SIDE―早川④
松山たちは上流の方へと移動したので、私たちは下流のほうを目指すことにした。
「3人だけになったな」
「にしし、うちはサクラとシオリが居れば平気だよー」
「まずはゴブリンを倒す。そこがスタートライン」
「次は……次こそ逃げはしない!」
「サクラ、慎重に」
「任せろ。必ずや
「違う。ゴブリンを倒したあと」
「――?」
気合を入れた私の言葉をシオリが冷静に否定する。
「ゴブリンを倒したら、松山たちの言葉が真実なら【適性】と【特性】を得ることができる」
「時間制限があるみたいなことも言ってたねー」
「無数にあるらしいが、私は剣が使える【適性】と【特性】を選択しようと思う。どうだろうか?」
「良いと思う。サクラの剣の腕は一流だから」
「剣の腕と言っても……剣道――スポーツだがな」
「それでも、他の人よりアドバンテージはかなり大きい」
「そうなると、サクラは何がいいんだろ? えっと……松山くんが【魔法剣士】で、獅童くんが【聖騎士】……カナは【聖女】だっけ?」
マコトがクラスメイトたちの【適性】を挙げていく。
「あと、気になるのは……口論中に出た佐伯の言葉――『【賢者】を選べなかった』」
「【賢者】を選べなかった理由は……松山たちの仲間が先んじて選んだからか?」
「そうだと思う。だから、サクラに一つお願いがある」
「何だ?」
「選べなかった【適性】と【特性】と選べる【適性】と【特性】を覚えて欲しい。佐伯の言葉通りなら、初めてゴブリンを倒した人は把握できるはず」
「実際に目にしてないから約束はできないが……善処する」
そもそも、どうやって【適性】と【特性】とやらを授かるのか……その方法すらも知らない。
「うん。期待してる」
こうして私たちは見知らぬ異世界で異形の化け物――ゴブリンを探すことになった。
◆
クラスメイトたちと離別してから30分。
川沿いを下流へと進んでいると、あっさりとゴブリンを発見した。
ゴブリンの数は3匹。
3匹か……こちらも3人……いけるのか……。
覚悟を決めたはずなのに、剣を持つ手が震える。
「どうする?」
「様子を見て1匹になるまで待とう」
ゴブリンは幸いにも、こちらに気付いていない。
私たちは静かにゴブリンが1匹になるのを待った。
10分ほど待つと、2匹のゴブリンが川辺から離れて森の奥へと移動。残された1匹のゴブリンは、川辺で水をパシャパシャとして遊んでいる。
「いってくる」
「気を付けて」
「無理しちゃダメだよ」
私はカナから貰った剣の柄を強く握り締め、ゴブリンへと疾走。
できる……できる……できる……私ならできる!!
「ハァァァアアア!」
私は背後から袈裟斬りで斬り裂くが、
「ギィ!?」
ゴブリンを葬るには至らず。
「まだだ!!」
私は振り返ったゴブリンの喉元を刺突したのであった。
――!
(素質を覚醒せし者よ……我が元に来たれ)
私の意識は混沌へと沈んだ。
私は全ての感覚が奪われ、謎の声だけが脳に直接響く不思議な空間で、2枚の巨大な石板を提示された。
この石板に刻まれた名称が……【適性】と【特性】?
私はシオリに頼まれた内容を思い出し、必死に石板に刻まれた名称を記憶する。
『残り時間は5秒です』
クッ……本当に短いな……。
――【侍】と【刀の才】!
私は目について惹かれた【適性】と【特性】を念じるのであった。
――!?
再び意識が混濁。
気付けば、目の前には醜悪なゴブリンの死体。
「サクラ!」
「大丈夫?」
そして、シオリとマコトが私の元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫だ。多分だが……【適性】と【特性】を授かった」
意識が混濁する前――ゴブリンを倒す前と比べると、まるで別人のような、言葉には代えがたい凄い力を自分の身体から感じる。
「それで何を選んだのー?」
「【侍】と【刀の才】だ」
「わぉ! サクラっぽいね!」
「――!?」
選択した【適性】と【特性】を告げると、マコトは嬉しそうに笑うが、シオリは目を見開いて驚く。
「ん? シオリ、どうかしたのか?」
「サクラ……ところで【剣の才】って【特性】はなかった?」
「――! 凄いな! なんでわかったのだ?」
「はぁ……」
私は推察の凄さに驚嘆するが、シオリは頭を抱えて盛大にため息を吐く。
「ん? どうした? 私はなにか失敗したのか……」
私はシオリの態度を見て不安に襲われる。
「失敗というか……サクラ、貴方の手にしている武器は?」
「カナから貰った剣だな」
「そう……剣よ。【侍】と【刀の才】は確かにサクラっぽいけど……刀を入手できるのは中盤以降というのは常識よ」
「じょ、常識なのか……」
私は聞いたこともない常識に狼狽える。
「まぁ……大器晩成と思えば……将来的にはありか」
【刀の才】を選択したのが、シオリ的には間違いだったようだ。
ならば、事前に教えてくれればいいのだが……それを言ったところで、今更だろう。
その後、2人に不思議な空間で提示された【適性】と【特性】を覚えている範囲で伝達したのであった。
1時間後。
マコトとシオリもゴブリンを倒すことに成功。
マコトは【義賊】と【雷属性の才】。シオリは【錬金術師】と【創造の才】を授かった。
マコトは『格好良くない? 』と言う理由で【雷属性の才】を選択したことにより、シオリが再び頭を抱えたが、結果として雷魔法を使えるようになったので結果オーライのようだ。
シオリは私とマコトの選択した【適性】と【特性】から、バランスを考えて【錬金術師】と【創造の才】を選択したらしい。
【錬金術師】となったシオリは松山のように一部の植物などが《鑑定》できるようになり、拾った草花から『回復薬』が作成できるようになった。
また、シオリは草花の毒性の有無もわかるらしく……味はイマイチだが、餓死も免れることができた。
こうして私たちはようやくこの異世界でスタートラインに立ったのであった。
◇
クラスメイトたちと離別してから1週間。
川沿いを下流へと進んでいるうちに森を抜け、私たちは街を発見した。
そして、色々な出来事を経て……私たち3人はこの異世界で冒険者としての新たな人生をスタートさせたのであった。
―――――――――――――――――――――――
(あとがき)
後半はかなり巻いた展開となりましたが、これにてサイドストーリー(早川編)は一旦閉幕となります。(冒険者にするのがゴールでしたが、ゆっくりと書いたら終わりそうになかったので……汗)
ハルたちも上流じゃなく、下流へと進んでいたら冒険者ルートに進めたのですが……残念ながらサバイバルルートになりましたw
次話からはサイドストーリー(古瀬編)がスタートします。今度は、序盤をすっ飛ばして……ハルと佐伯が離別した後から物語が始まる予定でしたが……、(早川編ほど長くはならない予定です)
読者様は本編で絡むのはかなり後になりそうな勇者編と、本編に絡みそうな古瀬編はどっちが先に読みたいです??
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