消えた気配
「手紙を置いたらすぐに来るのかな?」
「すぐに来れる場所にいたのなら、手紙を発見したときに声を掛けてくるだろ」
「だよねー」
「アコ、《索敵》の範囲内に反応は?」
今回アコを連れてきたのは《索敵》をしてもらうためだ。そこまでしないとは思うが……手紙自体が罠で相澤たちが奇襲を仕掛けてくる可能性はゼロじゃない。
仮拠点まで残り500メートルほどの地点で、アコに《索敵》をお願いした。
「範囲内にいるのはゴブリンだけかな?」
アコの申告によれば、成長したアコの現在の《索敵》有効範囲は600メートル。100メートル以上離れた場所は集中しないと把握できず、距離が離れるほど負担は大きいらしい。
常に索敵状態とはいかないが……有用性はトップクラスに高い【特性】であった。
「んじゃ、行きますか」
安全を確認した俺たちは仮拠点へと向かった。
「――《ウィンドカッター》! お終いっと♪」
仮拠点跡地にたむろしていたゴブリンを掃討。
「ナツ、手紙を頼む」
「わかった」
ナツが書いた手紙を破壊されて木材と化したベッドのあった場所に置いた。
手紙の細かい内容はナツに一任した。俺が口出しをしたのは、時間の指定。毎日12:00にこの場所に来る。期限は今日から一週間と言う文言だけだ。
古瀬さんたちのスマホの充電は切れていると思うが……アキ曰く、古瀬さんは腕時計は付けていたらしいから大丈夫だろう。
現在の時刻は11:00。最短で1時間後には会えるはずだ。
「手紙は置いてきた。どうする?」
「少し早いけど、昼飯にするか」
昼食の準備を始めると……
「――! あれ? 反応がある」
アコが立ち上がり、こめかみを手で押さえて集中する。
「委員長か?」
「うーん……委員長なのかわからないけど、2人分の反応があるよ」
「2人分か。距離は?」
「ここから500メートル。仮拠点から200メートルほど離れた場所かな」
「他に人の気配は?」
「んー……最大限広げて《索敵》してるけど、いないかな」
「ハル、どうする?」
「んー……アコ、委員長と思われる反応は仮拠点に向かっているのか?」
「動いてないから、わからないかな」
「仮拠点の近くで待機するか」
「待って!」
仮拠点の近くで待機して様子を見ようとしたら、アコが大声で制止する。
「ん? どうした?」
「消えた……」
「――?」
「2人分の反応が消えたの」
「は?」
アコの言葉に全員が動揺する。
「ま、まさか……や、やられた……」
ナツが震える声で呟く。
「ううん。それはないと……思う。2人の近くにモンスターの反応は無かったから」
「ん? アコの《索敵》の範囲外に移動したとか?」
アキがもう一つの可能性を示唆する。
「ううん。移動しただけなら、《索敵》で捕捉できるよ。本当に2人の反応がパッと消えたの」
アコは首を横に振り、困惑する。
2人の反応がパッと消えた……?
――!?
ま、まさか……あり得るのか?
「ハルどうしたの?」
「何か心当たりがあるのか?」
表情に出てしまったのだろう。アキとナツが俺に問いかける。
「推測だが……木下の【特性】を覚えているか?」
「たしか【適性】は【暗殺者】で……【特性】は【隠密の才】!?」
「それじゃ……アコの探知した反応は古瀬さんじゃなくて、木下くん?」
「わからん……そもそも【隠密の才】の詳細が不明だからな」
そもそも【隠密の才】で隠れられたとして……他の人の気配も消すことができるのか?
「ハル、どうする?」
「警戒レベルを上げ、仮拠点の近くで様子を探ろう」
俺たちは仮拠点の近くに潜み、様子を探ることにした。
◆
仮拠点の近くで息を殺して潜むこと10分。
「……え? な、なんで……」
何もない空間から、聞き覚えのある女子の絶望に包まれた声が聞こえた。
「
先程とは違う女子の声が聞こえると、
――!?
誰もいなかったはずの空間から、2人の女子――委員長と木村さんが姿を現し、ナツの置いた手紙を手に取った。
魔法……? スキル……?
――!
姿を現した2人は《鑑定》可能だ。
俺は仲間たちを早まって動かないように手で制し、2人を《鑑定》した。
『種族 覚醒者
適性 学者
特性 知識の才
ランク F+
肉体 G
魔力 F
スキル 学習(F)
多言語 』
委員長は、【学者】と【知識の才】を選択したようだ。
委員長らしい【適性】と【特性】だが、これも佐伯が指定したのだろうか?
『種族 覚醒者
適性 結界師
特性 空間属性の才
ランク F++
肉体 F
魔力 F+++
スキル 結界(F)
空間魔法(E)
→ディメンションボックス
→ミラージュ
→杖技(F) 』
木村さんは、【結界師】と【空間属性の才】を選択したようだ。姿を隠したのは、語感的に《ミラージュ》という魔法だろうか?
「アコ、周囲に気配は?」
「ないよ」
「消えた気配は……この2人で合ってるか?」
「うん」
伏兵が潜んでいる心配はなく、ステータスを見る限りは……いきなり攻撃を仕掛けてくる心配もなさそうだ。
2人はナツの書いた手紙を読み、腕時計で時間を確認している。
「ナツ」
視線を送ると、ナツは静かに頷き立ち上がった。
「古瀬さん、木村さん。獅童です。今からそちらに向かうので落ち着いて下さい」
ナツは木の陰から声を掛けると、ゆっくりと2人に姿を現したのであった。
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