SIDE―S⑧

「……古瀬? 戻ったのか?」

「……はい」

「それで、こんな夜中にどうした?」


 夢……じゃないよな?


 俺はまだ覚醒していない状態で、必死に状況を確認しようとする。


「実は――」


 その後、古瀬は淡々と何があったのかを語りだした。


「つまり、相澤たちが俺に反旗を翻そうとして、古瀬と木村はクラスメイト同士が争うことが怖くなり、この場から立ち去り……松山たちを頼ったと?」

「はい。……追い返されましたけどね」


 なるほど。相澤たちと狩りに出ると、不自然なまでに俺を観察していた理由はそれか。


 俺が先にこの拠点を出るのが先なのか……相澤たちが反旗を翻すのが先なのか……どちらにせよ、この拠点はすでに崩壊していたということだ。


「それで、この崩壊する未来が確定している拠点に戻ってきた理由は?」


 俺は自嘲気味に問い返す。


「実は追い返されはしましたが……松山くんから佐伯くん宛の手紙を預かりました」

「松山……? 獅童じゃなくてか?」

「……はい」


 先ほどの古瀬の話を聞く限り、古瀬が信望しているのは獅童だ。獅童ならば、励まし……或いは俺たちを迎え入れる手紙を寄越す可能性はあるが……松山か。


「松山にはさっきの話をしたのか?」

「はい。しました」

「なのに、追い返された……と」


 松山は、俺が佳奈を最優先するように――優先順位を付けれるタイプの人間だ。


 現に、助けてくれと泣きついてきた古瀬をあっさりと追い返している。


 さて、手紙の内容はどんな感じなのだろうか?


 浅慮な俺を嘲笑う内容か?


 俺は古瀬が差し出した手紙を受け取り、目を通した。


『佐伯へ


 元気か? って、聞くだけ野暮だな。こっちは仲間たちと何とか異世界での生活を送れている。


 早速だが本題に入る。大体の事情は古瀬さんから聞かせてもらった。残念ながら、今の俺たちは自分の生活を支えるので手一杯だ。古瀬さん同様、佐伯たちを受け入れる余裕は一切ない。


 しかし、前も話したが、俺たちは敵じゃない。ただ、進むべき道をたがえただけだ。だから、今の俺たちにできる最大限の助力を贈りたいと思う。


 木村さんにこちら特製の装備品を渡した。渡した装備品の目録は……


 ① 大剣と重防具セット

 ② 杖と軽装備セット

 ③ 杖と軽装備セット

 ④ 槍と盾と重防具セット


 ①に関しては、佐伯が使えばいい。②と③は同じだが、1セットは木村さんに渡したと伝えたから、もう1セットは立花さんに渡してくれ。④だが、乾が信用できるなら乾に渡せばいいと思うが、その辺は佐伯が判断すればいい。


 相澤が佐伯より強くなった最大の原因は――装備だろう。


 佐伯が再び力を手にしたら相澤たちが好き勝手することはなくなるだろ?


 直接助力出来ず申し訳ないが、こちらからの贈り物で佐伯たちの人生が好転することを祈っている。


 追伸 相澤たちのクーデターを知りながら、勝手に抜け出した古瀬さんたちに思うところはあるだろうが、そこは佐伯の懐の深さで受け入れてあげて欲しい。


 いつか、道が交わったとき……この借りは返せよ(笑)


 松山 春人』


 ――!


 こ、これは……


「木村! 松山からの――」

「さ、佐伯くん」


 思わず、声を荒げてしまった俺へ、古瀬が鼻の前で人差し指を立てて制止する。


「す、すまん……。木村、松山からの預かり物は?」

「え、えっと……」


 木村は俺ではなく古瀬に困ったような視線を送る。


「安心しろ。この手紙にも書いてあったが、俺たちは再び古瀬と木村を受け入れる。木村に渡した物もすべて目録として手紙に記載されている」

「え、えっと……」


 木村は手にした杖をギュッと握りしめる。


「はぁ……安心しろ。その杖は木村に渡したと手紙に書いてあるから、それは木村の物だ」

「いいよ。咲、出してあげて」


 古瀬に促され、ようやく木村は異空間から松山に渡された品々を取り出した。


 ――!?


「こ、これは……」

「んにゃ……とーじ……ん……ど、どしたの……」

「佳奈、起きたのか。驚くなよ。大声は出すなよ」

「んん……おけまるだよぉ……――!? って、委員――」


 俺は慌てて佳奈の口を抑える。


「佳奈、落ち着け。ゆっくりと説明するから……声は出すなよ」


 口を抑えられたままの佳奈はコクコクと首を縦に振る。


「詳細は後で話すとして、簡潔に伝えるぞ。古瀬たちは松山たちのところに行って、土産を持って帰って来た」

「ん……おけまる。んで、お土産がこれー?」


 佳奈が指を差した先には、俺たちが使っているゴブリンから剥ぎ取った装備品とは比べものにもならない、美麗で見たこともない装備品が並んでいた。


 松山は仲間の誰かに生産職――恐らく【鍛冶師】を選択させたのだろう。


 俺だってクラスメイトが全員残っていれば……誰かに【鍛冶師】を……って、言っても今更だな。


「装着してもいいか?」

「うん……。この装備品は松山くんが佐伯くんに渡したアイテムだから……」


 一応、古瀬に断りをいれ……俺は目の前にあった装備――鉄製の胸当てとレガース、腕にガントレットを装着。


 少し重いな。しかし、身体に妙に馴染む。鎧など、装着するのは初めてなのに……これも、この世界で得た【適性】のお陰なのだろうか?


 鎧を装着した俺は最後に、一際目立つ大きな剣――大剣を手に取った。


 ――!


 こ、これは……。


 俺は最後に松山から言われた言葉を思い出す。


――『最後に一つだけ助言だ。【竜騎士】の得意武器は『槍』じゃなくて『大剣』だぞ』


 最初は何を言っているのか不明だった。何より、『大剣』が得意武器と言われても、『大剣』が手元にないのだから確かめようがなかった。


 ハハッ! 確かに【竜騎士】の――俺の得意武器は槍じゃなくて、大剣だな!


 初めて手にした得意武器に俺の感情は昂ぶるのであった。

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