話し合い②

「リーダーは松山くん……?」

「そうだ。ハルがリーダーであることが――」

「えっと、二人の話に割り込んで申し訳ない! 委員長にいくつか質問してもいいかな?」


 リーダー論に発展して、両者に感情的な決裂を生むと……肝心な話を聞く前に、仲違いしてしまう。


 先に情報を得るべきだ。


「ハル、ごめん……熱くなった……」

「はい? 何でしょうか?」


 ナツが素直に引いてくれると、古瀬さんの意識が俺へと移り変わった。


「相澤たちが今になってクーデターを起こした理由は何?」

「それは、絶対的なリーダーである獅童くんが――」

「できれば、その話を直接聞いた木村さんが教えてくれないか?」


 先程の古瀬さんの話によれば、相澤たちのクーデター情報を実際に聞いたのは木村さんだ。木村さんまで、『獅童くんが!』と言ったら、お手上げだが……別の理由があるなら是非知っておきたい。


「え、えっと……今一番強いのは佐伯くんなんだけど……その差は縮まっているらしくて……えっと……今は相澤くんたちのほうがレベルは高くて……『佐伯の時代はもう終わった。今でも余裕だろうが、念の為次レベルアップしたら……誰が真のリーダーか教えてやろうぜ』って言ってたの……」


 木村さんの説明は、古瀬さんのようにわかりやすくはなかったが……重要な情報がたくさん隠れていなかったか?


 えっと、まとめると……


 ①今、一番強いのは佐伯。

 これは、【特性】による恩恵だろう。俺たちの中でもワタルとアキとメイの戦闘力は頭一つ飛び抜けている。理由は個々のセンスもあるだろうが、【斧の才】、【魔力の才】、【速さの才】と戦闘に直結する【特性】の恩恵が大きい。


 佐伯の【特性】は【力の才】……恐らく佐伯の力は他のクラスメイトと比べて、かなり上なのだろう。


 対して、内海は【耐久の才】。これは、生存には直結するが……格下との戦闘ではあまり体感できない。木下は【隠密の才】。これはアコと同じく便利【特性】の一つだろうが、潜む必要がなければ効果は発揮しない。村井は適性が【僧侶】だから……戦闘を期待するのは酷だ。


 最後に、相澤に至っては無特性だ。


 正直、俺が相澤の立場だったら……絶望から立ち直れなかったと思う。


 ②相澤たちのほうが佐伯よりもレベルが高い。

 これは、ナツと同じ現象だ。佐伯の【適性】――【龍騎士】は最上級職なのだろう。


 ③相澤は自分の強さが佐伯を超えていると自負している。

 僅かなレベル差――正確にはランク差だけで、そこまで大きく力の差を埋めれるのだろうか?


 俺たちが佐伯たちと袂を別つた時点で、佐伯はすでにEランクだった。Eランク以降はなかなかランクアップをしない。聞いた話では、佐伯たちが戦っているモンスターは未だにゴブリンとウルフだ。相澤たちがすでにCランクになっているのは考えづらいが……すでにCランクに到達したのだろうか?


 相澤の【適性】は【魔闘士】。


 【魔闘士】はいわば俺の適性――【魔法剣士】の素手verだ。必要経験値は俺と同じくらいだと思うのだが……【特性】がないと、実は必要経験値が少なくなるメリットがある? もしくは、素手だからその分必要経験値が少ない?


 ――!?


 あぁ……なるほど。そういう訳か。


「もう一つ質問いいかな? 木村さんも戦闘に参加していたんだよね?」

「うん。ほとんど荷物持ちみたいな感じだったけど……」


 荷物持ちか……木村さんは異世界転移モノでは鉄板ともいえるスキル――《ディメンションボックス》を習得している。簡単に言ってしまえば、アイテムボックスだ。


 この話を聞いたときは、思わず仲間に迎え入れるべきか? と心が大きく揺らいだものだ。


 っと、今は目の前の話に集中だな。


「木村さんから見て、一番強かったのは誰?」

「え、えっと……佐伯くんか……相澤くんかな……」

「ちなみに、佐伯の武器はやっぱり槍?」

「うん」

「その槍はゴブリンが使っていた槍で、内海たちの武器もゴブリンが使っていた武器だよね?」

「うん……そうだよ」


 よし。答え合わせ完了。


 その気になれば、向こう側の問題はこちらで解決ができるな。


 古瀬さんからの手紙を読んだときに、俺はあらゆる可能性を分析し、シミュレーションした。


 俺が最優先すべき目的は――生き残ること。次点で仲間たちの安全だ。


 安心してこの世界を渡り歩ける自信が付いたなら……次なる目的として、元の世界に帰る方法を模索するつもりだ。


 そこで、させられた現状で、生き延びるためのキーパーソンは誰なのか? と考えた。


 その答えは――相澤だ。


 先の佐伯との派閥争いでこちらの言い分をすべて通すことができた――言い換えるなら、勝利できた最大の要因は、相澤だ。


 見ず知らずの人間でも気まずいのに、見知ったクラスメイト同士で殺し合いなんて生じれば、勝ったとしても人間性を失うだろう。そうなってしまえば、元の世界に帰還しても健全な人生を歩むことは不可能だ。


 相澤を仲間に迎えることは論外だ。


 しかし、向こうのリーダーが相澤になってしまえば……最悪の未来が起こる可能性が非常に高くなってしまう。


 どこかで一人野垂れ死んでくれれば最高だが、それが叶わないのであれば、獅子身中の虫とでも言うべきキーパーソンの相澤を佐伯が飼い慣らしてくれることは、こちらにとって大きなメリットになっていた。


 んー……選択肢は3つか。


 ①古瀬さんにはお帰り頂いて、ついでに向こうの問題を解決してもらう。


 ②古瀬さんを仲間に引き入れた後、向こうの問題を解決する。


 ③一層のこと、相澤、木下、内海、村井以外のクラスメイトをこちらに秘密裏に迎え入れる。


 ①が理想的な未来だが……さて、何と説得すればいい?


 俺が頭を抱えていると、


「私からも一つ質問してもいいでしょうか?」


 古瀬さんから先に質問を投げかけてきたのであった。

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