SIDE−早川③
私たちは、カナから頼まれたこともあり、クラスメイトたちと行動を共にすることにした。
その夜、カナが再び私たちの元を訪れ、【料理人】になる気はないか……と尋ねられたが、辞退した。
翌日、私たちが辞退したからなのか、【料理人】になったのは宮野だった。
この日から、松山の【鑑定】と呼ばれる能力と、【料理人】となった宮野のお陰で、食事の質は劇的に向上した。
日増しに相澤たちの態度が増長するのは気に入らなかったが、私たちの魅力が不足しているのが原因なのか、もしくはカナが抑えてくれているからなのか……こちらにちょっかいを出すことはなかった。
シオリ曰く……、いや、今ではクラスメイト全員の共通認識となった異世界での生活にも慣れ始めたある日――私たちの運命を揺るがす事件が勃発した。
この集団のトップにいた佐伯一派と、獅童……いや、松山一派が衝突した。
衝突の原因は……松山たちが、佐伯たちに黙ってモンスターを倒していたこと。相澤がこれに激怒し、松山に詰め寄ったが、松山は堂々とそれに反論した。
なるほど……確かに、獅童ではなく、あのグループの中心人物は松山だ。
松山は、威風堂々とした佇まいで、佐伯を論破している。
「サクラ」
「潮時だな」
シオリの声に私は静かに頷く。
佐伯は――いや、親友のカナは私たちに隠しごとをしていた。
松山が言うように、佐伯がレベルアップの存在をクラスメイト全員に伝えていれば、未来は大きく変わっただろう。
松山はこの世界に飛ばされた初日に獅童を介してだが、モンスターを倒せば力を得られること、己が手に入れた力を隠すことなく伝えてくれた。
しかし、佐伯はレベルアップの存在を隠匿し、自らの仲間たちで独占しようとした。
「どうするのー?」
「当初の予定通り、ここを出る」
「松山と合流するのも面白いけど……私たちは声を掛けられなかったからな」
松山はすでに多くのクラスメイトを秘密裏に引き込んでいた。しかし、私たちは声を掛けられなかった。
「オッケー! でも……大丈夫かな?」
私たちが話し合っているときも、松山と佐伯は激しい論戦を繰り広げていた。このままいくと、論戦に留まらず……肉体的な争いに発展しかねない。
「残念だが、今の私たちでは彼らを止められない」
クラスメイト同士で殺し合う未来だけは避けたかったが……目の前の様子を見ていると、今にも殺し合いが始まりそうだ。相澤は殺意の籠もった視線を松山に浴びせている。
今の彼らは容易に異形の化け物を殺す能力を持っている。ただの喧嘩……には、ならないだろう。
「争いが始まったら、その隙に逃げよう」
佐伯一派も松山一派も、無関係の私たちにまで意識は割かないだろう。
いつ逃げ出すか……緊張した状態で言い争う佐伯と松山に意識を集中させていると、
「ならば、どうすると言うのだ!」
「出ていくよ。俺は……俺を信じてくれる仲間たちと一緒にここを出ていく」
――!?
松山は争うではなく、身を引くと宣言した。
その後、10人ものクラスメイトが松山と共にここから立ち去ることを選択した。
「松山を含めて9人かと思っていたら2人も増えていたのか」
「ハッ! てめーら後悔すんじゃねーぞ!」
「にしし……あーしはとーじとずっと一緒だょ」
佐伯一派は松山の選択を受け入れたようだ。クラスメイト同士で殺し合うという最悪の事態は避けられた。
この流れならわざわざ逃げ出す必要はないだろう。
「すまない。私たちもここから出ようと思う」
私は堂々とクラスメイトたちとの離別を宣言した。
カナは目を見開いてこちらを凝視するが、私たちの意思は変わらない。
「へ? 俺たちと一緒に来るってことでいいのかな?」
「いや、私たちは別の場所に行くよ」
松山の勘違いした言葉を訂正する。
「私はここに残るわ」
「里帆が残るなら、私も……」
里帆――古瀬はここに留まるようだ。
松山たちが立ち去った後、カナがこちらへと駆け寄ってくる。
「サクラっち、待って! 本当に行くの?」
「言ったはずだ。私たちに隠しごと、或いは不利益をもたらしたら、約束はできない……と」
「ち、違うの! 隠しごととかじゃ――」
「カナは私たちじゃなくて、佐伯を優先した……それがカナの選んだ答えだろ?」
「あーしは……とーじも大切だけど……サクラっちたちも大切だし……ズッ友だって約束したじゃん……」
「すまない。私は、もうカナを――佐伯を信じることはできない」
「うぅ……じゃあ、ちょっと! ちょっとだけ待って!」
「お、おい……」
カナは一方的に待てと告げると、こちらの答えも聞かずに佐伯の元へと走り出す。
まさか、佐伯たちを連れて来て……力ずくで引き留めるとか、ないだろうな?
この場からすぐに立ち去るべきか? しかし、可能なら自分たちの荷物だけは確保しておきたい。
私たちはカナの真意を読めずに身構えていたが……戻ってきたのはカナ一人。手には佐伯が管理していた武器を抱えていた。
「うぅ……ヒック……ほ、ほんとうは……あーしも一緒に……行きたいけど……あーしは最後までとーじの味方でいるって……ヒック……やぐぞぐ……したからぁ……」
カナは嗚咽混じりに泣きながら、抱えていた武器を私に差し出す。
「貰っていいのか?」
カナは嗚咽混じりき震えながら、頷いた。
「ありがとう……カナも元気でな」
「うぅ……うぅ……ごめんね……ごめんね……」
「謝るな。カナが悪いわけじゃない」
「あーしは……あーしと……サクラっちたちはズッ友だよね……」
「そうだな。私たちは離れていても友人だ」
私は泣きじゃくるカナの肩を抱いた。
その後、数日間過ごした寝床を撤去し……私たちはクラスメイトたちと離別したのであった。
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