新たな素材

 古瀬さんを追い返して以降は特に代わり映えのない平穏な日々が続いていた。


 佐伯たちはどうなったのだろうか?


 相澤のクーデターは阻止できたのだろうか?


 と、気になることはあるが、わざわざ偵察に出向いてもやぶへびなので、俺たちは地道にレベルを上げ、拠点を中心にマッピング範囲も日々広げていた。


 そんなある日――俺はアキ、アコ、ミユの3人と共に狩りに出向いていた


「このメンバーで狩りって初めてだね!」

「田中さん(メイ)がハルっちにべったりだからねー」

「ナツくんもハルくんにべったり」

「ふふふ……それを言うなら山田もハルっちにべったりだよ」

「つまり、ハルくんはモテモテ!?」

「メイは俺以外のメンバーとあんまり打ち解けてないからな」


 ここでナツと山田の方に触れても、腐った2人が喜ぶだけだ。


「田中さんがみんなと仲良くなれるように狩りのメンバーを変更させたの?」

「それもあるが、互いの実力を知っていたほうがいざと言うときに動きやすくなるだろ?」


 昨日、俺からの提案で狩りに行くメンバーを編成し直した。ちなみに、編成方法はグーパーで決めた。


 そんな訳で、今回は新メンバーで狩りに出かけたのだが……、


「知ってはいたけど、アコの《索敵》はエゲツないな」

「エゲツないって……もう少し良い言い方なかったのかな?」

「ごめん、ごめん。一応、褒め言葉だ」


 アコとの狩りは成果が段違いだった。


 《索敵》があればモンスターの奇襲を警戒する必要はなく、モンスターがどこにいるのかわかるので、効率的に経験値を稼ぐことができていた。


「順調だからサクサク先に進むか」

「いいね!」

「未踏の地へレッツゴー!」

「マッピングは任せてね!」


 こうして俺たちはマッピング範囲拡大を目指して、西へ西へと進んでいった。


 アキたちと狩りに出てから3時間。


 かなりのハイペースで進んだ結果、小川を発見した。

「わぁ! 新しい川だぁ!」

「かなり浅い川だな。向こう側に渡ってみるか?」


 小川を目にしたアキが目を輝かせる。水の高さは膝下くらいの小さな川だった。


 川の向こう側は、これまで以上に鬱蒼とした森が目に映る。


「渡ろう!」


 即答するアキの意見に反対する者もいなかったので、俺たちは靴と靴下を脱いで小川を渡った。


 俺が川を渡ろうと言った理由は――初めて見る植物を視界に捉えたからだった。


 初見のアイテムを《鑑定》すれば、熟練度があがる。最近、頭打ちになっていた《鑑定》の熟練度を稼げる絶好のチャンスだ。


 俺は早速、初めて目にする青い花に駆け寄り《鑑定》を行う。


 ――!?


 は? え?


『ブルーローズ

 ランク D  

 効果  疲弊した魔力を回復させる』


 疲弊した魔力を回復させるだけなら……『魔力草』という植物がすでに存在していた。


 俺が驚いた理由は……、


「ん? ハルどうしたのー? わっ! キレイな花だね」


 摘み取った『ブルーローズ』を目にしたアキが笑顔になる。


「……おーい! ハルー! どうしたのー?」


 俺は近くで叫ぶアキの声を無視して、周辺に生える植物を片っ端から《鑑定》した。


「……どういうことだ?」

「ハルー! どうしたの?」

「ハルっち、何かあったの?」

「ハルさーん!」

「なんだ……ここ?」

「え? 本当にどうしたの?」

「ランク?」


 周辺に生息するすべての植物のランクが高かった。


 植物、或いは鉱物。この世界に来てから目にした素材のランクは高くてもFランク。ほとんどの素材はHランクだった。


 腰に帯びた馬渕渾身の作品である剣でさえ、ランクはEランクだった。


 それなのに、俺の手にある『ブルーローズ』のランクはD。それだけに留まらず、周辺に生息している植物のほとんどが、D〜Eランクだった。


「アキが手にしている杖はEランクだ」

「うんうん。馬渕くんには感謝だよね」

「んで、この花はDランクだ」

「ふむふむ……え? どういこと?」

「理由は不明だが、あの小川よりこっち側に生息している植物はランクが高い」

「え? ちょっと待って! ハルっちの《鑑定》が正しいなら、うちのこの杖よりもその花のほうがランクが上ってこと?」

「そうなるな」


 会話に割り込んできたミユの言葉に俺は首肯する。


「えっと……えっと……どうする? とりあえず手分けして、ここに生えてる植物を持って帰る?」

「もう少し奥に行ったら高ランクのキノコとか食べ物もあるかな?」


 アキはキョロキョロと周囲を見渡し、ミユは森の奥へと視線を向ける。


「どうだろうな? 可能なら、キノコとかより鉱物……新たな武器の素材となりそうな高ランクの鉱物が欲しいが……」

「ハルくん! アキ! ミユ! 逃げるよ!」


 行動方針について悩んでいると、アコが大声で叫んだ。


「どうした?」

「《索敵》範囲内に強大なモンスターの反応が!」


 ――!


「撤収だ!」


 俺たちは靴を脱ぐ間もなく小川を渡り、一目散にその場から逃げ出した。


「ハァハァ……アコ、反応は?」


 猛ダッシュで走りながらアコに問いかけると、


「……1匹だけしつこく追いかけてくる!」


 アコが大声で答える。


「1匹だけ?」

「うん。最初は10匹以上の反応があったの……ダメ! このままじゃ追い付かれる!」


 ブゥゥゥンと不快な羽音が聞こえてきた。


 向こうのほうが速いのか?


「クソッ! 迎撃する、3人は間合いを取れ!」


 この中で接近戦をできるのは俺だけだ。俺は足を止めて、その場で振り返る。


 耳に届く不快な羽音が次第に大きくなり、襲撃者がその姿を露わにした。


『種族  キラービー

 ランク E 

 耐性  風属性 土属性

 弱点  水属性

 肉体  E+

 魔力  Z

 スキル 痺れ針  』


 ――!


 Eランクだと!?


 1メートルを超える巨大な蜂と対峙するのであった。

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