノベに置き換えるのはよくないな。


「んで、どうすんだ?」


 話が中座したところでワタルが本題を切り出した。


「どうするって……今後の方針か?」

「そうだ。ゲーム説か、餌説かは置いといて……具体的にどうすんだ? 松山が見つけたその場所を今後は探索するのか?」

「んー……実はかなり悩んでいる」

「悩んでる? そのキラービーってのはEランクだったらしいが、楽勝だったんだろ? Eランクのモンスターなら倒したときの経験値もでかいだろ?」

「あ、あと……この素材……ハルくんの持って帰ってきたこの素材から……あ、新しい短剣と兜が、つ、作れるよ……」

「へ? そうなのか?」


 突然の馬渕の言葉に俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。


「短剣と兜? いっぱい集めれば、斧も作れるのか?」

「ご、ごめん……。た、多分短剣と兜しか、む、無理かも……」

「――?」


 馬渕の答えにワタルは眉間にシワを寄せる。


「え、えっと……この素材を見た瞬間に……アイディアが湧いたと言うか……なんと言うか……た、多分……【鍛冶師】の【特性】が教えてくれたんだと思う……」

「ふむ……。そうなのか……」

「ご、ごめん」

「別に馬渕が悪いって訳じゃねーだろ! 謝らなくもいい!」

「ご、ごめ……わ、わかった」


 馬渕は新しい素材を見たら、新しいレシピを覚えるのだろうか?


 本当にこの世界は未知なことが多すぎる。


「で、でも……斧を作れる素材とかもあると……思うから……そのときはがんばるね」

「おう! 頼りにしてるぜ! ってことで、斧の素材を求めて探索だな!」

「いやいや、ちょっと待て……探索するにしても作戦が必要だ」

「作戦? 楽勝だったんじゃねーのか?」

「幸いキラービーは簡単に処理できたが……問題はある」

「問題?」


 俺の言葉にワタルは首を傾げるのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも本作をお読みいただきありがとうございます。


明日の投稿はお休みとなります。ご了承下さいませm(_ _)m

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