手紙発見

 拠点に移住してから14日目。


「んー……もう少し釘が欲しいな」

「馬渕に頼めば?」

「馬渕くんは、今獅童くんの新しい盾の製作に忙しいから……」

「なるほど」

「ん? どうしたのー?」


 沼田と世間話をしていると、アキが声をかけてきた。


「沼田は新しい家具を作るのに大量の釘が欲しいが、馬渕は今忙しいから頼みづらいらしい」

「ふむ……。釘なら前の拠点に残ってない?」

「釘なら嵩張かさばらないからこっちに持ってきただろ」

「ううん……そうじゃなくて、最初のベッドにいっぱい使ってなかったっけ?」

「なるほど……前のベッドに使っていた釘って再利用できるのか?」

「う、うん……ま、曲がったりしてなかったら……だ、大丈夫……」


 沼田はいつになったら女子に慣れるのだろうか? 聞いた話ではユコとは普通に話せるらしいが、ユコ以外の女子だと今でも緊張するみたいだ。


「んじゃ、今日の狩りは仮拠点に向かうか」

「おー! イイね!」


 こうして、俺たちは以前住んでいた仮拠点に向かうことになった。



  ◆



「うへ……ゴブリンが私のベッドで寝てるよ……」

「某のベッドではゴブリンが飛び跳ねて遊んでますな」

「ん。私の布団グチャグチャ」


 俺たちの以前住んでいた仮拠点はゴブリンの遊び場と化していた。


「とりあえず、掃討するか。ベッドが燃えて釘が使えなくなったら意味ないから、火属性の魔法は禁止な」

「オッケー!」

「承知!」

「ん」


 ――《エンチャントウィンド》!


 仮拠点にたむろっていたゴブリンの掃討を開始したのであった。


 10分後。


 10匹以上いたゴブリンを苦戦することなく掃討。


 今の俺たちであれば、ゴブリン程度は余裕で倒せる。初めて戦ったモンスターと戦闘することにより、自分の成長を感じられた。


「適当にベッドを破壊して釘を回収しようか」


 釘抜きなど便利な道具は手元にない。原始的で野蛮だが、一番手っ取り早い方法で釘を回収することにした。


 釘を曲げないように、慎重にフレーム部分のみを破壊しながら、板ごと釘を回収していると……、


「おろ? 忘れもの……?」


 アキが何かを発見したようだ。


「どうした?」

「忘れものなのかな?」


 アキの手には土で汚れた手紙があった。


「手紙……? そのベッドは……?」

「私のだよ」

「ん? アキの手紙じゃないのか?」

「うん。私のじゃないよー」

「誰のだ?」

「んっと……獅童くん宛の手紙みたい。差出人は……古瀬さん??」

「は? ナツが委員長からもらったラブレターとかなのか?」

「んー……どうだろ? でも、獅童くんのベッドから私のベッドはかなり距離があるよ」


 今の拠点でもそうだが、男子と女子の寝床は精神衛生上離してある。


「勝手に見るのはまずいよな?」

「ダメ! 絶対にダメだよ!!」

「だよな……とりあえず、拠点に戻ったらナツに渡すか。手紙はアキが預かっていてくれ」

「了解!」


 俺たちは釘回収を再開し、目につく釘を全て回収したところで、拠点へ戻るのであった。



  ◆



「ただいま」

「たっだいまー!」

「ん? 早くないか?」

「お! 早いな!」

「お、おかえり」


 拠点に戻ると、入口付近にいたナツとワタルが駆け寄ってきた。


「今日は沼田の依頼で仮拠点に行って釘の回収だったからな。経験値稼ぎは今から改めて行ってくるよ」

「そうなのか。あまり無理はするなよ」

「大丈夫。レベルが上がったお陰なのか、体力も随分ついたからな」

「ハッハッハ! 疲れているなら代わるぞ?」

「不要でござる。某たちも鍛えたいでござるからな」

「みんな狩り好きだよねー」

「ん。レベリングが楽しいのは当然」


 幸か不幸か……ここにいるメンバーは全員狩り――正確には経験値稼ぎが好きだった。自分の努力が報われる――成長が目に見えて体感できるのが楽しいみたいだ。


「とりあえず、沼田に釘を渡してから……って、その前に、アキ」

「ほほーい」


 アキはカバンの中から先ほど拾った手紙を取り出した。


「ん? 辻野さん、それは?」

「うぉ!? ま、ま、ま、まさか……!?」


 アキの取り出した手紙を見て、ワタルが何故か興奮する。


「獅童くん宛の手紙だよ」

「手紙?」

「うん! 大切な手紙なのかな? 忘れるのは感心しないなぁ!」

「――?」


 にまにまと笑うアキの反応にナツは首を傾げる。


「ん? 獅童くんの手紙だよね?」

「いや、知らない手紙だ……」

「ふぇ? 『獅童くんへ』って書いてあるよ?」

「俺宛?」

「うん。送り主は古瀬さんかな?」

「古瀬さん……?」


 ナツは手紙に心当たりがまったくないようだ。


「確認だが、ナツはこの手紙に心当たりはないんだな?」

「ないな」


 古瀬さんがナツ宛の手紙を誰かに預けていた可能性もあるが……そうでないのなら?


「なるほど……全員集めてくれないか」


 俺は手紙があそこに置かれたのかを知るために、全員集めることにした。



  ◆



 全員に確認したが、古瀬さんの書いたナツ宛の手紙のことを誰も知らなかった。


 回りくどいかもしれないが、高校生の交友なんてささいなすれ違いであっさりと壊れる。大切なラブレターを勝手に見た! とかで、起こる面倒な騒動を避けるためにも、これは必要な手順だった。


「誰も知らないんだな? ならば、ナツ……中身を読んでくれないか?」


 手紙はナツ宛だ。ならば、ナツが読むのが筋だ。ラブレターの可能性が捨てきれない以上、知らない第三者が読むのは失礼だろう。


「わかった」


 ナツは受け取った手紙の封を開け、まじまじと読み始める。


「――な!?」


 ナツの表情が一変する。


「どうした?」

「えっと……とりあえず……この手紙はここにいる全員が……少なくともリーダーのハルは知るべき内容だ」


 ナツは俺に手紙を差し出したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る