話し合い⑥
古瀬さんの言葉を受け取り、仲間たちへ振り返ると……、
なるほど、今回の俺の提案に納得してないな。
仲間たちは、不安或いは不満を抱えた表情を浮かべていた。
「互いに相談する時間を設けないか? 委員長も、こちらからの提案を受けるか、否か、木村さんとも話し合ったほうがいいだろ?」
「わかりました」
「30分後に結論を聞かせてくれ。ちなみに、何があっても受け入れることはない……と、だけは先に伝えておく」
「……わかりました」
「あ! あと、簡単な食事を提供するよ。ユコ、委員長たちに食事と飲み物を提供して」
「了解です」
ユコはオークの干し肉と、森で採取した草花から作ったサラダと、沼田お手製の木製コップに入った水を提供。
「え? お、お肉……?」
「オー……ぶ、豚のお肉ですよ。味付けはお塩だけですが」
「し、塩まであるのですか……!?」
「はい。宮野さんの作る料理ほど美味しくないかも知れませんが……どうぞ」
「「ありがとうございます」」
肉と塩に感動したのか、古瀬さんと木村さんは深々と頭を下げた。
俺は古瀬さんたちから少し離れた場所に全員を集めて、今回の提案の趣旨を説明することにした。
「えっと……今回の提案について説明を――」
「松山! あの提案は本気か?」
「うんうん。普通に追い返せばよくない?」
「古瀬さんには申し訳ないが……あそこまで言われて、そこまでする義理はあるのか?」
「私もミユに賛成かな」
ワタル、ミユのみならず、ナツとアキまでも口を揃えて俺の提案が甘すぎると非難する。
先ほどの主張で、古瀬さんは相当ヘイトを溜めたようだ。
「落ち着いて聞いてくれ。先ほどの提案の真の狙いは――佐伯の強化だ」
「大丈夫なのか? 敵に塩を送る羽目にならねーか?」
「前にも言ったが、佐伯とは袂を分かっただけで、敵になった訳ではない」
「向こうもそう考えているならいいが、大丈夫か?」
「先ほどの委員長からの話を聞く限り、佐伯は大丈夫だろう。敵――こちらに被害を与えてくる可能性があるのは相澤だ」
「それは大いにあり得るね! ってか、確定だよね!」
「アレは酷いよね」
ミユとアコの相澤に対する評価は最低を維持している。
「変な話をするが、今の俺たちって佐伯派と比べると幸せ――勝ち組だと思うんだ」
「だね! 私は今の生活楽しいよ!」
「俺も今の生活は気に入ってるな」
「前の拠点の生活と比べたら、天国だよな!」
アキを筆頭に仲間たちは、俺の意見に賛同してくれる。
「なんで俺たちは勝ち組になれたと思う?」
「ハルがいたから!」
「ハルの存在が大きいな」
「確かに、松山抜きだとここまで上手くはいかなかったな」
「さすがハルっち!」
「さすハルだね!」
「さすがは我が主でござる」
仲間たちが口々に俺を褒め称えてくれる。
「あはは……。みんなのその気持ちは嬉しいけど、もう少し現実的に分析すると、俺たちが一つになれたきっかけって――相澤なんだよね」
「え? なんでそうなるの……」
俺の答えにミユが露骨に顔をしかめる。
「ミユとアコとユコが俺たちの仲間になってくれたのは、アキが声をかけたのもあるけど、相澤のセクハラがきっかけだろ?」
「んー……そうなるのかなぁ?」
「山田もそうだろ?」
「むむ? 某は運命に従ったのみでござる!」
「相澤の存在が俺たちの結束を固くし、佐伯たちに深刻な被害を与えていると思うんだ」
「うへ……佐伯くんに同情しちゃうね」
「確かに……佐伯には同情するな……。良くも悪くも相澤という存在が俺たち――転移したクラスメイト全体に与える影響は大きいと思うんだ」
「厄介な奴だよね……」
「本当に厄介だよ。味方にしたら、内部を崩壊させる。とは言え、放逐したら何をしでかすか分からない。解決方法は――相澤
の存在を消し去ることだが、そこまで覚悟を決めれる者はいないだろ?」
存在を消し去ると、遠回しに表現したが、要は殺すと言うことだ。どれだけ嫌な奴でも顔見知りのクラスメイトを殺せるか? と問われれば、一般的な人間であれば首を横に振るだろう。
万が一、そのような事態に陥ったら、元の世界に戻ったときに、普通の生活が送れなくなる可能性が高い。
「相澤は佐伯の下に置いておくことが、俺たちにとってもベストなんだ」
「だから、佐伯を強化する……と?」
「うん。佐伯には相澤を支配下に置いといて欲しいからね」
「こわっ! ハルっちこわっ!」
「ハルくんが良い人になったと思ったら、普通に真っ黒だった件」
「ん。マハルは昔からそんな感じ」
「某……! 某……! 仁政の松山殿のご生誕か! とソワソワしていたのが恥ずかしいでござる! やはり松山殿は、王の器! 『覇王』でござる!」
山田は褒めているのだろうか? 貶しているのだろうか?
「とまぁ、これが先ほどの提案の狙いだが……何か意見はあるかな?」
問いかける俺の言葉に仲間たちは揃って首を横に振るのであった。
◆
一時間後。
古瀬さんたちはこちらの提案を受諾。
翌日。
急ピッチで用意した、大剣と槍と、杖を2本。そして、防具一式を2セットと、佐伯宛の手紙を渡した。
「こ、こんなにもいいのですか?」
「杖は木村さんと立花さんで使えばいいよ。大剣と防具一式は佐伯に渡しといて」
「この槍と防具は?」
「槍と防具一式は、乾くんが相澤じゃなく佐伯に従うようであれば、渡せばいい」
「わかりました……もう一つ、お願いしてもいいですか?」
「なに?」
「あの塩はどこで手に入れたのでしょうか?」
「あぁ……あれは岩塩だよ。って、実物見せたら委員長は学習して《鑑定》できるようになるんだっけ?」
「は、はい……」
「ほい」
俺は拳サイズにまで削られた岩塩を古瀬さんに投げた。
「いいのですか?」
「後は、自分で見つけてくれ」
「……ありがとうございます」
「最後に俺たちは拠点を転々として、川沿いをあちらへと進む予定だ。次にここに来ても、俺たちはいないからね」
「わかりました」
俺は今ある拠点とは反対の方角を指差し、伝える。
「それじゃ、気を付けてね」
「ありがとうございました。失礼します」
最後の挨拶を交わすと、古瀬さんと木村さんの姿は《ミラージュ》の効果で消失したのであった。
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