話し合い④

 突然ストレートな言葉を発したアキに全員の視線が集中する。


「え? だって、古瀬さんの言っていることおかしいよ。『助けて』って手紙に書いてあったから心配になって来たけど、いきなりリーダーを獅童くんに変えろとか無茶苦茶だよ」


 アキはあっけらかんとした口調で告げるが、目は据わっていた。


 あ、この状態のアキを見るのは久しぶりだな……。


 昔からアキと口論になってもほとんど俺が言いくるめていたが、この状態のアキに勝てた記憶は一切ない。


「わ、私は、みんなの……! クラスメイト全員のことを考えて、最善策を伝えただけです!」

「古瀬さんにハルの何がわかるの? ハルがどれだけ悩んだのか、どれだけ頑張ったのか、どれだけ苦しんだのか……古瀬さんにハルの何がわかるって言うの!」


 激高する古瀬さんに対し、アキも言葉に感情を乗せて返す。


「聞いてください! 私は――」

「うるさい! あなたの理想を私たちに押し付けないで! あなたの理想に私たちを巻き込まないでよ!」


 アキはついに感情を爆発させてしまう。


「わ、私は……」


 アキに気圧けおされ、古瀬さんは先程までの勢いを完全に失ってしまう。


「うちもアキっちに賛成かなー。最初がどうとか、昔がどうとかは関係なく、今はハルっちをリーダーとして信用しているからね!」

「私もハル派だよー」

「俺は昔からずーっとハルを信じてる! ハル派だ!」

「ハッ! 確かにここいる連中は全員ハル派だな」

「然り、某は心身共に松山殿にすべてを預けているでござる」

「ぼ、僕も……ハルくん派だから……」

「お、俺もハルくん派だ!」

「わ、私もハル派だよ!」

「ん。私はマハル派」


 仲間たちが一斉にアキを援護する。


 んー、みんなの気持ちは有り難いが……この流れはあまりよろしくない。


 こうなってしまえば、古瀬さんを受け入れることは確実に不可能だ。俺自身、受け入れるつもりはなかったから、それは問題ないのだが……大切なのは感情に左右されずに目に見えるメリットを拾うことだ。


 このままだと、古瀬さんと再会したことで得たメリットは……仲間たちの団結力が上がった……とかか?


 いや、すべてが終わってしまえば後味の悪さだけが残った無意味な話し合いだった……と、なるだろう。


 何より、このまま終わってしまえば、明確なデメリットとして――という敵が生まれただけになってしまう。


 モブだった俺の経験から学んだ、世知辛い世界で生き残るための処世術は――敵を作らないことだ。


 古瀬さんたちを迎えないのは既定路線として、どのように軌道修正をすべきだろうか?


 言いくるめるなら、意気消沈している今が好機だろう。


「古瀬さん、一ついいかな?」

「何ですか……」


 答える古瀬さんの声に力はないものの、その表情からは明確な俺への憎しみを感じることができる。


「リーダーとして答えるけど、俺たちは残念ながら古瀬さんを迎え入れることはできない」

「……」


 答えを告げるが、古瀬さんはうつむいたまま何の反応も示さない。


「今回は主義主張が合わなくこのような結果になってしまったが……古瀬さんは俺たちの敵じゃないし、俺たちも古瀬さんの敵じゃない。最も避けるべきことはクラスメイト同士の争いだ」

「……何が言いたいのですか」

「俺たちは古瀬さんと木村さんを受け入れることはできない訳だが、古瀬さんはどうするの? ―― 


 俺は慎重に言葉を選びながら、布石を置く。


「――ッ!? も、戻れるわけないじゃない!」

「古瀬さんと木村さん……二人だけでこの世界を生き抜けるの?」

「何を……! 何を言いたいのよ!」

「迎え入れることはできないが、古瀬さんは大切なクラスメイトだ。佐伯のところに戻れるように協力しようか? ついでに、さっき聞いたクーデターも解決する……って言ったらどうする?」

「……解決? 力づくで相澤くんたちを制圧でもしてくれるのかしら?」

「ハハッ、まさか。クラスメイト同士の争いは最も避けるべきことだって、さっき言ったでしょ」


 俺は慎重に言葉を選んで……①の未来――古瀬さんにはお帰り頂いて、ついでに向こうの問題を解決してもらう、へと誘導する。


「ならば、どうするのですか?」


 こちらがゆっくりとした口調で話していたお陰か、古瀬さんもようやく言葉に冷静さを取り戻す。


「すでにクーデターが起きていたら手遅れだが、まだ起きていないなら止められる」

「クーデターが起きていたらどうするのですか?」


 え? いきなり、その質問に飛ぶの? まずはクーデターの止め方に興味を持とうよ……。


「えっと……クーデターが起きていたら……そうだな……相澤たちが血迷って虐殺とかをしていない、という前提にはなるが、反相澤派を引き抜いて、その人たちと行動を共にすればいい。木村さんと二人で行動するよりもずっと安全だと思うよ」

「他人事ですね」

「俺程度の器だと、自分と俺を信頼して付いてきてくれる仲間たちを守ることで精一杯だからな」

「先ほどの意趣返しですか?」

「ハハッ、そう聞こえたのなら、すまない」


 俺は苦笑する。


「それで、どうやって相澤くんたちのクーデターを止めるのですか?」

「クーデターを止める方法は――」


 俺は明るい未来に向かって、頭をフル回転させるのであった。

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