一方その頃
古瀬さんたちが立ち去ったと思われた後、俺は取るべき行動を悩んでいた。
「ハル、どうする? 拠点に――」
「アキ! それに全員一旦集合!」
俺はアキの言葉を遮り、全員を集める。
「えっと、もう少し近くに寄って」
俺は仲間たちを密着するくらい近くに呼び寄せ、スマホを操作する。
『古瀬さんと木村さんが近くにいる可能性もあるから、拠点の話は禁止!』
スマホのメモ欄に打ち込まれた俺の文章を見た仲間たちは、顔を強張らせる。
『万が一、俺たちを見張っていたとしたら……さっき装備品を渡しただろ? 考え過ぎかも知れないが、佐伯たちが更に装備品を欲しい! と考えたら……拠点に来訪する可能性がある。その事態は避けたい』
俺が唯一見逃していたのは木村さんの能力――《ミラージュ》だった。《ミラージュ》中の古瀬さんと木村さんはアコの《索敵》でも察知することはできない。
下手に拠点まで尾行されたら、ここまでした偽装工作が台無しだ。
まさか、歩いて帰らないで……いきなり《ミラージュ》で消えるとは……。
『どうする?』
ナツも俺と同様にスマホを取り出して、質問してくる。
『永続的に《ミラージュ》を継続できるとは思えない。だから、2日間ここに留まり、確実に近くにいないとわかったら……ワタルとメイと山田とミユの4人はみんなを連れて拠点に戻ってくれ。俺とナツとアコとアキは、拠点と逆方向へ歩き迂回しながら拠点に戻る』
二手に分かれたとき、尾行するならナツか俺だろう。途中で《ミラージュ》が切れたときに《索敵》できるアコも一緒であれば、ある程度は安全に帰れるはずだ。
『そこまでする必要はあるのか?』
俺の提案にワタルが疑問を示す。
『念には念を……だな』
『了解。リーダーは松山だ。従う』
俺たちは古瀬さんを警戒し、偽装した拠点で2日間過ごすことにしたのであった。
◆
2日後。
《索敵》の結果古瀬さんたちの反応はなかったので、計画どおりワタルたちは拠点を目指し、俺たちは拠点と逆方向へと向かった。
翌日。
大きく迂回しながら、俺たちも拠点へと帰還した。
「ただいま」
「お! やっと戻ったか!」
帰還した俺たちをワタルを先頭に仲間たちが出迎えてくれた。
「何か変わったことは?」
「こっちは特にないな」
「ふぁー! 疲れたぁ……とりあえずお風呂に入りたいー!」
アキは背伸びをして、そそくさと拠点に入った。
「辻野さんの言葉じゃないけど、確かに疲れたな」
「尾行を警戒して、敢えて険しい道を選んだからな」
「ハハッ! 我らがリーダーは慎重だな!」
「つまらないことで後悔したくないからな」
お風呂はアキとアコに先を越されたので、俺は濡れたタオルで身体を拭き、久しぶりのベッドで横になった。
「ハル、いいか?」
現在の寝床は両サイドが仕切り板で囲われており、正面はユコ特製のカーテンで覆われ、簡易的な個室となっており、そのカーテンの向こう側からナツの声が聞こえた。
「どうぞー」
返事をすると、カーテンの奥からナツが入ってきた。
「とりあえず、お疲れ様」
「お疲れさん」
「ハル、ここまでする必要はあったのか?」
ここに帰還するまでの道中は古瀬さんを警戒し、会話も極力交わさなかった。ナツには積もる話もあるのだろう。
「少し慎重過ぎたかも知れないが、ようやく手に入れた安住の地だ。つまらない判断ミスで失いたくはないだろ?」
「……だよな。ハルは、佐伯たちと遭遇したら争いになると思うか?」
「んー、どうだろうな? 佐伯は争いを望んではいないと思うが……他のメンバーはどうだろうな?」
佐伯が争いを望んでいたのであれば、最後に言葉を交わしたあの日――決別した日に、争いが生じていただろう。
佐伯は恐らく、争いを望んではいない。リーダーになることも望んではいないだろう。多分、今の俺と同じように自分を……或いは大切な誰かを守るための手段として、リーダーになったのだろう。
「剛か……」
「そうだな。相澤は、争いを望むと言うか……上層にいたいタイプだろうな」
「上層?」
「上位グループって言えばいいのか? カーストの上の方だよ」
「くだらないな」
「くだらないかも知れないが……上位グループにいたいと願う人間は一定数いるさ」
「ハルは違うだろ?」
「んー……上位グループにいたいと願うことはないが……上位グループって下位グループがいるから上位グループなんだよな」
「ん? どういうことだ?」
「ナツはナチュラルに上位だからわからないかも知れないが……相澤みたいな人間は下位を見下したい――誰かより上にいると実感したいから上位グループに拘ると思うんだよね」
「ナチュラルに上位って……なんだよ、それ」
「すまん、話が逸れた。えっと、なんだっけ……俺は上位グループにいたいとは思わないけど、虐げられる下位グループになりたくないとは思ってるよ」
学校ならまだしも、今はいるのは異世界だ。学校なら、学校の時間だけ我慢すればいいが、今は違う。ここでの下位グループ――虐げられる立場は、奴隷と変わらない。
「ハルが下位グループになることは絶対にないし、俺がそんなこと許さないさ!」
「ハハッ! 俺だけじゃない。今いる仲間全員が笑って暮らせるコミュニティーにしような」
「だな!」
俺が笑うと、ナツも笑った。
「ハルー! 獅童くーん! お風呂空いたよー!」
「お? 風呂に行くか」
「おう!」
俺は疲弊した身体を起こし、ナツと共に風呂場に向かうのであった。
◇
古瀬さんを追い返してから30日後。
佐伯たちが押し掛けてくるようなトラブルに見舞われることなく、楽しいサバイバル生活を送っていたある日――
「ん? なんだこれ?」
狩りにでかけた俺は不思議な植物を発見したのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
いつも本作をお読み頂きありがとうございます。
これにて第3章終了となります。次回は、『SIDE――???』となります!
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