SIDE―???

 いつもと変わらぬ、いつもの日常。


「早川」

「はい」

「藤野」

「はーい」


 いつも通りので、いつも通りの朝礼を進行していると……、


 ――!?


 眩い光に包まれ――俺は意識を失ったのであった。



  ◇


『異世界より招かれし、素質を覚醒せし者よ。よくぞ、参られました』


 ……幻聴?


 頭の中に女性の声が響き渡った。


 ん? 死んだのか……? 


 最後に記憶にあるのは……担当していたクラスの教室。つまりは、職場だ。


 死因は過労だろうか? 公務災害は適用されるのだろうか?


 死んだあとの世界のことは誰も知らないが……意識は意外にあるんだな。


 自分の身に降り注いだ現実を冷静に受け止めていると……、


『異世界より招かれし、素質を覚醒せし者――アラタよ! 貴方に使命に立ち向かう為の【適性】と【特性】を授けます』


 幻聴にしてはハッキリとした口調の声の主が、俺の名を呼ぶ。


 んん? ちょっと……待って……。


 今、なんて言った?


『異世界より招かれし、素質を覚醒せし者――アラタよ! 貴方に使命に立ち向かう為の【適性】と【特性】を授けます』


 ん? 謎の声がもう一度、同じ言葉を繰り返す。


 まさか、さっきの俺の要求に答えた?


 というか……声に出していないと思うが……心の声が聞こえているのか……?


『はい。貴方の意思を感じることができます』


 んんん? ちょっと待て……落ち着け……落ち着け……。さっきこの声の主は……『異世界から招かれし』とか言ってたよな?


 ってことは……俺は死んでない??


『はい。貴方の魂は死んでおらず、身体はこちらの世界に適応した形で再構築いたします』


 あぁ……待て、待て。心の声がダダ漏れと言うのは不便だな。少し待ってくれ。


 えっと、つまり……なんだ……俺は死んだのではなく、異世界に招かれたってことなのか?


『はい。貴方は聖王国の儀式により、私の力を介して、私の世界に召喚されました』


 えっと、アレだ……アニメとかでよく見る異世界転移だ。


 こういうのって俺みたいなおっさんじゃなくて、うちの生徒……それこそ獅童みたいな生徒とか普段は目立たないが何故か隠された力を持ってる……とかの設定で、馬渕とか松山みたいな生徒が召喚されるんじゃねーのかよ!


 教師が朝礼中に異世界転移とか誰得設定だよ!!


 は? ちょっと待て……あの光は教室中を包み込んでいた。


 まさか……うちの生徒も……?


 生徒と一緒に異世界転移? これって元の世界に戻ったら……保護者一同からフルボッコ案件じゃねーか?


 異世界召喚をしたのは俺ではないが……そんなのをお構いなしに責めてくるのが真のモンスター――モンスターペアレントだ。


 うわ……ってか、教頭もキレるだろうな……。


 万が一、生徒が怪我でもしたら……想像するだけで震えが止まらない。


 いや、確か……転移した異世界でそのまま永住するハッピーエンドパターンもあったよな?


 決めた! 最悪、その線で乗り切ろう!!


 っと、その前に一応確認だな。


 質問してもいいか? 今回の召喚にうちの生徒は――


『間もなく旅立ちの時間となります。異世界より招かれし、素質を覚醒せし者よ――汝の往く道に祝福の光を……』


 え? は? おい! ちょ、ちょっと――


 俺の意識は再びブラックアウトしたのであった。



  ◇




「……姫! ……姫様!」


 慌てふためく人々の喧騒が聞こえてきた。


 頬に伝わる冷たい感触。俺は石畳の上で倒れていたようだ。


 ……ッ!?


 気怠い身体に無理やり力を入れ、目を開けると……


 ――!?


 視界に飛び込んだのは無数の倒れている人々と、同じく地に倒れている巨大な未知なる赤毛の生物。


 そして、喧騒の原因は――倒れている1人に群がる中年のおっさんたち。


 は? どういう状況?


 俺を囲むように倒れている人々は皆、お揃いの紺色のローブを身に纏っている。


 ――!


 ま、まさか……! 倒れているのはうちのクラスの生徒か!


 俺は慌てて飛び起き、近くで倒れている1人に駆け寄った。


 ――!


 だ、誰……?


 倒れていてたのは見たこともないおっさんだ。


「――!? ゆ、勇者様が目覚められたぞ!」


 倒れていた人に群がっていたおっさんの内の一人がこちらに気付く。


 勇者様……? ってことは、さっきのは幻聴じゃなく……現実だったのか……。


「……ん……ぶ、無事に……せ、成功しました……?」

「ひ、姫様……!」

「大丈夫ですか?」

「ご無事ですか?」

「わ、私は……だ、大丈夫で……す……」


 群がっていたおっさんたちが騒ぎ出すと、倒れていた人――姫様? が、フラフラになりながらも起き上がる。


「ゆ、勇者様……初めまして。私は聖王国アストラルの姫、アリシアと申します。此度は、私の呼びかけにお応え頂き、ありがとうございます」


 呼びかけに応えたつもりは全くないが……一社会人として、今は礼節に応えるか。


「えっと……初めまして。私の名前は藤井ふじいアラタ。金沢第一高等学校の教師です」

「フジイアラタ……? アラタ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「い、いや……好きに呼んでくれても構いませんが、一国の姫に様と呼ばれるほど高尚ではありませんよ」

「まぁ! ご謙遜を! アラタ様をお喚びするのに必要だった魔力は通常の勇者召喚の30倍でしたわ!」

「――?」

「本来であれば勇者召喚に必要なのは、Aランク相当の魔術師10人分の魔力と、にえとなる1体の魔物ですわ。しかし、アラタ様を召喚するのに必要だった魔力は実に300人分の魔力でしたわ!」

「は、はぁ……」


 目の前の姫様が興奮気味に話すが、凄さがイマイチわからない。


「文献によれば、数々の伝説を築き上げた最強の勇者ヨシツネでも、召喚する際に必要だった魔力は50人分と記されおります」


 ヨシツネって……源さんのところの義経じゃないよな?


「聖王国アストラルではこれまで99回の勇者召喚の儀式を執り行いました。しかし、初代の勇者様であるヨシツネ様以降は、必要な魔力は10人分というのが定説となっておりました。ヨシツネ様以外にも20人、或いは30人分の魔力が必要だった勇者様は存在していましたが……300人分もの魔力が必要だった勇者召喚は前代未聞です!!」


 えっと……つまり、過去に99人もこの世界に召喚されて、俺は記念すべき100人目ってことか?


 そして、アニバーサリーに相応しい、特別な力を持った勇者……ってことなのか?


 さっきまでフラフラだったのに、この姫様の熱量凄いな……。前代未聞です! とか言われても、異世界に召喚されること自体が前代未聞だと思うのだが。


「勇者アラタ様! 改めて、お願い申し上げます。どうか……私たちを……この世界をお救い下さいませ」


 こうして、一介の教師だった俺は、異世界で勇者としての第二の人生を始めたのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


いつも巻き込まれ召喚をお読み頂きありがとうございます。


こちらの話はかなり前に執筆(未投稿)した内容となります。(本編とあまり絡まないので投稿するタイミングを見失っておりました……w)


という訳で……勇者の正体は先生でした!!


明日の投稿はお休みとさせて頂きます。(元気があれば、人物紹介の最新版を投稿します)


今後も本作をよろしくお願い致しますm(_ _)m

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