SIDE――古瀬①

 昨日、獅童くんが拠点から出ていきました。


 拠点に残ったクラスメイトの数は13人。クラスメイトは27人なので、半分以下になってしまいました。


 しかし、獅童くんたちが出て行く前から狩りには佐伯くんたちが行っており、食事に関しても宮野さんが松山くんのように食材を見極められるようになったので、生活に大きな変化はありませんでした。


 変化があったとするなら――空気。


 拠点の空気が険悪な感じになりました。


「里帆、いよいよ今日だね」


 私と同じくこの拠点に残ることを選んだ友達――木村咲きむらさきが緊張した面持ちで声を掛けてきました。


 現在、この拠点に残っているクラスメイトでゴブリンを倒していない者――『覚醒者』になっていないのは、私と咲だけです。


「古瀬、木村、いいか?」

「にしし……お邪魔しまーす」


 佐伯くんが立花さんと一緒に私と咲の元へ来ました。


「俺たちが把握できている【適性】と【特性】はこれだけだ。すべて網羅していないかもしれないが、参考にしてくれ」


 そう言って佐伯くんは手書きのノートを渡してくれました。


「え? 自分で選んでもいいの?」


 宮野さんからは、選択する【適性】と【特性】は佐伯くんたちが決めると聞いていました。


「【適性】と【特性】は本人たちに決めさせたほうがいいだろ……って、佳奈が言うからな」

「にしし……自分の道は自分で決めるみたいな? アレっしょ! 由緒独断! みたいな?」

「由緒独断……? ひょっとして、唯我独尊?」

「さすがはいーんちょ! あったまイイね!」


 唯我独尊の意味は『自分が優れていると自負すること』。どちらにせよ、言葉の意味から察する意味は違いました。


「まぁ、アレだ……松山たちの仲間が先に選択してたら選べないから、候補を3つくらい用意しといたほうがいいのかもな」

「サクラっちたちもいるから、早めに覚醒しないといーんちょのなりたい【適性】はなくなっちゃかもよー」

「わかりました。佐伯くん、立花さん、ありがとうございます」

「準備ができたら声を――」

「冬二! いつ出発すんだ?」


 佐伯くんたちが立ち去ろうとした瞬間、相澤くんたちがやって来ました。


「古瀬たちの準備ができたら出発する」

「準備ってなんだよ? どうせ俺たちが瀕死にして、委員長たちはトドメを軽く刺すだけだろ?」

「古瀬たちには【適性】と【特性】を自分たちで選ばせようと思ってな」

「あん? 今までどおり冬二が決めりゃいいだろ? また、立花に何か吹き込まれたのか?」

「は? あーしは吹き込んでなんかないし!」

「あん? 早川たちに手を出すなとか……後、松山みたいな雑魚相手に、いもを引いたのもおめーが原因じゃねーのかよ!」

「相澤っ!!」

「でもな、これはダチとしての忠告だ。あんまり弱気過ぎると舐められんぞ! 大体、昨日だってあんな口だけ野郎の雑魚に――」

「相澤! 二度は言わないぞ?」

「チッ……わかったよ……。でもな、これは俺だけの考えじゃねーからな」


 相澤くんは口汚く罵りながら、立ち去りました。


「古瀬、すまなかったな。それじゃ、準備ができたら声をかけてくれ」

「にしし……いーんちょ、まったねん」


 佐伯くんと立花さんも立ち去り、私と咲だけの静かな空間が戻りました。


「なんか……怖いね……」

「うん……でも、今は自分たちのできることをやろう」


 私と咲は佐伯くんから渡されたノートを熟読するのでした。



 ◆



 1時間後。


「咲は決まった?」

「里帆は?」

「私は――【学者】と【知識の才】にするよ」

「え? 【学者】?」

「うん。私は将来学者になりたかったから。咲は?」

「私は――【結界術士】と【雷属性の才】にしようかなって思ってけるけど、どうかな?」

「うーん……両方とも聞いたことのない言葉だからなんとも言えないけど……選んだ理由は?」

「こんな世界だから……里帆を……ううん、偽善者ぶるのはよくないね。自分を守る力が欲しかったからかな。結界ってなんか守りに便利そうだし、雷って強そうじゃない?」


 こうして私たちはふわっとした理由で【適性】と【特性】を選択しました。


 1時間後。


 私たちは佐伯くんに連れられて、森の奥へと向かい……何度も嘔吐を繰り返しながらも、ゴブリンを倒すことに成功しました。


「どうだ? 成功したか?」

「うん……ありがとう……」


 私は不思議な空間で【学者】と【知識の才】を授かりました。


 学者は私のイメージしていたとは違いました。【学者】の習得しているスキルは――《ラーニング》。繰り返し経験を積むことで、対象の情報を得ることができる【適性】でした。


 何故、私がそんなことを知っているのか? と言えば、それこそが【特性】――【知識の才】の能力だったからです。


 例えば、様々な【適性】や【特性】の特徴を、魔物を倒したらレベルが上がる仕組みを、スキルを使用したらランクが上がる仕組みを……まるで一般常識のように私は知識として知ることができました。


「木村は?」

「え、えっと……【覚醒】はできたけど……【雷属性の才】は選べなかった……」

「チッ……だから、言っただろ! あいつらの好きにやらせると損するのはこっちだって!」


 咲の答えに相澤くんが悪態をつきます。


「それで木村は何を選んだんだ?」

「え、えっと……【空間属性の才】。火属性も風属性も水属性も雷属性も光属性も選べなくて……余っていたのは闇属性と土属性だったんだけど……何か惹かれなくて……それで悩んでいる内に残り5秒とか言われて……慌てて選んじゃって……」


 咲は泣きそうになりながら、言い訳のような言葉を呟きました。


「【空間属性の才】? それは何ができるんだ?」


 【空間属性の才】がもたらす恩恵を私も知識として知っているけど、当の本人である咲のほうが相応しいでしょう。


「えっと……今できるのは……空間を誤認識させる《ミラージュ》とアイテムを異空間にストックする《ディメンションボックス》って魔法かな」

「――!」

「お! ソレって待望のアイテムボックスじゃねーか! おいおい! すげーな! 棚ぼたじゃねーか!」


 咲の習得した《ディメンションボックス》の効果に相澤くんが歓喜します。


 こうして、私と咲も異能の力を持つ者――『覚醒者』になったのでした。



  ◇



 獅童くんたちがこの拠点を出てから25日後。


 あの日以来、心を入れ替えたように私たちにも気を遣うようになった佐伯くんと、日増しに態度が増長する相澤くん。


 なんとか取り繕っていた、かりそめの平和は崩壊へと向かっていたのでした。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


私もとあるコミュニティーに所属していますが……獅子身中の虫が誰かは判明していても、中々追い出せないんすよね……。(という心労をぶつけたいエピソードになりますw)


一部読者様から教えて頂いた矛盾点を修正しました。

最初に怪我したクラスメイト早川→宮野(クラス会議②)

菅野の特性を雷属性の才→風属性の才(☆人物紹介)


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