話し合い⑤
「クーデターを止める方法は――佐伯を強化することだ」
「え?」
俺の導き出した完璧な答えに古瀬さんは呆けた表情を浮かべる。
「相澤は『自分たちのほうが佐伯よりも強くなったから』クーデターを起こすんだろ?」
「え、えっと……佐伯くんのやり方とかも気に入らないみたいで……」
視線を送ると、木村さんはおどおどとした口調で答える。
「動機は……ともかく、佐伯のほうが強かったらクーデターは起こせないよね?」
「た、多分……」
「それなら佐伯が相澤たちよりも強かったら、クーデターは起きないだろ?」
「どうやって佐伯くんを強くするのでしょうか? まさか、レベル上げを手伝うとか言うのですか?」
「いや、そんなことはしない」
「じゃあ、どうするのですか!」
古瀬さんの精神はすでに限界を超えているのだろう。情緒がまったく安定しない。
「一つ確認だが、相澤が佐伯よりも数倍多く狩りに出かけている……とかは、ないよな?」
「サボることはあっても、多く狩りに出かけることはないですね」
「ってことは、レベルは佐伯と同等かそれ以下だ。そして、最初は佐伯のほうが相澤より強かった。しかし、今はその強さが逆転しようとしている……その理由は?」
「……わかりません」
古瀬さんは小さな声で呟く。
「――! あ! わかった! 佐伯は俺と同じタイプの【適性】なのか!」
ナツが大声で俺の問いに対する答えを口にする。
ナツと同じタイプ。つまり、佐伯の【適性】はナツの【適性】と同じく、レベル――ランクアップに必要な経験値が多い上級職と予測したようだ。
「残念。ハズレ」
「――な!?」
「最後に、佐伯と相澤のステータスを確認したとき、佐伯と相澤のランクに大きな差はなかった」
「と言うことは、佐伯と剛(相澤)は同じランクなのか?」
「多分……同じランクだと思う」
「それなら、理由は?」
「相澤が佐伯を超えたと手応えを感じたのはDランクに成長したときだろう」
「ん? 剛と佐伯は同じランクなんだろ?」
「仮に違うランク――相澤のランクほうが上ならすでにクーデターを起こしているだろう」
「うんうん。あり得るね!」
「相澤くんってどうしようもないよね」
「アキっち! あんなのにくん付けとかいらないし!」
俺の推測にミユが首を何度も縦に振る。
「それで……その理由というのは何ですか?」
仲間内で盛り上がっていると、古瀬さんが低い声音で問いかけてきた。
「武器の差だよ」
「……武器の差?」
「佐伯には最後に伝えたが、佐伯の――【竜騎士】の適性武器は大剣なんだよ」
「それは知っています」
「知ってる……? あぁ……それが委員長の【特性】なのか。凄いね」
「そんなことより、どういうことなのかわかりやすく説明して下さい!」
「わかりやすくね……んっと、この世界ってさ、レベルがあったり、ステータスがあったり、スキルがあったり……まるでゲームの世界みたいな世界だよね」
「昨今のラノベの世界も同じでござる!」
「GOの世界のほうがもっと繊細で素敵」
余計な茶々を入れてくる山田とメイを無視して、言葉を続ける。
「ゲームってさ、キャラクター――自分を強くする方法は3つあるんだよ。一つはPS――プレイヤースキルを向上させること。一つは経験値を稼いでレベルを上げること。そして、最後に一つは――装備品を更新すること」
「あ! うちわかったかも!」
俺の言葉を聞いて隠れゲーマーのミユが答えにたどり着く。
「プレイヤースキルとレベルは狩りを続けていれば、成長するよね。でも、武器は? 宝箱でも落ちていれば話は別だけど、この世界に転移してから、そんな話は聞いたことがない。俺たちの場合は、【鍛冶師】の馬渕が集めた素材から新しい武器を作ってくれるが――佐伯たちは?」
「ゴブリンが使っていた武器を利用している……」
「佐伯たちは武器の更新ができていないんだよ。でも、一人だけ武器が強化され続けているクラスメイトがいるんだよ」
「……それは《魔拳》を習得している相澤くんですね」
「正解。相澤の武器は――己の拳だからね」
《魔拳》の効果は知らないが、恐らく素手による戦闘力を上昇させるスキルなのだろう。
「更に言えば、今回の状況で一番不幸なのは佐伯だな。武器を供給してくれるゴブリンは、剣、槍、斧、短剣と様々な種類の武器を扱うが、大剣は扱わないからな」
「弓も落としてくれないけど、馬渕くんに感謝だね」
言われて見れば弓も落とさないし、刀や鞭などの武器も落とさない。ござる口調の山田が【侍】と【刀の才】を選んでなくて、本当によかった。
「そもそも、相澤が一番強いってこと自体がおかしな話なんだよ。あいつはクラスメイトの中で唯一【特性】を習得していないからね」
唯一の無能者なのに、あそこまで偉そうにできるのは一種の才能だろうか? ほんとうに、どうしようもない奴だ。
「話を戻しますが、つまり佐伯くんを強化すると言うのは……先ほど話に出た馬渕くんが佐伯くんの装備品を作ってくれる……ということでしょうか?」
「待望の装備品って手土産を持って帰れば、佐伯は快く受け入れてくれるだろう。これが2つの問題を解決できる俺の提案だけど、どうかな?」
「……わかりました。でも、いいのですか?」
古瀬さんは俺の提案を受け入れると同時に、後ろでやり取りを見守っていた仲間たちに視線を送るのだった。
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