SIDE―S⑨

 古瀬が戻った日の翌朝。


 俺は昨夜もらった装備品を装着し、残ったクラスメイトが全員が集まる朝食の場へと向かった。


「え?」

「……佐伯くん?」

「……鎧?」

「と、トウジ……?」


 完全武装した俺の姿を見てクラスメイトたちがざわつく。


 俺は周囲のクラスメイトを見渡した。


 この場にまだいないのは、相澤と内海だけか。


 今では相澤の取り巻きと化した、木下と村井は俺の姿を見て呆然とし、慌てて相澤の寝床へと向かう。


「ったく……朝っぱらなんだよ……」


 暫く待つと、木下と村井に連れられて相澤と内海が一目で寝起きとわかる姿で現れた。


「よし、全員集まったな。みんなに伝えたいことがある」


 俺はクラスメイト全員が集まったことを確認し、口を開いた。


「あん? トウジ朝っぱらから……って! なんだよ! その格好!?」


 俺は驚く相澤を無視して、話を進めることにした。


「先日、小用で離れていた古瀬と木村が戻った。みんなも驚いたと思うが、以前のように迎え入れてくれ」

「あ! 委員長だ!」

「小用……?」

「おかえり! でいいのかな?」

「どこに行ってたんだ?」


 真実を話せば相澤たちのクーデターに気付き逃げ出したのだが、それを口にすればいざこざが生じる。古瀬は宮野のような食べられる植物の鑑定ができるし、木村は替えがたい能力を有した人物だ。


 今は真実を話さず、受け入れ体制を整えよう。


「おい! トウジ! んなことはどうでもいいんだよ! それより、その格好はなんだ!」

「これは、俺の新たな装備だ」

「は? どういうことだよ! 1から説明しろよ!」


 説明か……。正直に言うべきか?


 お前がクーデターを計画していたから、それを防ぐために松山が贈ってくれた……と。


 言えるわけないな。


 しかし、この装備品の出処は全員が気になっているだろう。


 さて、何と答えるべきか?


「この装備品は松山っちがとーじにくれたんだよ。いーんちょはそれを取りに行ったんだよ? おけまる?」


 ――!


 佳奈がすべてではない真実の一部を告げる。


「は? ざけんな! なんで、あいつの名前がでてくんだよ!」

「あーしは答えてあげただけだょ。あーしに言われても困るし」

「ざけんな! トウジ! どういうことだよ! 説明しろ!」

「説明もなにも佳奈の言った説明がすべてだ」

「は? は? は? 意味わかんねーよ!」

「なんだ? なにか問題があるのか?」

「あるに決まってんだろ! なんであんな裏切り者とつるんでんだよ!」

「松山は……松山たちは裏切り者ではないし、敵でもない。ただ、進むべき道が分かれただけだ」

「は? 意味わかんねーし!」


 相澤の鼻息は荒くなる一方だ。


 このまま話し合い……にすらなっていない、現状を続けても無意味だ。


「俺が装備品を手に入れたことがそんなに不満か? この装備品はすごいぞ。今まで以上にみんなを、より安全に、守ることができる。何が不満なんだ? 俺が強くなって、何か問題でもあるのか?」


 語気を強めると、相澤は顔を真っ赤にして押し黙る。


「トウジ、一ついいか?」


 相澤が黙ると、代わりに木下が口を開いた。


「なんだ?」

「松山から渡された装備品はトウジの分だけなのか?」

「いや、佳奈が装備している杖と軽鎧もそうだ」

「トウジと立花の分だけだったのか?」

「違う。装備品はもう1セットある」

「もう1セット?」

「そうだ――乾」

「ん? んん? な、なんだ……」


 突然名前を呼ばれた乾が慌てふためく。


「乾は誰よりも狩りと防衛に励んでいた。だから、もう1セットある装備品は乾に渡そうと思う」

「い、いいのか……?」

「あぁ、当然の結果だ」

「にしし、乾っちおめっとー!」


 俺が首を縦に振ると、木村が乾の前へ向かい、槍と盾と防具のセットを異空間から取り出した。


「うぉ……あ、ありがとな」

「わぁ! すっごーい! ねね! 真司も着てみたら?」

「乾くん、良かったですね」

「ハハッ……すげー、この槍もすげーな……」


 真新しい装備品を目の前に浮かれる乾と、大はしゃぎする栗山。栗山の親友である菅野も嬉しそうだ。


「おい! 待てよ!」


 乾たちの喜びムードに水を差す形で、相澤の怒声が響き渡る。


「なにを勝手に決めてんだよ!!」

「勝手に? 俺が貰ったものだ。どうしようが俺の勝手だろ?」

「ざけんな! コタロウ(木下)! タクヤ(内海)! ケイスケ(村井)! お前たちはそれでいいのか!!」

「「「……」」」


 木下、内海、村井は、俺と相澤を交互に見ながら戸惑っている。


「おい! いいのかって聞いてんだよ! あの鎧は乾じゃなくて、タクヤ! お前が着るべきだろ! だって、ケイスケ使いたくないのか! オラッ! どうなんだ! お前たちの本音を聞かせてくれよ!」

「そ、それは……」

「で、でも……」

「……おい。今、なんて言った?」


 俺は相澤の聞き捨てならない言葉を耳にして、怒りに震える。


「あん? だから――」

「お前は佳奈の装備を奪うと言ったのか?」

「……クソッ! だったら、なんだって言うんだよ!」

「消えろ……今すぐこの場から消えろ」

「……は?」

「俺の判断に不満があるなら、今すぐここから立ち去れ!」


 相澤が抜け、木下、内海、村井、北川が追従したら戦闘面で不安が残るから自重していたが、もう無理だ。


 相澤は人災だ。


 こいつを残していても何一つ利にはならない。


 俺は相澤に最後通告を突き付けたのであった。

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